第二十六話
「あ、移動するみたいですね」
思わず物思いにふけっていると、存外時間が経っていたらしい。シシリーの声にはっと意識を戻すと、確かに騎士たちが移動を開始していた。
「オレたちも行こうか」
隊長クラスの一人が、こちらを手招きしている。それを捉えたオレは、シシリーとオーレンを振り返るとそう口にした。すると二人は小さく頷き返し、オレが動くと同時に左右に付いてくる。
「ライトニングボア……どんな奴なんだろうね」
手招きしてきた隊長に指示された場所へ行くと、新人騎士たちの最後尾をついていく形になったオレたち。流石に人数がいるだけあって、その歩みは少し緩やかだ。のんびり集団について歩いていると、オーレンが興味深そうに口を開いた。
「確かバイスさんの話だと、この平原の主でかなり大きな魔物って言ってましたね。その大きさと二本の牙が特徴で、その牙の間から電撃を飛ばしてくるって。突進と電撃に気を付けてって話でしたね」
オレがぼーっと思案していて聞き逃していたところを、シシリーはしっかり記憶していてくれたらしい。
「確か新人騎士全員で戦うって言ってたよね。じゃあ、めっちゃ大きいのかな? あーでも、取り巻きが多いって言ってたなぁ」
「どうだろうな。今までの旅で百人単位で取り囲むボスなんて見たことないし、そんなの相手に新人騎士の課題にするとも思えないしな。きっと何個か部隊に分けてローテーションで戦わせるんじゃないか?」
そのあたりの説明は、そういえばまだ聞いていない。あの場で説明がなかっただけで、新人騎士たちは事前に聞いているのだろうか。
「でもまぁ、オレたちは多分取り巻き処理だろうな。騎士の課題に旅人が首突っ込むわけにもいかないだろうし」
オレは両手を後頭部にあてがって、両隣を歩くシシリーとオーレンの顔を見上げる。その言葉に、彼らは納得気な表情を浮かべた。
「確かに」
「無限湧きだったら、良いレベル上げになりそうですね」
「出来ればボスと戦いたかったなー。この遠征見学ばっかだから、そろそろ暴れたいところだよ」
「……多分ボスと言えどお前の上級魔法でもぶちかました日には、ほぼほぼ倒してしまうと思うぞ」
確かに、この一週間はオーレンにとっては不完全燃焼だろうなぁ。……これが終わったら、ちと骨のあるダンジョンでも探した方がいいかもな。
さも体力が有り余っていると言いたげに腕を回しているオーレンを見ながら、オレは苦笑をもらした。
『おーい、リカ聞こえるかー?』
その後も雑談を挟みながら騎士たちについて行っていると。不意に耳元でライオットの声が響いた。マージフォーネ経由の声だ。先に通信が届いていることを知らせる旅人たちの用いるボイスチャットと違い、即座に声が聞こえるこれは割と驚く。
『はい、聞こえています。どうしました?』
オレはオーレン達に通話が来たと軽く目配せをすると、自身のマージフォーネを二回つついた。
『これから戦う予定のライトニングボアだがな。君は前衛組に交じって戦ってくれないか?』
『……? それってライトニングボア本体と戦えってことです?』
ぼそっとそう口にすると、横にいたオーレンが「おっ」と期待がこもった声を上げる。オレはそれにまあ待てと小さく手を上げた。そうしているうちに、ライオットの説明が続く。
『そうそう。予定では旅人勢には新人共が処理しきれない取り巻きの相手をしてもらおうと思ってたんだが。それだけじゃあ面白くないってことでな。どうせなら、君を混じらせて刺激になってもらおうって話よ。前衛組は勿論のこと、騎士団に所属していないやつを指揮するのも、指揮官役の新人のいい勉強になる。それに、恐らく君も集団戦闘に慣れてないような雰囲気を感じたからな。三者お得なお話じゃねえかなと。いや……俺も多少気張らなくてよくなるから、四者か』
さぼる気かよあんた……。
オレはライオットの物言いに苦笑を浮かべた。
『それは構いませんけど。……私だけですか?』
『ああ、君だけ。残りの二人は予定通り取り巻きの相手をしてもらいたい。君以外は、少し俺たちと毛色が違うから合わせづらくてな。俺としては、全然それも面白そうだと思うんだが……。まぁ、団長の了承が得られたのが君までだったのさ』
『なるほど』
そういえば、シシリーの銃やオーレンの精霊魔王は騎士団にはない武器だということを、以前バイスから聞いた。詳細の知らない武器使いと即席で合わせるのは、確かに難しかろう。
その点オレの武器は剣であり、多少動きに特徴はあるものの、剣からビームを出すみたいな突飛な技はない。彼らと比較すれば断然合わせやすいと思う。
オレはライオットがいるであろう、騎士団の前方を見ながら口を開いた。
『わかりました。本体の戦闘に参加します』
『おう、よろしく頼まれてくれ。戦闘時にまた声をかけるわ。お仲間たちへの連絡をよろしくなー』
そう言ってライオットは通信を切った。オレもマージフォーネを一度つついて通信を終わらせると、期待を込めた目をしているオーレン達へと向き直った。
「さっきのって、ライオットさんからですか?」
「なんて言ってたの? もしかして僕たち、ボア本体と戦える!?」
「あーうん。確かにライオットさんからで、ボアがらみの話なんだけどな――」
その後ライオットから聞いた話を離すと、目をキラキラとさせていたオーレンの時が止まった。




