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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第四話

「今日は、みんなに個人的にお礼を言いたくて招いたんだ」


一通り足の快調具合を示したミシェリアは、そういいながら自分の席へと戻る。その間に、小さく「……まぁ」と続いて何か口元でなにか呟いたように見えた。加えてちらりとオレの方を見つめてくる。しかしすぐに視線は外され、その後自身が座っていた席の前に立つとぐるりとオレたちを見回した。先ほどオレを見たのは、一体何だったのか。たまたま視線が合っただけか。

しかし、何を呟いたんだろ?


「昨日は、私の窮地を救ってくださり、誠にありがとうございます。不肖このミシェリア・イレイ・ラニルアータは、最大限の感謝をあなた方に捧げます」

ふと気になったその疑問を熟考する前に、ミシェリアが優雅にお辞儀をし始め思考が霧散した。それほどまでに、彼女のお辞儀は堂に入った見事なものであった。否応なしに、彼女の破格の身分を意識させられる。


「……あは。何か言ってよ、なんか気恥ずかしいじゃない」


と思ったら、直後に苦笑いを浮かべそう漏らした。下手に砕けた態度で接していたせいで、急に態度を改めて恥ずかしくなったのだろう。あまりのギャップの大きさに、オレは思わず小さく吹き出してしまった。それを見たミシェリアが、小さく頬を膨らませた。

「何も笑うことないじゃんー!」

「あぁ、悪い悪い。あまりのギャップに、ついな」

「ぎゃっぷ……?」

「差が大きいなってことさ」

オレがそう苦笑交じりにこたえると、ミシェリアは「それは、そうだよっ」と口を尖らせた。


「普段からあんな大仰な口調してたら、疲れるもん。勿論一国の姫であるなら、いつみられてもいいように、礼節・言葉遣いはちゃんとしとくべきだって、私も思うけどさ」

「それは確かに疲れそうだよな……」

「だよね! 私はそういうの苦手でさー。だから、それが出来てるお姉様は本当にすごいと思うよ」

その後も、姉のすごいところを列挙していくミシェリア。以前には、姉の代替品だと自身を卑下していた彼女。その心情を吐露する現場に居合わせたオレは、姉妹仲は悪いのではないかと思っていた。しかし彼女の楽しそうに語る素振りを見る限り、そのようなことはなさそうだと感じた。逆に、どれだけミシェリアが姉に懐き、そして尊敬しているかがうかがえる。


姉のことを語るミシェリアが場の空気を和ませてくれたおかげか、限定的にしか口を開かなかった空間に会話が生まれだした。好奇心旺盛なミシェリアが、旅人のことについてや冒険のことについて聞きたがったり、逆にお姫様ということに興味を示したシシリーが、お城の生活はどのような感じなのか聞いてみたりだ。

彼女らの話を横で聞きながらふとオレが気になったのは、エリスのことであった。旅人にあまりいい印象のなさそうなエリスはどのような反応を示すだろうか、と。そう思い、興味本位でミシェリアの横で佇んでいる彼女をちらりと盗み見たところ、変化があるようには見えなかった。


……と、思ったけど。地味に顔しかめてないか……?


変化がないと思ったが、よくみると若干眉がひそめられているように思われる。もう少ししっかり観察しようと意識を集中する。すると彼女から冷たい視線が飛んできたので、慌てて中断し明後日の方を向いた。触らぬ神に祟りなし。


そうしばらく雑談をしていると、そこそこ時間が経っていたらしい。エリスがすすすとミシェリアの背後に回り、彼女に耳打ちをした。なにかしらささやかれたミシェリアは、その後壁に掛けられた時計を眺め見て残念そうな表情を浮かべる。

「もうそろそろ時間みたい」

そう言って彼女はソファから立ち上がり、ドレスの裾をつまんで優雅に頭を下げた。


「本日はお声かけに応じお集まりいただいて、誠にありがとうございました。とても良くとても興味深いお時間を過ごさせていただきました。……ありがとね!」

相変わらず高貴モード(と言っていいものか……)が続かなかったミシェリアは、お辞儀が終わったと思ったら、無邪気に笑みを浮かべ砕けた表現で礼を口にした。


「いえいえこちらこそ。私たちは旅のもの故、普段は粗忽な生活を送っております。なので位の高い方々の私生活というのは、非常に関心の深いお話でした。今回の歓談でそれが聞けたことは、年若いシシリーたちにとっても、私にとっても益になることだったと感じております。……ぶっちゃけ中世貴族の生活様式を聞く機会なんて、向こうの世界じゃ絶対ないもんで。おじさん内心高揚が過ぎて、今すぐ奇声あげながら城内を走り回りたい気分よ!」

