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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第二十五話

結局ミシェリアが満足するまで会話をしていると、部隊に戻ることが困難な時間になってしまった。話の内容は、今までの旅のことや向こうの世界のこと。好奇心の強い彼女には非常に興味のあることなのだろう。そしてその合間で必ず聞かれたのが、オレ自身のことだった。

少しでもオレことを知りたいという彼女の思いを感じ……こっ恥ずかしくも感じたが、オレは出来る範囲で彼女の質問に答えた。回答を返す度、彼女の表情がころころ変わるのが、少し嬉しい。それほどにオレに対して関心を持ってくれていると感じたから。ここまで思われたのは恐らく人生の中ではなかったように思う。そのためどう扱えばいいのか分からないという懸念もあるが。


そんなこんなで。先に述べたように帰れなくなり、その夜は彼女と同じテントで眠りについた。そして翌朝オレはライオットの部隊へと戻った。ミシェリアには翌日も一緒に行動しないか聞かれたが、生憎とオレたち旅人はあの部隊の先鋒を任されているため、離れることはできない。それならばまた夜に来て! とも言われたが……。夜は夜で、最終日の試験に向けた話し合いがあるとのこと。それを口にしたときの彼女のふくれっ面は、悪いと思いながらも少し可愛いと思ってしまった。いやまぁ、普段から彼女は可愛いんだけども。


『絶対、街に戻ったら城に呼ぶから。もうすぐにでも!』


別れる際、ぶんぶんと大きく手を振りながら、ミシェリアはそう声を張り上げた。それにオレも「あぁ、また呼んでくれ」と返す。

周りの目が合ったので、実際は「また呼んでください」という丁寧な言い回しであったが。






「……なんか今にも呼びそうな雰囲気だな」

遠征六日目。森の中での演習は昨日の段階で終わり、今朝は全部隊が森の外へ集結していた。

数日ぶりに新人騎士全員が集まったため、大所帯に見えてしまう。彼らの表情には、やはり慣れない環境で数日過ごしたことによる疲労が見て取れる。中には腕を痛めたのか、吊るしている少年もいた。回復魔法が使えるものはいるだろうが、まだ治せるような実力ではないということか。残念だが、彼は帰るまで戦力外だろう。


そのように久々に集まる騎士たちを、騎士たちの集まりから少し外れたところから見ていると。彼らの前に立つバイスや隊長たちの列にいるミシェリアと目が合った。彼女はキラキラした目でこちらを見ている。


「姫様、めっちゃこっち見てない……?」

オレの横でオーレンがぼそっとつぶやく。オレはそれに小さく頷くと、苦笑いを浮かべながら小さく新人騎士たちの方を指さした。こっちばかり見てないで前を向けと伝えたかったのだが、うまく伝わっていない模様。彼女が視線を戻す様子は見られない。むしろその横にいるエリスの方に伝わったようだ。


エリスはちらりとオレたちの方を眺め見ると、ミシェリアへと何やら耳打ちをする。するとミシェリアが名残惜しそうに視線を外し、新人騎士の方を向いた。それを確認したエリスは、再度こちらへ目を向けると肩をすぼめた。彼女への返答として、オレは小さく会釈をする。



「さて。森での実戦はどうだっただろうか」



そうこうしているうちに、バイスが全員に届くような声量で言葉を紡ぎ始めた。

「慣れない土地での野営や戦闘……講義や実習で一度なりとも経験したことでも、実際にやってみると思うようにいかないということを体験できただろうか。君達には、その経験を大事にしてもらいたいと思う。訓練と実戦は違う。そこを見誤ると、いかに勤勉なものであろうと失敗をするし、怪我をする。是非、忘れないでくれ」


バイスの演説に、新人騎士たちは真剣な顔を向けている。皆疲れているはずなのに、その姿勢は一文字たりとも聞き逃さないというような意思を感じた。彼らが真面目であるということもあるのだろうが、バイス自身の人徳もあるのだろう。堂々と演説をする彼の姿は、非常にカリスマ性にあふれている。


「……では、これよりこの演習の最後の課題を発表する」


バイスはそう言うと、ちらりとエリスの方に視線を寄越した。その視線を受けた彼女は、小さく頷くと一歩前へ出た。どうやら発表はエリスの口からされるようだ。

「近衛騎士筆頭のエリス・カーレストだ。最終課題については、私から説明させていただく」

そこで言葉を区切ると、エリスは腰に下げていた小袋から、折りたたまれた紙を取り出した。それを開くと、小さく掲げる。



「最終課題は、この平原の主……『ライトニングボア』の討伐だ」



……ん、なんかボス名のところで違和感が。


エリスが討伐対象の名を発した瞬間、一瞬ノイズのような耳障りな一音が聞こえた。


「な、なんか変な音しませんでした……?」

どうやら違和感を覚えたのは、オレだけではなかったようだ。違和感の正体を探るようにシシリーが耳元に手を当てながら不審げにつぶやいた。

「なんだろ……変換障害かな」

オーレンも不思議そうに耳元に手を当てている。彼の言葉にオレはふと疑問を覚えた。


「変換障害ってなんだ?」

「あ、知らない? 僕も又聞きだから詳しく知らないんだけどさ。僕たちが聞いてるこの世界の言語って、実は僕らが理解できる言語に勝手に変換されているんだってさ」

「……あー、そういえば聞いたことあるな。口の動きすらシステムの変換対象にされてるのか、普段は気が付かないけど。異世界なんだから、当然日本語を話してるわけないもんな。……なるほど。ということは、ボスの名前をオレらが分かりやすいように変換された際に、なんか障害があったんじゃないかって、そういうことか」

「そうそう」


改めて旅人というのは規格外な存在だなと思う。この世界ではめったにお目にかかれないような戦闘能力に加え、一度では死なない体。そして、どの言語にも対応できる驚異の適応力……。完全にチートキャラだ。


これだけの環境を整えて、『未来を憂う者』とやらはどこを目指してほしいんだろうか。


ふと思い出すのは、忘れもしない……この世界『アークレスト』に舞い降りた初日。現在では到底集まり切れないだろう旅人たちの前に、彼は突如虚空に現れた。曰くこの世界で世界を救う力を蓄えてほしいとのことだったが……。


世界を救うっていうのは、この世界のことか? それともオレたちのいた世界の話なのか? あるいはもっと別のところなのか……。あれ以後あいつは出てきてないから、結局わからず仕舞いなんだよな。それに、世界を救う力ってなんだって話だ。


世界を救うなんて大それたことを掲げられているからして、その力とやらは相当なものなのだろう。もしかしたら、ゲームよろしくこの世界にはラストダンジョン的なものが用意されていて、そこのクリア報酬のようなものが必要なのかもしれない。……じゃあそのラストダンジョンとやらはどこにあるのだという話になるが。


まあ何にせよ、まだまだオレたちは旅人のままって感じだろうな。なんか、余りに馴染み過ぎてというか……便利すぎて元の世界に戻りたくなくなるわ。


現実的な体感にシステムという補助が付いたこの世界は、人によるだろうが非常に多くのことが簡単にできてしまう。元の世界でどんなに足が遅かろうと、ここでは少しレベルを上げれば超人的なスピードだって得られる。


もしも、この世界での役割が終わったときにいざ現実世界に戻れと言われたら。


……果たしてオレはどのような反応を示すのだろう――


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