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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十七話

「さすが、身軽だねぇ」


そそくさと近場に落ちた剣を拾い上げていると、横からライオットが拍手をしながら近づいてきた。その横には、バイスの姿もある。また彼らのすぐ後ろには、他の隊長クラスに交じって複数人の支援部隊たちが倒れ伏した騎士たちの治療を始めていた。


「話には聞いていたが、素晴らしい身のこなしだった。自分よりはるかに大きな敵に対しても物怖じしない姿勢も非常に良い。是非我が騎士団に入団してもらいたいくらいだ」

「どうかな?」とバイスが剣を腰に戻しながらにこやかに問いてくる。それに対し、オレは苦笑いを浮かべながら肩をすぼめた。


「……お気持ちは嬉しいのですが、私は旅人ですから。騎士団に入ることはできません。いつになるかは未定ですけど、多分聖王都からも離れるでしょうし」

「そうか。残念だ」

一応誘いはしたが、断られることが分かっていたのだろう。バイスはあっさりと引き下がった。




「リカさん!」




とそこであたりに響く称賛の声とは別に、聞き慣れた呼び声が聞こえた。振り返ると、シシリーとオーレンが並んでオレを目指し駆けてくる姿が見て取れた。


「お疲れ様です!」

「いやーカッコよかったね! まるでアニメのワンシーンみたいだったよ」

興奮した様子で、二人は明るく声を弾ませている。そんな見慣れた二人を見て、オレはようやっと肩の荷が下りたような気がした。


あぁ……やっと終わったんだな。なっがい戦いだった。


この戦いは、本格的にこの姿……リカ・リリエストで戦うようになって初めてのボス戦である。実際はこの姿になれるジョブを手に入れる際に戦ったスレットモンスターが最初なのだろうが。あれは自分自身が戦ったわけではないので、オレの中ではノーカウントになっている。


近接ジョブって、大変なんだなぁ……。


改めて敵前に立つ近接ジョブの苦しみを確認できた気がする。これは非常に、心身ともに……疲れる。


オレは疲れを吐き出すかのように、ふぅと大きく安堵の息を漏らした。そして肩をすぼめて二人を見回す。

「二人ともお疲れ様。いやぁ、疲れたわ」

言いつつ腰に手を当てて天を仰ぐオレに、オーレンが「逆に羨ましい」と口を尖らせた。


「僕は魔法が使えなくて、力もセーブしないとだったから、ほとんど何もできなかったんだよね。消化不良だよ」

「ははは。帰ったらまたオーレンが満足できるような所に行かないとだな。まあ、あんまりレベル帯の高いところは、オレが付いて行けれないけど」

「流石にそんながっつり戦いたいわけじゃないけど……。せめてこう、騎士団のみんなに今回僕はサボってたわけじゃなくて、力が強すぎて止む無くセーブしてるんだーってところを見せたいというか」


どうやら今回の戦いで、オーレンは新人騎士たちからサボり疑惑を持たれているらしい。確かに今の彼の様子からは、とてもじゃないけどこの戦場をまともに戦い抜いたという疲労感を感じない。実情は先の言葉通り実力過剰なためセーブして戦っていたからだが……オーレンの本気を見たことのない騎士たちは、そう捉えられないのだろう。同じく旅人であるオレやシシリーが汗水たらして戦っていたのだから、なおさら悪目立ちしたのかもしれない。


「なるほど。んー……と言っても、もう帰るだけだろうし、これだけみんな疲労してるのなら、帰るルートも多少安全なのを選ぶだろうしなぁ。残念だけど、今回は――」



「お、なんだ。まだ全然力有り余ってる感じか?」



オレが辺りを見回し、多数の騎士たちが力無く地面に伏せっている様子を目にしながらそう口にしていると。不意に横からライオットがオレたち旅人の輪の中に入ってきた。彼の言葉に、オーレンが勢い良く手を上げた。

「はい。僕まだ全然いけます!」

「おぉ、なかなか意気がいいじゃないの。頼もしいねぇ」

オーレンの隣まで移動したライオットは、笑いながらポンポンと彼の肩を叩いた。


「そんな君たち旅人に、一つ頼みごとをしたいんだが」

「『君たち』って……もしかして私たちも入ってますか?」

ライオットの物言いに引っかかりを覚えたシシリーがそう口にすると、彼は「そのつもりだ」と答えオレたちに小さく手招きをした。大きな声で言えない頼みなのだろうか。

一度お互いに目を合わせたオレとシシリーは、残る疑問に首を傾げつつもライオットの元へと近づく。


「これはあんたたち旅人の力を買っての願いだ。勿論、俺たち隊長も協力は惜しまない」

「……一体何の話ですか?」

勿体ぶった物言いに、オレは小さく苦言を漏らす。それにライオットは言葉ではなく、いたずらっぽい笑みを浮かべた。

さっぱり意図が伝わってこず、オレはただ眉をひそめ首をかしげる。


「……そろそろ、目のいい奴が気付き始めるころかな」

言いつつ彼はオーレンの肩から手を離し、辺りを見回す。それにつられてオレたちも周囲に目を配った。相変らず座り込んでいる者も多いが、半数くらいが立ち上がり仲間と談笑している様子が目に入る。皆なんとか演習が終わったことに安心しきっているようだった。


そんな中。

幾人かがふと今まで浮かべていた笑みを凍らせた。


彼らは例外なく、一定の方向を眺めていた。釣られた周囲の者たちも、その視線を追って同様に顔から笑みを失う。


耐え切れなくなった騎士の一人が、悲痛の叫びをあげた。



「ま、また来たぞ!?」





「予定外なんだが」

そうライオットが零した視線の先には。


「……第二陣の始まりだ」


先ほど苦労して倒したライトニングボアと同様の巨体が、多くの取り巻きを引き連れて近づいてくる姿があった。


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