第十六話
「……ぐっ」
武骨な木の棒が遠慮なく振り下ろされる。
目の前に立つのは、緑の肌の人型に近いがどこかいびつな形状の魔物だ。細身の成人男性ほどしかない体格のくせして、振り下ろされた木の棒は太く、今のオレの胴体ほどもあると思われる。恐らく人間以上の筋力を有しているのだろう。当然、そんなものが当たったらただでは済まない。
オレは正面からその棒切れを自身の剣で受け止める。手がしびれるほどの衝撃が腕をかけた。ざりっと地面をえぐって少しだけ後退する。だがHPへの影響はほとんどなく、敵の動きも完全に止まった。
「ギ!? ググ!」
「んぎぎ……っ」
体格の割にオレの筋力の高さに驚いたのだろう。一瞬抑え込んでくる力が弱まったが、すぐにつぶしてやろうといった勢いで重さが増した。それに対抗して、オレも剣を押し上げる腕に力を込めた。
「リカさんっ敵影右です!?」
「ギガァ!!」
不意に後ろからシシリーの切羽詰まった声が聞こえた。と同時に聞こえてきたのは右方向からの魔物の雄たけびだった。
「ちっ」
オレは咄嗟に受けていた木の棒を左にいなし、一歩後ろへ下がる。木の棒はドスンと鈍い音を立てて地面へと叩きつけられた。直後、オレの元いた場所へ同じく木の棒を持った魔物が割り込んできた。同様に空を切り裂く音を立てながら、振り下ろしてくる。
……お。
そこでふと妙案が浮かぶ。何やら体自体が訴えてきたようなその衝撃に、オレは身を任せた。
「よっと」
オレは小さくジャンプして横から割り込んできた魔物の背中へと自身の右肩から背中をあわせるように飛び乗った。その勢いのまま魔物の背中に沿うように回転し、地に足をつく前に。
「くらえっ」
視界を仲間に遮られ腹立たしそうにしていた魔物の首を斬りはらった。首をはねられた魔物は、切り口からおびただしい量の黒い霧を吐き出したかと思うと、直後全身を黒い霧へと変えて消滅した。それを確認する前に、オレはその場でぐるりと反時計回りに回転し、背中を移動された不快感に背筋を延ばしていた魔物の胴体を切り飛ばす。胴体を分離されられた魔物も、同様に間髪おかずに全身を黒い霧へと変えていった。
「うわっとと……」
そこでオレを動かしていた衝動のようなものが切れる。まるで独楽のように回転した自身の勢いを殺しきれずに、オレはバランスを崩し両手を地面につけた。その状態のままちらりとあたりを見回す。一応視界には捉えていたが、完全に魔物の恐怖が消えたかどうかの確認。
「……戦闘終了ってな」
手に付いた土を払い、腰に剣を差しながらオレはふうと小さく息を吐いた。
「……時々さっきみたいな衝動があるけど。相変わらずえげつない身体能力だ」
「リカさん」
戦闘が終わったとみるや、シシリーが近づいてくる。彼女は少し興奮した様子で目をキラキラさせていた。
「お疲れ様です。すごいですねさっきの動き! びっくりしました」
「そっちもお疲れ様だ。やっぱそんな足が速くない敵には圧倒的だな、ガンナーは」
オレから少し離れたところで先に戦闘をしていたシシリー。オレが戦闘を始めるまでの少しの間しか見えなかったが、彼女は敵に一切の接近を許すことなく、ガンガンと相手の体力を削っていた。まさにたどり着かれる前に蜂の巣であった。
オレが称賛を口にすると、彼女はそんなことないですよと照れた様子で首を振った。
「確かにさっきみたいな近距離しかできない敵に対しては、一方的に攻撃できますけど。でも火力がそんなに高くないので、結構時間がかかっちゃうんですよね。油断してたら、その間に近づかれちゃいますし……」
「まぁそこは、固定砲台って訳でもないし動いていくしかないわな」
でも確かに火力面では厳しいかもしれないなと、オレは先ほどまで彼女が戦っていたであろう所へ視線を向けた。
オレの攻撃力がレベルと比較しておかしいってのもあるんだろうけど。それでもサブ職とはいえスキルの恩恵が乗ってる状態で確殺できないとは。射撃耐性でもあったのか、あるいはサブ職だとそんなもんなのか。まぁでも、メインにしてるときもそんなガンガン敵倒してる印象はないなぁ。
ルインプロフェッサーを獲得する前の、メイン職としてガンナーを扱っていた数日前の記憶を思い返す。
確かに、彼女が同じ敵の相手を終始受け持つ機会というのはさほどなかったように思える。
基本的な彼女の戦法は、まさに遊撃というのがしっくりくるものだ。前衛であるギルバインが受け持つことが出来ないとき、彼に敵が集中しないように分散させたり、後衛であるオーレンやミヤビのところへ敵が行きそうならば相手をする。また得意の速さを活かして戦場を大きく立ち回り、回復が届かなかったときのアイテム係などの補助もになったりと、かなり柔軟な戦闘をこなしていた。
最後尾で戦場を俯瞰していたオレだからよくわかる。
改めて考えるとめちゃくちゃパーティ戦特化なキャラだなぁ、シシリーの職構成。
一人での戦闘ではあまり目立った戦果は上げられないが、パーティ戦となったときに真価を発揮する。それが現在のシシリーの特徴といえよう。
それに対して、オレは絵にかいたような脳筋の道を突き進んでるよな……。
自身の戦闘を振り返りながら、オレは小さく肩をすぼめた。
オレの……というか紅魔の状態の戦い方は、常に敵の真ん前に立つものだ。レベルを上げればもしかしたら違うのかもしれないが、今の段階で遠距離攻撃手段が一切ないためである。
確かに近接の中では筋力も高ければ耐久もかなりあるため、非常に強い職と言えるのだろう。
けどそれ以上に不器用すぎだろ……。後衛の恰好の的じゃないですか。
いかんせん剣のリーチ以上にいる遠くの敵を攻撃する手段がないため、仮に魔法を使う輩と戦闘になれば防戦一方。対抗する術としては、自慢の健脚を用いて強引に懐に入るくらいか。
……仮にシシリーと戦闘になったら、勝てる気がしないな。
近づかないと戦えないオレと移動砲台であるシシリーとの相性は、彼女の一方的な優勢だろう。
村人である元の状態でも勿論敵うわけないし。シシリーとは仲良くしとこう。
オレはおもむろに真顔でうんうんと頷く。
オレの奇行にその隣で首をかしげる件のシシリーであった。




