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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第四話

明けましておめでとうございます。年末年始いろいろと忙しく更新が滞ってしまいましたが、

今年も頑張ってお話を進めていきたいと思います。

よろしければ、応援をよろしくお願いします。


「……全然手掛かりないな」

ぼんやりと目の前に広がる平原を眺めながら、オレはため息混じりにつぶやいた。現在は紅魔の状態でいるため、可愛らしい声が漏れる。


オーレンが行方不明になってはや十日。オレたち一行は今日も今日とて彼が行方をくらました平原に赴いている。

「やっぱり、竜巻がトリガーになっているんじゃないかと思うんだけど」

「だが、俺が巻き込まれたときはなーんにもなかったぞ? 気持ち悪かっただけ。あれはちょっと何度もやるのは勘弁だなぁ」

オレがしゃがみこんでいると、頭上から声が振ってきた。見上げてみると、いつの間にかギルバインが近くいることに気が付いた。彼はその時のことを思い出しているのか、若干表情が晴れない。そんなギルバインの横にはミヤビの姿もあった。


「本当にオーレンは竜巻に巻き込まれていなくなったんですか?」

ミヤビのその質問に、オレは「うーん」と唸る。その間に太腿の上に肘を置き、掌であごを支えた。

「実際に飛んでいるのを見れたわけじゃないんだけどさ。でもライオットさん曰く、オーレンが発生させた風の影響を受けて、竜巻が起こる可能性は十分あるって。実際、このあたりはそういうのが起こりやすい地域だって話だし。そういう場所なら、竜巻に巻き込まれてどこかに移動することも考えられると思うんだ。だから丁度竜巻が起こったときに、一番HPのあるギルさんにわざと巻き込まれてもらったんだけど……」


しかし、オーレンの時と何が違うのか。竜巻に巻き込まれたギルバインは、そのまま風にもみくちゃにされる不快感を味わった後、何事もなく地面に落下した。仲間内で一番体力のある彼のHPが二割ほど削られた上に、元の世界だったら確実に吐いてるという嫌な感想が得られただけで、オーレンと同じようになることはなかった。


オレは最近手掛かりなしで歩き詰めだったこともあり、心身ともに少し疲労を感じながら再度ため息を吐いた。

「……ほんと、こんなところにIDなんてホントにあるのかよ」


ID……インスタンス・ダンジョンとは、普通のダンジョンとは違い、少人数のグループごとに別の空間に飛ばされる特殊なマップのことである。

インスタンス・ダンジョンというのは、どうやらこの世界とは少し異なる空間に存在するらしい。そのためシステムウィンドウで『ワールドが違います』などと言う文言が表示されるとかなんとか。加えて半ば異世界のようなものなので、通信機能が一切機能しなくなる。……そういう話を、オーレンの状況を聞いたジェリクから聞くことが出来た。


彼の補足説明によると、寿命がなくなり本当に死んでしまうと『オフライン』と表示されるらしい。つまり現状オーレンは、寿命の限界で行方をくらませたわけではなく、どこか見知らぬダンジョンでちゃんと生きているということがわかる。今はそれだけが救いと言えば救いか。


「オーレン、大丈夫でしょうか……」

オレを挟んでギルバイン達とは反対側に佇むシシリーが不安げな表情を浮かべる。だが、その不安を払しょくさせられるような朗報は、この場の誰も持ち合わせていない。


「……まったく。どこ行ったんだよオーレン」

オレは何となく天を仰いでそう愚痴る。

ここ数日天候が良く、いつ見ても悠然と流れる雲が、どこか腹立たしかった。







寝かされていた客間で待機してからしばらくの後。オーレンはメリルの呼び出しを受けて部屋から出ると、いい匂いが鼻をくすぐってきた。見ると、ダイニングキッチンにお目にかかったことのない食事が並んでいる。どこかの風土料理だろうか。


「人に料理を振る舞うことなんてほとんど経験がないものだから、お口に合うかどうかはわからないけれど」

部屋着なのか、先ほど見た服装よりは幾分ゆったりとしたものに着替えたメリルが肩をすぼめる。しかしそう彼女は主張したが、実際に口にしたオーレンは批判的な意見なんて一切湧いてこなかった。確かに食べたことのない料理ではあったが、普通においしい。


「いや、本当においしいです。これならいくらでもお代わりできちゃいますよ!」

「ふふ、ありがとう」

オーレンの賛辞にメリルは上品に笑みを浮かべる。それを見たオーレンは気恥ずかしくなり、若干うつむき気味になりながらもぐもぐと料理をむさぼった。

視線を外さなければ、すぐにでもにやけ面が表に出そうになり口元をプルプル震わせているメリルが拝めたのだが。




「……ところでオーレン君。君随分と大きな弓を持っていたようだけど、あれは君のお仲間のものかしら?」


しばらくの間黙々と箸を動かしていた二人。何か会話でも挟んだ方が良いかなと内心考えつつも言葉が出なかったオーレンに対して、不意に思い出したかのようにメリルが口を開いた。それに対し意図をつかみ損ねたオーレンは首をかしげる。


「どういうことです?」

「一般の兵士が使うような軽めの弓と違って、オーレン君が持っているやつは作りがしっかりしているうえに大きさもあるようだから。射るときにとても力がいると思って。あれを射れるほどの人物というのは、一体どんな人間なんだろうって興味を持ってね」

