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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十六話

「いやしかし重すぎっ。ちょ、団長! もう少し押し込めませんかね!」

「馬鹿を言うな。一人手を抜こうなどと、そんな甘い考えが通ると思うな」

「思ってないですから! 俺はそもそも、こういう力仕事は担当外なんすよ!」

「良かったじゃないか。新たな仕事がもらえるなぞ、若いやつの特権だぞ」

「結構ですよーっ!」

よく見るとライトニングボアの牙を食い止めていたのは、ライオットだけではなかった。なんと彼の横にもう一人、騎士団長であるバイスの姿もあった。


「え、えっと……」

思わぬ展開に、オレは目の前で牙を止めながらも呆けたような表情を浮かべる。そんなオレの顔をちらりと流し見たライオットが「いやなに」と歯を食いしばりながら答えた。

「取り巻きの数が例年に比べて多いし、ライトニングボア自体も頑強そうだったんで、なんとなくいやな予感がしてたんだけどな。どーやら、こいつは普通の奴よりも年季の入ったやつらしい。普通のライトニングボアは、さっきみたいな範囲攻撃はしてこないからな。だから、急遽俺たちが助けに来たわけだ。新人たちは、もう充分戦ってくれた」


そう言いつつ、ライオットはちらりとオレのすぐ横で茫然としている青年騎士に目を向けた。ライオットの視線を受けて彼は何か言おうと口を開きかけたが、痺れがひどいのかうまく音が出ないようだった。それを見たライオットは、「無理すんなって」と一言投げかけると再び視線を手元の剣に戻す。


「団長。もう決めてしまってもいいっすかね?」

「……あぁ。もういいだろう。新人たちは良い動きを見せてくれたしな。演習内容としては、申し分ない」

ライトニングボアが一度牙を引き再度叩きつけてきても、ライオットとバイスは合図もなしに同じタイミングで剣を突き立てその衝撃を完全に殺していた。慌ててオレも参戦したが、あまり意味はなさそう。


「っということだ、リカ。ここは抑えておくから、ちゃちゃっとこのデカブツに止めを刺してきてくれねぇかね?」

「え、わ、私がですか……?」

確かに現状剣を添えているくらいで、今のオレは全く貢献している気がしない。動こうと思えばいつでも動けそうではあるのだが。


……騎士団の演習に、オレが最後止め刺しちゃっていいのか?


すぐに返答が出来なかったオレに、戸惑いがあることが分かったのだろう。ライオットは「ぜーんぜん大丈夫だ」と口元に笑みを浮かべた。

「団長もこう言ってるし、もう演習は終わったも同然だ。後は誰が倒しても一緒よ一緒。んで、俺たちは抑えつけるのに精一杯だから、仕留めるのはリカにやってもらいたいってわけ。お前身軽だし、この牙伝って眉間まで行けるだろ? そこが弱点だから、この状態なら剣突き立てればすぐ消滅させられる。だから、頼むわ」


「なんだかんだ言って、抑えつけるのもきっついから早めにな!」と軽口をたたくライオットの額には、汗が滴っていた。腕も相応に震え始めているので、平然と口にしているがかなり厳しい状況なのだろう。その横のバイスも彼ほどではないが、やはりその表情は少ししかめられている。エンジンをふかすトラックを二人で押し止めているようなものであるからして、その疲労感は推して然るべきか。


……どうやら、四の五の言ってる余裕はなさそうだな。


再びライトニングボアがその身を引く。そのタイミングに合わせて、オレは一歩ライオットたちよりも後ろに下がった。直後、牙の薙ぎ払いが繰り出される。



「よいっしょぉ!!」

「っ!」



ライオットが掛け声にしては幾分かのんびりとした言葉を吐き、その隣でバイスが無言で剣を振りかぶる。直後、両者とも常人ならざる剣筋で迫りくる牙を押し止めた。



「仕留めてきます!」



完全に牙の動きが止まったことを確認したオレは、そう口にしつつ自身の背丈ほどの高さにある牙へと飛び乗った。そのまま牙の上を駆ける。


「おわっ、とと」

途中ライトニングボアが身じろぎをした。元々不安定だった足場がぐらぐらと揺れ、さらに覚束なくなる。落ちることはなかったが、少しだけ歩みが止まってしまった。


な、なかなかアニメの主人公のようにはいかないな……。


バトルものの主人公ならば、こういう場面は一足飛びに駆ける。少なくともオレは、この場面で足を止めるようなやつは知らなかった。


「現実は甘くないってことだよな!」


そう愚痴りながらも、オレは何とか牙を根本まで渡り切った。弱点だという眉間は、自身の身長ほど登ったところから出っ張っている鼻のさらに上。少し距離があるが、いつライトニングボアが動き出すとも知れない。よじ登っている時間があるのか否か……。


