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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第三話

「4人用限定クエ?」



日が傾き一旦宿に戻ったオレたちは、その後ギルバインとミヤビと合流し、宿の一室で情報を交換していた。


「はい、そうなんです」

どうやらギルバイン達の方には、目ぼしいクエ―ジョブクエストは発見できなかったらしい。ただ、見つかったクエストと場所は記録してあるので、後日オレら三人が同じ道を通ってクエスト数に上下があれば、それがヒントになるので決して無駄にはならない。

そしてオレたちの側の報告になったとき、出くわしたシシリーのジョブクエストの話になった。


「そのクエストは、四人じゃないと受けられないですか?」

「はい。クエスト条件が指定されていて、そこに参加人数四人まで……ってクエスト説明欄にあったんです。どうやらそれが馬車の限界人数らしくて」

クエストを持っている人物に近づくと、メニュー画面にクエストの簡易説明が表示されるようになる。シシリーが言うには、そこに四人限定のクエストと言う旨が書かれていたのだという。

「四人か……」

小さくつぶやいて、ギルバインが腕を組んだ。


この場にいるのは五人……条件を満たすには、誰か一人がクエストに参加できないということになる。それはすなわち、クエストをこなす上で、敵から得られる経験値やアイテムなどが得られず、一人だけ差が出来てしまう……という意味になる。

今まであらゆるクエストをこなしてきたが、人数制限クエストは比較的良く目にするものにあたる。だがそれの上限人数は十人前後で、オレたちは何の支障もなく受注することが可能だった。中には今回のような少人数用のクエストというものも存在したが、それらは回避してきた。


しかし、今回はそうもいかない。ジョブクエストであるので、出来る限り消化しておきたいものである。


「ま、まぁいいですよ。今のままでも十分わたしは満足ですし、このクエストを見送っても……」

「そうはいかないだろ。……いいよ、オレが残るから」

この五人のなかでこの場に残って一番支障のない人物は、間違いなくオレだ。参加人数が四人、ということを聞いたこの場の人間は、恐らく全員それを考えただろう。だが、オレに気を遣ったのか、シシリーは慌てて遠慮の言葉を口にしたが、それを遮ってオレは口を開いた。


「いいのかい、リン?」

ギルバインも気遣うようにオレを見てくるが、オレは肩をすくめておどけたように言う。

「問題ないさ。聞いた限りだと、そのクエ丸一日とか使いそうじゃん。その間ずっと荷物ここに置くのも、不安でしょ。戦闘で役に立てない分、ここで貢献するさ」

「そうか。……リンがそこまで言ってくれるなら、頼むわ」

オレたちのリーダーであるギルバインがそう言うと、それがオレたちの決定になる。


「さて、そうと決まったら明日そのクエストをこなしに行こう。そうなると、今のうちに遠征の買いこみしとかないとだな。ミヤビ、買い物に付き合ってくれ」

「分かりました」

どっこらせ、とあぐらをかいていたギルバインは立ち上がり、ミヤビを連れて部屋を後にして行った。



「……ごめんなさい」



二人を見送ったオレは、さて寝る時間までの間何をして過ごそうかと考えだしたところ、ふとか細い声をシシリーがあげた。

「わたしのジョブクエストなうえに、リンさんに残っとけだなんて迷惑を……」

シシリーを振り返ると、彼女はきゅっとこぶしをにぎりながらうつむいていた。その顔色はうかがい知ることはできないが、苦い顔をしているのは確かだろう。


本来喜ぶべき自分のジョブクエストのはずなのに、この少女からはその様子が感じられない。それはオレを気遣ってのことなのは明白であり、彼女のその優しさが嬉しくもあり、今のオレを困らせる要因でもある。


……どうフォローすっかなぁ。


ぽりぽりと頭を掻きながら、オレは少し思案する。やがて的確なフォローの仕方が思いつかなかったオレは、とりあえずシシリーの頭に手を置き、くしゃくしゃと頭を撫でた。


「っ!?」


「まー、オレのジョブクエストがないのは今に始まったことじゃないし、シシリーが気に病むことじゃないさ。居残りだって、今の状況を考えたら当然の采配だし、オレはそれで構わないよ。それよか、無事に帰ってきて新しい職と土産話を聞かしてくれよ」

諭すようにオレが言葉を紡ぐ間、シシリーは固まったかのように身動きをしなくなった。それが頭を撫でられて恥ずかしいからではないかと察したオレは、言葉を切ると、さらさらとした髪が心地よかったシシリーの頭から手を離す。


