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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第三十四話

辺りに湧いていたイノシシ型の魔物が粗方討伐された中、主であるライトニングボアは今だ健在であった。何度騎士たちが攻撃しても、その膨大な体力を削り切れない。豪快に暴れるライトニングボアに煽られて、何人もの騎士が負傷していく。かといって下手に魔法を撃ってしまうと、お返しとばかりに牙から発せられる稲光が飛んできて、魔法使いは地面に伏してしまう。

それでも、騎士たちは諦めずに己が力を振り絞っていた。






「近接部隊、攻めろ!」


青年騎士の号令を受けて、近接武器を持った部隊が一斉にライトニングボアに踊りかかった。

「深追いはするな! 攻めすぎると薙ぎ払いがくる! 盾部隊、近接部隊が下がると同時に前進しろ」


すいませんね、深追いしすぎて。


先ほどまさに無計画に攻撃を続けたおかげで薙ぎ払いを受けたオレは、内心そう愚痴る。同じ過ちをすまいと、数撃剣を閃かせるとその場から離脱した。その足で盾部隊とすれ違いながら後方へと走る。


「リカちゃん、まじで見かけによらず強いよな!」

「俺たちじゃ全然歯が立たなくても、普通に傷つけてるもんな」

後方へ下がると、同じくライトニングボアから離れてきた近接部隊の少年たちが興奮した様子でそう声をかけてきた。オレはそれに小さく肩をすぼめる。

「ま、まぁ旅人ですから。多分根本的に体のつくりが違うんだと思います」

「全然俺たちと変わんないようにみえるけどなぁ」



「暢気だな、貴様ら」



戦場ということで逸る気持ちが饒舌にさせるのか、皆調子よく口を開く。そんな中、ふと背後からそんな苦言が聞こえてきた。

「まだ体力が有り余っているようだな。なんなら貴様らも盾を持って壁になるか?」

振り返ると、青年騎士が仏頂面でこちらへ歩み寄っているところであった。


「冗談。元気なのは、いつでも剣を持って戦えるぜって意思表示っすよ。盾持つための体力じゃないんす」

「ふん、調子のいい」

両腕を広げてあっけらかんとしている少年に、青年騎士は鼻で笑いながらそう吐き捨てる。だが、直後小さく口元に笑みを浮かべた。

「だが、丁度いいだろう。……恐らく、奴はもう死に体だ。最初程動きにキレがない上に、体のあちこちから魔素の噴出がおきている。これ以上長引かせるのも、そろそろ馬鹿らしくなってきた。故に……次の攻勢で仕留めにかかる」


青年騎士のその言葉に、周囲にいた近接部隊が小さくどよめいた。各々が持つ武器を握りしめる音が、騎士たちの決意を示しているよう。

「次の指示で、一気に蹴散らすってことですかい?」

先ほど調子のいいことを口にした少年が、獰猛な笑みを浮かべながら青年騎士に改めて確認する。出まかせであったのなら何をしでかすか分からない、といった気迫を彼は纏っていた。青年騎士は、そんな彼を前に逆に挑むように腕を組んで見下げるような視線を向けた。


「そうだ。それだけ元気が有り余っているのなら、多少無茶しても問題ないだろう」

「あぁ! むしろ待ってましたって言いたいくらいだ」

「なあみんな!」と少年は周りにいる騎士たちに問いかける。すると皆気合の入った声を張り上げ、士気は十分高いことを見せつけてくれた。その様子に、青年騎士は満足げに鼻を鳴らす。

「その意気で少し待機していろ。頃合いを見て指示を出す。……そして」

ふと、青年騎士がこちらに視線を寄越してきた。その後口にした言葉に、オレは小さく目を開くことになる。



「旅人のお前は、その突撃に参加するな」



「え?」

まさかの戦力外通告。思わず開いた口が塞がらなくなった。


「ど、どういうことですか?」

浮かんできたその疑問を、オレは口にする。オレ個人としては、俄然参加する気でいた。自慢ではないが、この近接部隊の中でもトップクラスのダメージソースであると思っている。それを外すというのは、一体どういう了見だろうか。

