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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第十四話

「どうしました?」

「あぁ。ちょいと君に用があってな。お前らは先行っててくれ。後ですぐ追いつかせるから」

オレが近くによってそう問いただすと、ライオットは小さく頷いたあとオレの後方にいる女子軍団に向かってそう声を投げかけた。すると女子の方から非難の声がちらほら上がる。


「えーそんな幼い女の子に無理させるんですかー?」

「隊長は幼女趣味だったんですか。えー引きますわー」

「うるせぇそんなわけねーだろうが。というか、お前らより旅人のこの子のほうがよっぽど体力あるわ。あほなこと言ってないで、さっさ行け。しっし」

女子たちの声に面倒くさそうにそう返したライオット。最後には畜生扱いのように手を乱暴に振った。彼女らの方も半ば冗談だったのだろう、その扱いにも別段何も感じていないように、きゃーきゃー言いながら先へ進んでいった。


「ったく。まがりなりにも長距離演習だってこと、忘れてんじゃないだろうか……」

「あはは……」

やれやれといった様子で腰に手を置きながら、ライオットがため息をついた。オレは何も言えず苦笑を浮かべる。


「……しかし、彼女らに比べて君えらい落ち着いてるな。年齢の割に」

するとその後流れるように首を動かして、彼はオレを見下ろしてきた。それにオレは別に隠す必要もないかと思い、肩をすぼめる。

「ぼく……いえ私の場合、見た目年齢と実年齢にちょっと差があるので。こう、ちょっと事情があって」

「成程、そんなことが。……ちなみに女性にこういう質問は憚られるが、おいくつで?」

「今年で二十四になります」


「はっ!?」


オレが実年齢を公表すると、ライオットはぎょっとした様子で体ごとこちらに向いてきた。


……まぁ、そりゃそうなるわな。ぱっと見ダブルスコア以上の差だから。オレだって『は!?』とか漏れちゃうわ。


その後彼は口をあんぐりと開けたまま、せわしなくまばたきをしていたが、やがて落ち着いたのか小さく息を吐くと若干乗り出していた身を引いた。


「……いや悪い。ちと想像の埒外だったんで大袈裟に驚いちまった。道理で落ち着いてるわけだ。新人騎士の誰よりも上なんだからな。悪いな、ガキどもが迷惑かけて」

「いえ。まぁ……話題についていくって面では少し苦労しますけどね。でも、新鮮ですよ」

タダで、しかも大っぴらに女子高生たちと戯れる機会だ。向こうの世界ではオレ程度の凡人なら、お金払ったうえでこそこそしなければならないだろう。イケメンはその限りじゃないが。

「やれやれ。俺なんかよりよほど人間が出来てるじゃないか。……あいつらも君を見習ってほしいもんだ」

彼も彼で、少女たちに振り回されているのだろう。若干疲れた様子で遠くを見ながらそうつぶやく姿は、どことなく特定の誰かを指示しているようにも見えた。


「まあしかしだ。それならそれで逆に好都合だな」


少しの間遠い目をしていたライオットだったが、すぐに首を振ってオレの方へ向き直った。彼はそう口にしながら腰に下げた小さなポーチに手を突っ込み、何やらごそごそと漁り始める。

「えらい前置きが長くなっちまったけど。君をこの場に呼んだのは、これを渡すためだったんだ」

やがてお目当てのものを見つけたよう。そう言いながら彼が取り出したものは、透明な水色の宝石がついたネックレスだった。その宝石の中には、なにやら見たことのない紋章が埋め込まれている。


「これは?」

オレは目の前につるされ左右に揺れる宝石を眺めた後、ライオットの顔をうかがう。当の彼は同様の一品を自身の首元にかけているのを見せた。

「これは『マージフォーネ』っていってな。これをつけた者同士だと、離れたところでも話が通じるっていうものなんだ」

「まあ一回実践してみようか」とライオットはそのマージフォーネなるものをオレの手をと掴ませる。その後首にかけてくれといったジェスチャーをした後、数歩オレの元から離れた。

オレがマフラーの下に吊るすのを確認したライオットは、自身の首もとにあるそれをトントンと指で二回たたいた。そして小さく口を開く。


『聞こえてるかー?』

「おぉ!?」

何処からともなくライオットの声が聞こえた。しかもすぐそばから。


『ははは。まあこんな代物だ』

オレが思わず周囲をキョロキョロ見回し始めたのを見たライオットが再び口を開くと、同様に近場から彼の声が聞こえた。

『これなら離れてても意思疎通ができる。昨日の演習を見て、周りが見えてるやつに配ってるんだ』

『二回そいつを叩いたら通話開始で、そのあと一回叩くと終了だ。簡単だろ?』という彼の説明を受けて、オレもマフラーの下にあるマージフォーネを二回たたいた。


『こんな感じですか?』

『ああ、ばっちりだ』

動作の確認が取れたとみるや、ライオットは自身のそれを一回指で小突きながら近づいてきた。それに伴い、オレも一回小突く。


「昨日の段階で、君の状況把握能力は高いと判断した。まあ、この演習は指揮官として後輩たちの指揮を執っているやつらの訓練でもあるから、本来なら指揮官同士をつなげるものがいいんだろうが。君はそういうわけでもないからな。俺にしか繋がらないようになってる。何か戦況に変化があったと思ったら、俺に伝えてくれ。恐らく遊撃に回ってもらうことになるだろうけど」

「成程……」

オレはライオットの意図に納得しながら、マフラー越しで見えないが首につるしたマージフォーネを見下ろした。


確かに仲間内でのオレのポジションが戦況把握だ。前で戦えるようになったこれから先がどうなるかは分からないが、少なくとも多少慣れた役割である、そのため昨日は戦闘が始まる前や戦闘中、シシリーやオーレンに指示を出す機会もあった。恐らくそれを見ていたのだろう。


普通こんな幼女が指示出してるなんて思わないだろうから、よく見てたんだろうな。成程、訓練の場でもありながら試験の場でもあるって感じか。


さすがに隊長と呼ばれるだけのことはある……ということだろうか。『隊長』という役職がどのくらいの地位にあるのか分からないが、騎士団長と並んで話をしているくらいだから下の方ではないのだろう。


「まあ、話は以上。後はガキどもの子守りを頼むわぁ」

だが、そう言うと彼は後方の隊長クラスが数人集まっている集団へと足を運んでいった。あくび混じりのその姿からは、新人騎士たち同士の面倒には首を突っ込まないぞという職務放棄感が漂っていた。


……まぁ、気持ちはわからなくもないけどさ。


オレは離れつつあるライオットの背中を見ながら小さくため息をつく。全く、優秀なのかものぐさなのか……よくつかめない男だ。


そしてその彼がさじを投げた集団の中へ、今からオレは戻らなければならない。


「……というか、結構離れてるな」

改めて戻る予定の集団へと視線を向けると、百メートル以上の距離が開いていた。オレは駆け足で集団へと追いつく。


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