「え、あ、あの……」

「ん?」

「い、いえなんでもないですっ。……分かりました。リンさんがそういうなら、頑張って新しい職ゲットしてきます」

「あぁ、楽しみにしてるわ」

「はい! あ、それじゃわたし部屋に戻って明日の準備してきますね」

そう言い残して、シシリーも部屋から出て行った。




「リンさんってさ、向こうの世界でモテてたりした?」

「……何突然?」

シシリーが出て行ったことで、部屋に残ったのはオレとオーレンの二人になった。それを見て、オーレンがぽつりとつぶやいた。それにオレは懐疑的な視線を送る。


「いやー、なんかやけに女の子の扱いうまくてうらやましいなぁ、って」

「いやいや! そんなことねーから。年齢=彼女いない歴だからな、なめんな」

「嘘だー。何気なしに女の子の頭撫でるとか、僕無理やもん。絶対モテたでしょ?」

「ないから。んー、シシリーはオレから見たら年下だからな。まぁ、妹みたいなものというか。同年代とか年上相手には無理だなオレも。

……そういうオーレンはどうなんだよ? 結構人懐っこい部分もあるし、割と仲のいい女の子とかいたんじゃないの?」

こちらばかり攻められているのを感じたオレは、逆に攻めに回ってみた。すると、少し前のオレと同じように、オーレンはぶんぶんと大きく首を振った。


「それこそないない! 僕なんて、女の子の前に立つだけで緊張して口が回らなくなるもん」

「でも、シシリーとは仲良さそうじゃん」

「あれはっ。あれは、シシリーが話しやすいだけだよ。付き合いも長いしさ」

「まぁなぁ……。確かに、シシリーは話しやすいな」

今までの旅路を思い返しながら、オレはつぶやく。

「可愛らしいし、気立てもいいし、優しいし、おまけに料理も出来る……か。改めて考えると、シシリースペック高すぎるな。こりゃ、あっちの世界だと相当モテてたんだろうなぁ。まあ本人は気付かないタイプだろうけど」


基本的に、こちらの世界での見てくれは、地球のときのそれと変わりはない。ただ、ゲームのキャラの名残なのか、髪の色や目の色などは様変わりしている。明らかに日本人風の容姿なのに、金髪碧眼という例は全然珍しくない。逆にオレのように黒目黒髪という純日本風の見てくれは、少ない部類に入る。

そうした背景がある中、シシリーはかなり整った顔立ちをしている。オレの視点から言えば、テレビに出てくるアイドル達にも引けは取らない。


「なんか、僕たち幸運だよね」

「かもしれないなー。そうそうお目にかかることのない人種だもんな」

同じことを考えているのか、オーレンもうんうんと大きく頷く。

「だねー。……じゃあさ、ギルさんとミヤビさんはどうかな?」

「あの二人か……」

なんか、モテるモテないの疑り合いから、話がそれているのを感じた。だが、さして執着のあるネタではなかったので、そのまま話を戻さずにオーレンの出したお題目について考える。


「ギルさんは、なんか男らしいというか……オレたちのリーダー役でもあるし、頼りになる兄貴って感じかな。前衛一人で支えてくれてるし」

「確かに。ギルさんがいてくれるおかげで、まとまりが早くてすごく助かるよね」

「ほんと、ああいう頼りがいのある男っての、割とあこがれあるんだけどなぁ。なかなかそうはいかんわなぁ……」

どちらかと言わなくても、オレは頼りがいのある人間ではない。なにか問題があった場合、すぐに指示が出せるどころかオロオロしてしまうタイプである。

「リア充だもんね、あの人」

すると、そういうまとめ方でいいのか的な発言をオーレンが口に出した。


「じゃあ、ミヤビさんは?」

「ミヤビのやつは……」

オレの印象だと、ミヤビはかなり我の強い人物だ。聞かん坊というわけではないが、強い自分の芯を持っていて、他人の意見に惑わされない強さを持っている人物だと考えている。

後オレに対してだけなのか分からないが、なんか口が悪い。


……恋人であるギルさんには甘々もいいところだけどな。


「んー、我が強くて割と頑固……かなぁ。さすがに慣れてきたけど、オレは比較的苦手な人種かもしれない?」

「なんで疑問形なの?」

「オレも分からん」

「お、おう……」

なんとも微妙な空気が辺りを包み込んだ。

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