「……っ!」


そんな時。例の衝動がオレの中を駆け巡った。その衝動に身を任せ、オレはちらりと頭上の鼻っ柱から眉間という順番で視線を泳がせる。その後口の中にたまっていた唾液を飲み込むと、一気にその場から飛び上がった。


す、すごい跳躍力だっ。


あの位置からでは届かない高さだろうと思っていた眉間。しかし今、跳躍によって狙おうとしていた場所が目前へと広がっていた。

オレは跳躍の勢いが衰える前に、右手の剣を逆手に持ちそこに左手を添えた。そのままぐっと頭上へ剣を持ち上げつつ、胸を張る。


そして、ライトニングボアの眉間が間合いに入った瞬間を見計らい。




「はああぁぁ!!」

一気に剣を突き立てた。




直後、鼓膜を破るかのような絶叫をライトニングボアが漏らす。そして痛みに悶え、顔を大きく揺らし始めた。それだけにとどまらず、ライトニングボアはどこにそんな体力があるのか、止まっていた足を動かし暴れ始める。剣が刺さった個所からは、噴水のように黒い霧が吹きだしているが、全身を黒い霧に変える気配はない。


ま、まだ生きてるのかよ!?


視界の隅にあるライトニングボアの体力ゲージは、もはやあるようには見えないのだが、これでも少し残っているらしい。



「う、うわっ!?」



完全にこの一撃で仕留める気でいた。そのせいか、剣を突き立てた直後気が緩んでしまったのが悪かった。

がむしゃらに頭を振り回す間に、手が滑り持ち手から離れる。支えを失ったオレは、上方向へと吹き飛ばされた。もとより遠かった地面が、さらに遠のく。


「や、やばいやばい!」


慌てて空中で姿勢を正そうと、不格好に手足を泳がせる。なんとか制御できるほどには体のコントロールを取り戻すころには、落下が始まっていた。


このままじゃ、着地できるか分かんない高さからのダイブになるけど……。


紅魔のスキルのおかげか、そんな状況になっても全体を見回すほどには冷静さを失うことはなかった。その視界が、地上で痛みに悶えるライトニングボアの姿を捉える。その位置はオレの真下辺りで、このままオレが落ちていったとしたら。


丁度眉間に突き刺さったままの剣があるあたりにぶち当たりそうだ。


オレは空中で姿勢を変更する。頭を上に、足を下に。右足を伸ばして、左足は少し曲げる。


「……いい加減に――」


重力を受けて、落下のスピードが増す。あっという間にオレの視界一杯にライトニングボアの巨体が広がり始める。しかし、狙いはただ一点。そこさえ確認できれば、後はどうでもよかった。

そして狙いが問題ないと確認するや、オレは――




「くたばりやがれ!!」

そう吠えながら一気に剣の柄を踏みつけた。




その衝撃により、渾身の力を込めても刺さり切らなかった剣は、根元まで一気に押し込まれる。

今度こそ止めを刺せただろう。オレがそう確信した直後、ライトニングボアが一瞬動きを止める。数瞬後にその姿が一気に黒い霧へと変化した。


「よしっ!」


オレは小さくガッツポーズをすると、すぐさま地面を見下ろす。高さに身構えはしたが、一度勢いを殺したことが功を奏し、多少痺れが全身を走ったが何とか問題なく着地することが出来た。ライトニングボアを倒せたはいいが、着地がうまくいかないと格好がつかないので、ほっと一安心だ。


オレが着地を決めた直後。取り巻きを仕留め事の成り行きを見守っていた騎士たちが、一気に勝ち鬨を上げた。その中には、戦いが終わったことに対する安堵の声もあれば、オレを称賛する声もちらほら聞こえてくる。こんな公の場で褒めたたえられた機会が、果たして今までのオレの人生の中であったろうか。


い、いやねーよこんなのっ。こちとら地味まっしぐらな人生を送ってきたんだから、こんな両手広げて褒められるなんて、恥ずかしすぎるわ!


名前を呼ばれたものとしては、ここで拳でも掲げるのが礼儀なのかもしれない。

しかし初めてのことにオレは面映ゆさを感じてしまい、逆に身を縮こませてしまった。見事に情けないチキンっぷりであろう。

自慢するところではないが。


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