オレの問いに対して、青年騎士は「忘れているのかもしれないが」と前置きを口にして続ける。


「これは俺たち騎士団の演習だ。本来旅人が介入するべきものではない。貴様が俺たちと変わらない戦力ならば、それでも目をつむることもできるだろうが。だが……認めたくはないが、実際貴様は拙いながらも俺たちよりも遥かに強い。要は……貴様が参加することで、俺たちの訓練にならないと言っているんだ」

「結局ここまで甘えていて、今更言えた口ではないがな」と自嘲気味に青年騎士は呟く。


「最後くらい、こいつらも思いっきり暴れたいところだろう。騎士の矜持もある。故に、最後の攻撃、お前は後方で待機していてもらいたい」


確かにそこまで言われると、なかなか心苦しいところもある。元々オレたち旅人は、演習についでで参加させてもらっている身だ。あまりでしゃばるつもりはなかったが……この戦闘では随分と前に出てしまった感は否めない。


「……分かりました」


オレは彼の言葉に素直に頷く。自分では分からないが、もしかしたらオレの浮かべていた表情は非常に名残惜し気だったのかもしれない。

不意に青年騎士が小さくオレの頭に手を置いてきた。


「最初こそお前の力量を知らずに見くびっていたが。今では存外気に入っている。お前は非常に強力な切り札だ。もし最後の攻撃で何か想定外のことが起これば、お前の手を借りることもあるだろう。その時のために、即動けるようにはしておけ」


「あ、は、はぁ……」

青年騎士の声は、今まで聞いてきた冷酷なものだけではなく、わずかながら温かみがあるような感じであった。まさかそんな言葉と頭を撫でるなどというアクションが彼から出るとは思わなかったオレは、何とも覇気のない返事とも取れない声を漏らす。元々返事は期待していなかったのか、彼は早々に離れていったが。


「い、意外と子供好きなんだろうか?」

「さぁ……」

オレと同じことを周りの少年たちも感じていたのか、驚愕だと言わんばかりに目を丸くしている。


やっぱみんな同じことを思うよな、これ……。



「おい貴様ら。何を呆けている。奴の動きがもうすぐ止まる。準備をしろ」


そうこうしていると、衝撃が抜けきらないまま青年騎士が肩越しに近接部隊を眺め口を開いた。いつの間にか、彼は部隊の戦闘に移動している。


「次の暴れで、一度奴は完全に動きを止めるはずだ。そこを叩く。数十秒後、といったところだろう」

青年騎士の説明を受けて、オレはライトニングボアを眺め見た。


現在盾部隊がライトニングボアの進行を阻み、その体当たりを自慢の大盾の壁で防いでいる。足止めされたとみるや、ライトニングボアは体をねじ込んだり牙を突き立てたりして暴れだす。幸い盾のほうが頑丈のようで、そこまでされても部隊は何とか持ちこたえていた。恐怖は相当にありそうだが。


「俺が先陣を切り、大きな傷を作る。俺のすぐ背後を走る貴様らは、それに続き傷口に武器を突き立てろ。それ以外の奴は、回り込んで腹部を掻っ捌いてやれ」

『おう!』


ライトニングボアの姿を捉えて、再度戦闘意欲がわいてきたのか。先ほどまで呆けていた彼らは、目の色を変えて威勢よく声を張り上げた。


全員の目が、ライトニングボアの動きを捉える。あちこちに傷を作り、黒い霧を吐き出し続けているのだが。それでも巨体を動かし、大盾の壁へとその身を打ち付けている。見上げたタフさだが、やはり最初のころと比べれば動きはぎこちなく漏れ出る鳴き声もか細いものになっているのが分かった。HPバーは、もはや一割を切っている。オレはそれが見えているため虫の息だと直感的にわかる。だがそれが見えない騎士たちも、その死期が近いことを悟っているのだろう。


そのライトニングボアの動きが。



……止まった――




「盾部隊、引け! 行くぞ貴様ら、仕留める時だ!」



直後、青年騎士が吠え剣を掲げて地面を蹴った。呼応して、その数倍の声量が辺りを支配する。


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