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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第五話

「はぁぁー……」


盛大にため息を漏らしながら仰向けにベッドに寝転がる。流石に向こうの世界のような低反発素材というのはないのか、比較的堅い感触が背中一杯に広がった。

「なーんか、妙なことになっちゃったなぁ」

後頭部に両手を当てながら、オーレンはぼんやりと天井を眺める。


先ほど頂いた食事はどうやら夕食に当たるらしく、実際に剣の稽古を始めるのは明日にしようという流れになった。外を確認した時はまだ全然明るかったので、そんな時間だとは思わなかったのだが。けれど食事を済ますころ改めて外を見ると、驚くことにすっかり日が落ちていた。

メリルの話だと、ここではそれが当たり前だとのことだったが……日の出日の入りが早いのだろうか。システムウィンドウ上に表示された時計では、まだそんな時間でもなかったはずだった。


それはそれとして。現在はお風呂を頂いた後で、もうあとは寝るのみというタイミングである。一日の終わりにようやっと一息付けたところで、改めて今日一日のことが思い起こされる。


「今日……だけなのかはよくわかんないけど。こんなに色々立て続けに起こったのは、初めてじゃないかなぁ」


朝から順に挙げていくと。騎士団の演習であるライトニングボアの討伐への参加。そこでよくわからないうちに吹き飛ばされ、気が付けば『天空の仙境』とやらに迷い込み。そこで美しい女剣士であるメリルと出会って。そしてこれまた数奇なことにその彼女の弟子入りが決まった。まだ数えるほどしか目にしたことのないサドンクエストを添えて。


「……みんなどうしてるかなぁ」

呟きつつおもむろにフレンド欄を確認する。

相も変わらず、そこには『ワールドが違います』の表記が並ぶ。仲間たちの行方を確認することはできそうにない。加えて通信も不可だ。


「もし向こうもこんな感じだったら……、心配してるだろうなぁ」

今回の場合、行方をくらませたのはオーレン側になる。こちらとしては、仲間たちは恐らく無事であろうということがわかるのだが。一方彼らからすれば、オーレンの安否は不明のままであろう。


「……もしかしたら、死んだと思われてるかな」

多分リィンベルたちが真っ先に確認するのは、行方が分からなくなったあの平原一帯で、次点はラニルアータだろう。

転移アイテムを使ったり最悪死に戻りでもいいが、何かあればまず街に戻ると考えるはずだ。街に戻るアイテムが手元にあることは、皆把握している。それでも戻らないということは、転移禁止エリアにいるか……はたまた寿命が尽きたか。


普段であれば、時々見かける前者だろうとあたりをつけるのだが。今回は『ワールドが違います』などというよくわからない状態のため、そうとも言い切れない。

……実際は転移アイテムが使えないことが確認できているので、禁止エリアにいるが正解だ。仲間にそれが伝えられないのが口惜しい。


「……死んだと思われてたら嫌だな」


自分が死んだと思われた場合、仲間はどんな反応を示すだろう。皆声を上げて悲哀に暮れてくれるだろうか。……はたまた、地球と比べ死が近い世界なので、死んでも仕方ないと諦めに近い感情を抱くのだろうか。


「……帰っても、僕の居場所って残ってるかな?」


泣いてくれていたのなら、帰ることが出来れば多分喜んでくれるだろう。だが、死んだと割り切られていたとしたら……。「え? 生きてたの」みたいな反応が返ってきたりするかもしれない。いや、彼らがそんな薄情な反応を返すはずが――




「あああぁぁもう!」




嫌な光景が思い浮かんだオーレンは、それを払拭するために少し大きな声を上げた。そのまま傍に会った枕に手を伸ばし、仰向けだった体を横に倒して枕に顔をうずめた。


「……そんなわけ、ないじゃん」


そのままの姿勢で、オーレンは苦々し気にぼそりとつぶやく。




「どうしたのオーレン君?」



丁度近くにいたのだろう。突然のオーレンの叫び声を聞きつけたメリルが、扉の向こうから声をかけてきた。それに応答しようという気持ちは芽生えたのだが、その気力がすぐには湧かない。

「……入るわね」

そうこうしているうちに、断りを入れてメリルが扉を開けた。


「急に大声を出して、一体どうしたの?」

枕に顔をうずめるオーレンの頭上から気遣わし気な声が振ってくる。だが、オーレンは顔を上げることが出来なかった。


「……ごめんなさい。何でもないです」

「…………」


結局メリルの顔を見ることなく、枕を抱えながらくぐもった声を上げるオーレン。そんな彼にメリルは何かを感じったのか、しばし伏せる彼を茫然と見下ろしていたが、やがて近くに置いてあった木製の椅子に腰かけた。そして小さくため息を吐く。


