第二十七話
昨日は外出をしていたので、更新できませんでした……
昨日まで演習を行っていた森をはるか遠くに望む平原のど真ん中。騎士団が動きを止めたのは、そんなただっぴろいのが取り柄のような空間だった。少し離れたところには、人ひとり分くらいの大きさのイノシシが何体か草を食んでいる。
その光景を横目で見ながら、新人騎士は慌ただしく隊形を動かしていた。その過程で、オレはオーレンとシシリーと別れ、とある新人騎士の隣に立っていた。その騎士は新人の中では比較的年齢が高く、他よりも少し装飾の違う服を身に着けていた。少年という年齢は過ぎ、青年騎士といったところか。
「……君の戦い方は、噂だが聞いている」
オレが割り当てられたのは、ライトニングボアと戦うチーム。そこには二十人ほどの騎士たちが配置されている。ぱっと見近接職が多い印象だろうか。ぼんやりと騎士たちを眺めていると、隣に立つ装いの違う騎士が声をかけてきた。
「敵陣に一人で突っ込んで、まるで野生児のように動き回るという話じゃないか。……俺の指揮のもとで、そんな品のない行動はするんじゃないぞ」
……なんだこいつ。
オレは面倒くさそうに頭上を見上げた。そこには第一印象から嫌味そうなやつだなと感じた顔がある。その男はさらに言葉を続けた。
「旅人だか何だか知らんが、俺の命令に背くんじゃないぞ」
うわ……オレこいつ嫌いだわ。
じろりと見下ろしてくる男から目を背けるように、オレはそれぞれの分担の中で話をしている騎士たちに目線を移した。彼らもこちらをあまり見ようとしていないように思える。……もしかしたら、この騎士は嫌われ者なのかもしれない。
嫌なチームに入れられちゃったなぁ……。
オレは人知れず小さくため息をついた。
その後も新人騎士たちはチーム内で各々動きについて確認をとる、という光景をみせる。その様子をオレの横で見ていた嫌味そうな騎士は、周りの動きが小さくなったころを見計らって口を開いた。
「そろそろ他所の隊も準備が整ったようだ。まさか自身の隊の動きを把握していないなどという能無しはいないだろうが、一応今一度確認しておく」
その青年騎士はじろりと目の前にいる自身の部隊のメンツをねめつけた後、腕を組み肩越しに後方の部隊に目を向けた。
「最初に取り巻き担当の奴らが、そこでのうのうと草を食んでいる魔物どもを片付ける。奴らは仲間が襲われたとわかると、何処からともなく増援を呼ぶ。だが俺たちが相手どるのは、そのような雑魚どもではない。そのあとに出てくる奴らの頭領……ライトニングボアだ」
青年騎士は外していた視線を、部隊のメンツへと戻す。視線の先にいるのは、大きな盾を持った騎士たちだ。
「盾部隊。貴様らは確実にライトニングボアの攻撃を止めろ。貴様らがこの戦闘の一番の要と言ってもいい。だが、絶対に無理はするなよ。負傷したら迷わずに下がれ。壁が脆弱になるくらいなら、気張る必要はない。そのために貴様らは余剰に集められている」
続いて青年騎士は盾を持つ騎士たちの横に集まっている、剣や槍などを持つ近接集団へと目を向けた。
「近接部隊。貴様らは主に盾部隊の援護と位置調整だ。盾部隊が防ぎやすいような立ち位置を意識しろ。暴走するような輩は、ここにはいらん。後衛の無駄な視界不良にならないように、攻撃の際は俺が合図を出す。……加えて、ここに旅人を一人配置する。聞いている奴もいるかもしれないが、こんななりでも貴様らより強い。直接参考になるかは知らんが、よく見ておけ」
「というわけだ。あそこの部隊に参加しろ」と青年騎士がオレを見下ろして、近接部隊が集まるエリアを指さした。それにオレは小さく頷くと、そそくさと移動を開始する。周りの注目を浴びているのも居心地が悪かったし、嫌味くさい青年騎士の隣にいるのも何となく嫌だったので渡りに船だ。
オレが移動し終わる前には、青年騎士はもう一つの部隊……後衛部隊へと指示を与え始めた。
「……嫌味ったらしいだろ、あの人?」
青年騎士の言葉に耳を傾けようとした矢先。近接部隊に所属する一人の少年が、小さく声をかけてきた。それにオレは苦笑いを浮かべる。
「た、確かにちょっととっつきづらいですね」
「だろ? 君も災難だよな。あいつ『配慮』って言葉を知らないんだよ。ほんと、ズゲズゲ自分の意見を言いやがるんだ」
「ただ、近接も魔法も使える超有能で、かつ指揮も的を射たもんだから。こっちとしてはなーんにも言えないんだよなぁ」
もう一人、最初に話しかけてきた者の背後に立つ、上背のある少年が口をはさんできた。彼の言葉に、オレはへぇと小さく感心する。
魔法も使える戦士系とは……。程度にもよるけど、旅人だったら下手すりゃ上位職だな。
旅人の場合、近接職が魔法も行使しようとすれば、メインとサブのジョブをうまく組み合わせなければならなくなる。あるいは、元からどちらにも対応できるジョブをセットするか……恐らくこの二択になるだろう。どちらも聞いただけだと容易にできそうな気もするが、実はそううまくいかない。
理由は、前者はジョブの習得には大きな偏りがあるからで、後者はそもそも両対応のジョブは聞いたことがない程稀であるからだ。
基本的に、戦闘系ジョブは前衛と後衛に大別される。うちのパーティに当てはめると、前衛がギルバインとオレ、リーチは長いがシシリーが該当し、後衛はオーレンとミヤビだ。そしてこの区分けは、初めてジョブを手に入れた時から変わっていない。つまりギルバインとシシリーは近接系のジョブしか持っていないし、オーレンとミヤビは後衛系のジョブしか獲得できていないのだ。……オレはそもそも紅魔が最初のジョブだから、この傾向に当てはまるのか分からないが。
それはそれとして。そのような傾向はオレたちに限らず、全旅人にも通ずることである。そのため、前衛後衛どちらも器用にこなせる旅人はほぼいない。少なくとも、オレは知らなかった。
「性格さえ丸くなれば、いい指揮官になるでしょうね」
「本当にそれだわ」
「おいそこ。作戦開始だ、私語を慎め」
近場にいた少年騎士たちと言葉を交わしていると、目敏く青年騎士が苦言を申してきた。直後、一部の部隊から気合の入った声が上がり始める。
声の上がったほうを振り返ると、複数の騎士たちが魔物へと剣を振りかざしていた。負けじと魔物の方も力強く身を震わせて、不意に現れた敵対者を迎え撃つ。
「……本当に、次から次へと湧くんだな」
戦闘が始まったことで気が引き締まったのか。緊張した面持ちで自身の武器を握りしめ始める新人騎士たちの間で、オレは小さく呟いた。
最初は数えるほどしかいなかったイノシシ型の魔物。しかし今その数は余裕で二桁に達し、手すきの騎士たちがいなくなるほど戦火は拡大していた。あちらこちらから、騎士たちの声や魔物の鳴き声、盾で防ぐ鈍い音や甲高い音、魔法の詠唱と爆発音等、様々な音色が響いてくる。演習の締めという括りであるはずだが、そんな生易しいものではない。
そこは紛れもなく、リアルな戦場であった。




