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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十五話

あまり近づくと稲光が飛んでくるので少し離れて陣取っていた近接部隊。助走距離は十分すぎるほどある。このままいけば十分に速度の乗った攻撃が、動きを止めたライトニングボアへと繰り出せるだろう。

そうすれば、この長かった演習にもきっと終止符が打てる。

青年騎士の号令を聞きつけた盾部隊が統率のとれた動きで左右に割れ、近接部隊へと道を開ける。それを確認した青年騎士は、さらに言葉を連ねた。


「さあ、活路は開けた! 突貫するぞ!」


その言葉に、背後に付随する騎士たちが思い思いの掛け声を合わせる。士気は十分。皆がこの攻撃で演習を終わらせるという覇気をみなぎらせていた。

その分、視野が狭くなっていたのかもしれない。


近接部隊が近づくのに合わせて、不意にライトニングボアがけたたましい鳴き声を上げた。その声量は、まさに大地を揺るがすほど。

「うるせぇ! んな威嚇、今更どうということはねえんだよっ」

騎士の一人が、片耳を抑えつつも負けじと吠える。最早立ち止まる気など一切ない。誰もがそんな様子であった。

そのためそれに気が付けたのは、遠くで待機していたオレと、周りよりは幾分か冷静であった青年騎士だけだったかもしれない。


なんか、牙が赤熱して……っ、ただの威嚇じゃないぞこれ!



「……っ、待て! 何か様子がおかしい」


異変に気が付いた青年騎士が、慌てて近接部隊へと制止をかける。

「な、なんだってんだよ!」

前を行く青年騎士が立ち止まったことを受けて、続いていた騎士たちがつんのめるように足を止めた。突然の制止に水を差された形の騎士たちは、怒りの声を上げる。そんな彼らを無視して、青年騎士はじっとライトニングボアの動きを眺め見た。


ライトニングボアは、ぶるぶるとその巨躯を震わせながら、なおも鳴き声を上げ続けている。それだけでなく、今まで象牙色をしていた牙を赤く光らせ、バリバリと牙の間で稲光を発生させていた。今まで稲光を放ってきていた動作とは、少し趣が異なる。もしかしたら、まだ見たことのない攻撃を繰り出してくるのかもしれない。


「……嫌な予感がする。一旦下が――」

今まで見たことのない動作に不穏な空気を感じたのだろう。青年騎士が指示を出そうとした直後であった。

突然ライトニングボアが牙を大きく頭上へと振りかぶり、その後勢いよく地面へと突き刺す。



刹那、まるで大地を分断するかのような大爆音とともに、周囲一帯の地面が眩しく発光した。



なっ――


目が眩むほどの光を受けて、オレは慌てて目を閉じたが、少し遅かったようだ。うまく視界がきかない。


「い、一体何が起こったんだ!?」

オレはしきりに瞬きをしながら、徐々に視界を回復させる。まだ戦闘の決着はついていない。早く視界を復活させないと、この後何が起こるのか不安で仕方がなかった。


「……よしっ、ようやっと視界が回復してきた」

顔を覆っている自身の腕の輪郭がはっきりし始めたところで、オレは遅ればせながら戦場の状況を確認した。


そして言葉を失う。


ライトニングボアの左右で守りを固めていた盾部隊、そして手前十メートルほどに展開していた近接部隊……総勢二十人ほどの騎士たちが、軒並み地に伏していた。唯一例外として青年騎士だけが身を起こしていたが、地面に突き刺した剣にもたれかかって辛うじて立っているといった様子だった。


「な、何が……」


地面に伏している騎士たちを見ると、稲光を身に受けた時のような症状に近いことがわかった。全身にしびれが走り、うまく動けないのであろう。


単体技だけだと思ってたけど……まさか範囲攻撃まで使ってくるのか。


先ほどライトニングボアが見せた謎の挙動。そしてそれに続いた爆音と光。全貌は確認できなかったが、恐らくあれが電撃を浴びさせる範囲攻撃だったのだ。

「こんなラストのタイミングで……。もしこれが親切なゲームであったのなら、それに耐えられたら戦闘終了とかなんだろうけど――」


最後の攻撃とばかりに、体力が一定以下になったら全体に強力な攻撃を仕掛けてくる。そんなボスの姿を、オレは元の世界のゲームの中でいくらか見てきた。大抵それを阻止する、或いは何かしら策を講じて耐え抜けば勝つことができるのだが。


「……やっぱそう上手くはいってくれないよなっ」


範囲攻撃を放ったライトニングボアは、少しの間苦しそうにその体を左右に揺らしていた。だがそれが落ち着いたとみるや、再び動きを見せる。

猛然と、正面にいた立っているのが精一杯の青年騎士へと肉薄し始めたのだ。


オレは一気に地面を蹴りつけてスピードに乗る。目指すは青年騎士の正面。ライトニングボアのあの巨体の範囲から逃れるということは、恐らくタイミング的に難しい。ならば、やれることと言えば真っ向から突進を止めるよりほかない。

ライトニングボアは近づきながらあごを大きく横に反らした。突進しながら、その牙の薙ぎ払いで吹き飛ばそうという魂胆のようだ。またもや牙の薙ぎ払いを受けることになりそう。


「どうせ止めることなんてできないから、仲良く吹き飛ぶぞこの野郎!」


最早青年騎士とライトニングボアの距離は幾ばくもない。オレが青年騎士の正面までたどり着いたころには、牙がすぐ横まで迫っていた。


「はあぁぁ!!」


オレはぐっと足に力を籠めると同時に、肩の後ろまで剣を引く。そして迫りくる牙に対して、己が剣を一気に突き立てた。

案の定剣を突き立てたはいいが、牙の動きは全く止まる気配がない。自身の腕が力に根負けして悲鳴を上げる。


「うぐぐぐ――」


最早これまでかと、内心どう吹き飛ぼうか考え始めたところで。



不意にすぐ横から甲高い音が響き、牙の勢いが弱まり……そして完全に停止した。





「かぁぁっ、おっもいなぁ! 盾があるとはいえよくこんなもん押さえつけてたな、あいつらは」




「!?」

そして傍から耳に入る、誰かの声。オレは慌てて声のした方……左隣にいる青年騎士とは反対側の方向を振り向いた。



「よう、リカ。ガキどもの面倒見てくれてありがとな」



そこにいたのは、へらへらとした笑みを浮かべながらオレと同じように牙に剣を突き立てるライオットであった。


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