「そんな湿った声なんて、何もなければ出るものではないわ。……何かあったの?」

メリルの声は、非常に優しいものであった。それはオーレンの同年代じゃとても出せるような雰囲気ではない気がして。頑なになっていた口が、自然と開きやすくなった気がした。




「……怖く、なったんです」

ぽつりとオーレンは呟く。



「いきなりよくわからないところに一人で飛ばされて。仲間とも連絡が取れないし。……しかも原因が僕自身にあって。僕が欲張ってアイテムを取りに行かなければって思うと……みんなの反応が怖くて。迷惑かけてないかなとか、死んだと思われたら嫌だなとか……僕がいないまま旅に出ちゃったらとか。そんなこと考えたら……こう、すっごい不安になって」


いくら旅人となって地球にいたときよりも強い力を持ったとしても、中身の部分は変わることはない。常に誰かが近くにいた生活をしてきた彼にとって、突然知らないところで一人放り投げられることは、非常に心細かった。そして承認欲求が強いことが災いし、突然の別離により自身の居場所がなくなるのではないかという危機感が苛む。

改めて自分で考えても、非常に面倒くさいと思う。そんな自己分析さらに悪感情を引き起こす……。そんなことをぐるぐると考えてしまったオーレンの心情は大しけで、不安感が胸を締め付けていた。


「……成程ね」

オーレンの独白が途切れたところで、メリルは彼の言葉を反芻するかのように瞳を閉じた。その後おもむろに立ち上がると、ゆっくりとした動作で枕を抱え込んでいるオーレンの横へと座り込む。



「……ごめんなさいね」

そうして彼女は、オーレンの頭を優しく撫で始めた。


「今すぐお仲間のところに戻してあげられれば良いのだけれど。下界に通ずる唯一の転移魔法は、間の悪いことに今朝使ってしまったの。再使用には時間のかかるものだから、暫くは使えないわ。だから申し訳ないけれど、その不安を今すぐ払しょくさせることはできない」

「だけどね、オーレン君」とメリルは優しく頭を撫でながら続ける。



「君がそこまで大切に思っているお仲間は、そんな簡単に君を捨てるような薄情な人なのかしら?」



そう問いかけると、少し間をおいて「……そんなことないです」とぼそぼそと聞こえてくる。そこにはほんの少しムッとした空気が感じられた。悪く言われるのが気に障るほど、オーレンは仲間を信頼しているのだろう。それなら、多分大丈夫だとメリルは思った。悩みの種そのものは取り払うことはできないだろうが、不安を安らげることは十分できそう。


「私もここに来る前は、仲間数人で色々なところを旅していたの。その道中、魔物との戦闘で下手をこいて見知らぬ土地で仲間とはぐれた時があってね。結構な高さの崖から転落したものだから、死んだと思われただろうなと思ったわ。そのうえ、ひと月ほど顔を合わせることが出来なかったから、もう今更顔向けできないだろうとも考えた。……けれど実際会ってみると、みんな私のことを待ってくれていたわ。みんなずっと心配していたと言ってくれて……普段冷静なやつが、こっそり涙を流してたほどには喜んでくれた。きっとオーレン君のお仲間も、ずっと待っていてくれているわ」


「…………そう、かな?」

メリルの言葉を受けて、オーレンはぎゅっと枕を抱く力を強くした。そのしぐさと彼の懇願するような物言いに、メリルはキューンと胸をやられる。思わずがばっと抱き着きたくなる衝動を何とか自制すると、きょろきょろと目を泳がせた。


「そ、そうよっ。だからそんな不安がらなくても大丈夫。何なら剣が扱えるようになって、さらに磨きがかかった自分を披露してやるって息巻くくらいでも問題ないと思うわ。それくらいなら、私が教えてあげるから」

「……だから、今日はゆっくりお休みなさい」と続けつつ、メリルは鼓舞するように二度ほどオーレンの頭を軽く撫でる。その後彼女はベッドから腰を上げ、部屋を後にしていった。




彼女が部屋から去った後も、オーレンは少しの間そのままの姿勢で固まっていた。


「……やばい、めっちゃ恥ずかしい」


そうして、ぽつりとつぶやく。

不安でいっぱいだった心情は、今や恥ずかしさで上書きされ、耳元まで真っ赤になったオーレンだった。





……ちなみに。

オーレンの部屋を去ったメリルのその後は、彼女の名誉のためにも割愛させていただきます――


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