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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十九話

オレとシシリーが隊長たちの横に並ぶ中、オーレンは一人その数歩先で敵を見据えていた。

魔物の姿は迫り来る間に着々とその全貌を明らかにしつつある。ライトニングボアとその取り巻きの数だけで比較すれば、先ほど戦ったものよりも多いかもしれない。


「頼んだぞ、オーレン!」

「任せといてよ!」


魔物の数に辟易としたオレは、背後からオーレンに向けて檄を飛ばす。それを受けて彼は一度右腕を頭上にかざしてひらひらと振った。その手には、短杖が握られている。

「……さって。いっちょでかいのぶちかましちゃうか!」

オーレンはそう息巻きつつ、掲げていた短杖を前に突き出した。

そして精霊を呼び出す際に用いる言葉を紡ぐ。



「万物に宿りし精霊へ乞い願う――」



直後、彼の前に人ひとりが収まるほどの大きさの魔方陣が形成された。

精霊使いのジョブを持たないオレでは、一体どういう様子なのか子細は分からない。しかし以前オーレンから聞いた話だと、この魔方陣が現れた後に現在のジョブレベルに見合ったクラスの精霊までが頭の中に一覧として表示され、念じることによって任意に呼び出せるらしい。精霊によって必要なMPと呼び出すのにかかる時間が変化するとのこと。下級の精霊だったらほぼ一瞬で呼び出せるらしいが、位が上がってくるとその限りでないとか。

果たして彼は何を呼び出すつもりなのだろう。


選択が終わったのか、オーレンから力強い魔力の奔流が発生し始める。魔力の奔流といっても、魔力に知見がある者とそうでない者では見え方が違ってくるらしい。魔力を持たないオレなんかは、薄い陽炎のような揺らめきと共にオーレンの服が風もないのに少したなびいている様から、何となく魔力が出ているのではないかと思うくらいだが――


「……とんでもねぇ魔力の流れだな。これが旅人の本気か」

一方魔力の感知が出来る様子のライオットは、オレの横で茫然とそうつぶやいた。どうやら結構な魔力量らしい。


後方からオレたちが見守る中。オーレンはひたすらに魔力の流れを作っているのか、動く気配はない。その代わり、彼の前に広がる魔方陣が着々と拡大をしていた。今やその大きさはライトニングボアですら丸呑み出来そうなほどだ。

その間、魔物の群れも休む暇なく近づいてきていた。彼我の差は今や数百メートルといったところか。もうあと幾分の猶予もない。


「おいおい。なに撃つか知らねえけど、そろそろ放たないと間に合わなくなるぞ」

ライオットが若干顔に焦りを浮かべつつ、おもむろに腰に差した剣を抜いた。

「おいリカ。ありゃあ大丈夫なのかね?」

その後ちらりとライオットはオレを見下ろしてくる。しかし魔法にはあまり詳しくないため、ただうなることしかできない。そもそもこのタイミングになってすら、オレはオーレンがいったいどんな精霊を呼び出すのか分かっていないのだ。


普段こんなに時間かかってたっけな……。まさかとは思うけど、間に合わないとかいう冗談はない……よな?


今まで見たことない程の待機時間に不安が煽られ、オレも彼に倣い腰に戻していた剣を一応抜き放つ。

「……私も魔法に詳しいわけではないので、何とも言えないですけど。多分そろそろ発動するんじゃないかなと。……発動してほしいなぁ」

「……なんだよそれ」

オレの自信なさげな反応に、ライオットは露骨に眉をひそめた。その会話を聞こえたのか定かではないが、彼の横に並ぶ隊長や少年騎士たちも浮かない顔をしている。


そうやってオレたちは後方でやきもきしていたが。ようやくオーレンが動きを見せた。



「……風を統べる者よ、我が概念の補強を以て顕現せよ!」



実際に精霊を召喚する言葉を、オーレンが高らかに叫ぶ。それに呼応するかのように、魔方陣がひと際眩しく発光し始めた。

直後、その光輝く魔方陣から勢いよく何かが飛び出す。黒っぽい影をしたそれは、その勢いのまま上空まで飛び上がり、やがてその身を大きく広げて空中で動きを止めた。


魔方陣から現れたのは、大きな翼をもった細身の龍であった。

黒っぽいと思った体の色は、よく見たら金属のような光沢を有しており、生半可な武器では弾かれてしまいそうだ。細長い首と長く伸びた尻尾、そしてそれらを有した巨体を宙に浮かせられるほどの浮力を発生させる黒銀色の大きな翼。その羽ばたきによる風は、まるで吹き飛ばされそうな勢いだ。巨大な魔方陣から現れたことも納得できるスケールである。


「な、なんだあの龍は……。見たこともない」

羽ばたきによって容赦なく当たってくる風から腕で顔を守りつつ、ライオットが小さくつぶやく。その横で同様に暴風に抗っていたオレは、ふとその姿に感じ入るものがあった。


……なんか、すごい見たことのある古龍だな……。


向こうの世界で熱中していた某ゲームに登場するモンスターの一体に非常に酷似しているとオレは思った。たぶん鋼の龍とか閃光与えたら落ちてくるぞとか、そういう類の。


そういえば、精霊を呼び出す精霊魔法と召喚魔法の違いというものを、以前ジェリクから聞いたことがあるのを思い出した。曰く、実在する実際の獣や竜を呼び出すのが召喚魔法であるのに対し、精霊魔法はいわば概念の召喚であるという。水や風などに宿る精霊という概念を、術者のイメージによって具現化させる。つまり術者の、『雨の精霊や風の精霊はこんな形をしているだろう』という想像を疑似の依り代として、各精霊を呼び出すというのだ。今回の場合で言うと、風の精霊についてオーレンがイメージとして浮かべたのが、この龍だったというわけだ。



「よぉし! 吹き飛ばせ!」


オーレンが意気揚々と号令をかけると、呼び出した龍がひと際大きな鳴き声を上げる。その後体を大きくのけぞらせ、その後一気に口から風の塊を吐き出した。風の塊は何かしらの力を宿しているのか、分解せずに一直線に魔物の群れへと飛んでいく。そして魔物の群れのあたりに着弾すると、遠目でもわかるくらいの大きな竜巻へと変化した。発生直後白っぽい色をしていた竜巻は、魔物たちの出す黒い霧に影響されすぐさま黒く変色していった。


その後も黒い龍は風の塊を数発吐き出しては、魔物の群れの中に竜巻を発生させた。そうして最後にダメ押しのようにひと際大きな風の塊を吐き出すと、その巨体は光の粒子となって消えていった。

龍が消えた後も竜巻は残っている。竜巻に阻まれて詳しい様子は把握できないが、あの竜巻を超えてこちら側へ向かってくる魔物の姿は一切ない。


恐らくあれだけいた魔物たちは、そのすべてが倒されたのか、はたまた危険を感じて逃げたのだろう。



あれだけ新人騎士たちが苦戦した魔物の群れは、オーレンによって一撃のもと葬り去られた。


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