「あーなるほど。そういうことかぁ」


確かに実際の弓というものは、矢を射るときかなりの力が必要であると聞いたことがあった。……そういえばオーレンも家族旅行先で弓道の体験をやった記憶がある。あれは中学生になりたてのときだったか。両親から重いから止めておいた方が良いと諭されたのが気に入らず、むきになって一人で弓を持ったはいいが……。


結局全く引くことができなかったっけ。


一度片鱗を思い出すと、次々と記憶が呼び起こされる。確かあの時、圧倒的筋力不足だと笑われたことがあって、帰宅後数日は筋トレをしまくったのだった。結局三日坊主だったが。


それはそれとして。今オーレンが使っている弓は、そこそこ分厚い。要求筋力値も弓カテゴリにしては強気な設定の強弓だ。まず一般人が引けるような代物ではない。オーレンのような如何にも運動習慣はありませんといったもやし学生風情では到底無理。そうメリルも感じたから仲間のものではないかと思ったのだろう。

だが、残念ながらあの弓の使用者はもやし学生のオーレンである。


「あれは僕が使うんですよ。こう見えても僕は旅人なので、人よりも筋力があるんです。……まあ、本職は魔法使いなんですけど」

「……へぇ」

オーレンのその言葉に、不意にメリルが小さく笑みを浮かべた。その笑みは優し気というよりは、どこか不敵というか……面白いものを見つけたといった感じに見えるのは気のせいだろうか。


「……ねえ、オーレン君」


かちゃんと手近な食器の上に持っていた箸をおくと、メリルは両肘を机の上にたてた。そして手の甲に自身のおとがいを乗せ、じっとこちらに視線をよこしてくる。その金色の瞳に吸い込まれそうな気さえしてきた。

そんな気持ちを抱くほどしっかりと見つめてきたメリル。彼女はそのままたっぷりと間を取ると、小さく笑みを浮かべながら口を開いた。


「君が良ければなのだけれど。……ちょっと私に弟子入りしてみない?」


その直後、オーレンの目の前にシステムウィンドウが表示された。そこにはSuddenly Quest Startという文字が描かれている。


え、サドンクエスト!?


オーレンは驚きに目を見開く。そんな彼をよそに、クエストの内容が表示された。


『剣乙女への弟子入り……剣乙女メリシュテルへ弟子入りし、奥義を習得せよ』



「どうかしら?」

半透明に透けているシステムウィンドウの向こう側で、メリルがうかがうように小さく首を傾けた。

「え、あ、えっと」

何の前触れもない勧誘、そして不意を突くように発生したサドンクエスト。それら突然のことに理解が追い付かず困惑が隠し切れないオーレンは、おろおろと目を泳がせる。


「え、えっと……。僕本職は魔法使いなんで、剣なんてまともに扱えないんですけど……」

サドンクエスト故必ず進めなければならないのだが。だからと言って、何故に魔法使いが剣士の弟子入りなどという話になるのだろうか……。

そう思いオーレンがおずおずと不安を口にすると。メリルは「だからよ」と片手を顎から離し軽く広げた。


「旅人の存在は、噂程度に聞いたことがあるわ。死んでも蘇るというのは正直眉唾なのだけれど、超人的な身体能力や魔力を有しているらしいじゃない。現にオーレン君は魔法使いの身でありながら、あの強弓を射ることができるほどの筋力があるのでしょう? その力、どうせなら十全に使った方が良いのではないかと思うのよ。魔法については専門外だけれど、剣のことならそれなりに教えられる。護身用に覚えていても損はないと思うわ」


確かにジョブがなければスキルなどの恩恵は得られないが、武器を振り回すことくらいなら十分可能だ。振り回すだけか、それとも人並みに扱えるかどうかというのは個人の力量次第だが、システム上で装備できなくても『武器』として扱うことなら誰でもできる。


魔法や遠距離系の職ばっかりだったから、剣術とかは半ばあきらめてたんだけど。……確かに魔力がないと使えない魔法と違って、剣とかは使い方さえ覚えれば使えるんだよね。


ふとオーレンは自身が剣を振り回す未来を想像する。

近接系のジョブ持ちが放つような衝撃波やスキルによる連撃はできない。だが、自身が放った魔法をかいくぐって近づいてくる敵をばっさばっさと切り倒していく様は、普通にカッコいい。そもそも剣士自体がカッコいい。だいすき。


……ありだよね。すごく。


そこまで考えて、オーレンはすっかり決心を固めた。弟子入りする相手が目前の優しそうな美女という点も、その決心を後押しする。


「……分かりました。剣の使い方とか、教えてもらえますか?」


「そうこなくっちゃね」

オーレンが居住まいを正して小さく頭を下げると、メリルは嬉しそうに笑みを浮かべた。




ちなみにオーレンの内心はそんな感じであったが。一方のメリルの内心は歓喜であふれていた。


よっし! これでしばらくオーレンきゅんと一緒にいられそうね。勿論、魔法使いと剣士の組み合わせというのも、とても魅力的ではあるのだけれど。……さて、どのように教育しようかしらね、うふふふふふっ。


オーレンとメリル。考えている内容は違えど、両者とも妄想の加速を抑えられないでいた。


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