「やめてください」

それに返答したのは、我らのリーダーであるギルバイン。最初は年長者らしい丁寧な口調だったが、意趣返しなのか途中から彼らしさを前面に出してきた。すぐさま横のミヤビから冷静な突っ込みが入る。それにミシェリアはカラカラと笑みをこぼしたが、隣にいるエリスは渋面だ。


ほんと、よくやるなぁギルさん……。


オレはエリスの前でそんなボケを前面に押し出すことなんてできない。改めて彼の根性に感服する。真似しようとは、あまり思わないが――




「さて。帰路の案内をしよう。私についてきてくれ」

お互いの挨拶が終了したとみるや、エリスがミシェリアの元から離れドアの方へ向かう。それについて行こうと、オレたちも席を立った。


「あ、ちょっといい?」


……と思ったら、不意にミシェリアが声を上げた。何事だろうと一同で彼女の方を振り返ると、その視線はオレに向かっていることに気が付く。

「時間があれば、なんだけど。リンさん、このあと少し残れるかな……?」

「オレか?」

名指しされたオレは一瞬呆けたように彼女を見た。その後ちらりと仲間たちの方に視線を向ける。予定では、今日は本格的にレベル上げに街の外へ向かうつもりだったが、もう時間的にそれも厳しい。なのでこの後の予定はフリーだ。それが分かっているため、仲間たちの表情も別に構わないんじゃないか、といった様子だった。


「あぁ。特に問題ないけど」

「よかった!」

オレがそう言うと、ぱあっとミシェリアの顔に笑みが広がる。


「姫様、それは……」

そこでエリスが苦言を口にする。確かに彼女の立場なら、ミシェリアをオレと二人にさせたくはないだろう。衣服ボロボロ事件も記憶に新しいのだから。

「大丈夫だよエリス。リンさんは私が後でお見送りするから。お仲間さんたちを先に送ってあげて」

「いえ、私が心配しているのはそういうことではなく……」

的違いな彼女の発言に、エリスは渋面を作った。どうやって主を説き伏せようかと考え始めたことだろう。しかしエリスが妙案を浮かべる前に、ミシェリアは意志の強さがうかがえる視線を携え、静かに言い放った。


「エリス、お願い」

「…………」


以前同様それ以上言葉を交わさずに、視線だけで会話を始める二人。外野がどうにもアプローチできない空気を纏う二人に、オレたちはただお互い顔を見合わせることしかできない。


「…………わかりました」

やがて街中で発生した時と同じように、エリスが根負けして小さくため息を吐いた。そしてこれまた同じく、オレへと冷たい視線を投げかけてきた。

「……この者たちを送り届けてきます」

それだけ言うと、エリスは仲間たちを連れて部屋を後にしていった。部屋を出るときに、それぞれ何事だといった好奇の視線を、ギルバインをはじめ全員から受けたが、オレだって何事か理解できていない。ただ肩をすぼめるしかできなかった。


全員が部屋を後にして。

残されたオレはミシェリアの方を向いた。

「……で。なんでオレだけ残るよう言ったのか、聞いてもいい?」

気を取り直してミシェリアにそう問いかけると、彼女は何やら考え込むように小さな拳を口元に持ってきていた。よく聞き耳を立てると、その拳の隙間からぼそぼそと呟きが聞こえる。

「……あの、ミシェリアさん……?」

「……――あ、ご、ごめんね!?」

おずおずと再度問いかけると、ミシェリアは今気が付いたように慌てて両手をぶんぶん振りはじめた。

可愛い。


「あーえと、あの。……そう! ちょっと付いてきてもらっていいかな?」

内心彼女の仕草に萌えていると、不意にミシェリアがドアの向こうを指さしてそう口にした。そうしてオレの言葉を聞く前に、ドアの方へと歩き出す。

「はぁ。まあいいけど、どこに?」

「いいからいいから」

そう言われるがままに、オレはミシェリアの後をついて部屋を後にした。


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