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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第二話

「……噂ではなかなか入ることができないって言われてたのに。まさか、遠くから眺めていたこの城に入れる機会が、こんなに早く来るなんてなぁ」

馬車から降り立って、目前にそびえたつ巨大な城を見上げギルバインがため息を漏らした。その横では、仲間たちが声も上げずに同様に城を見上げている。


宿にエリスが現れたのち、彼女に言われてギルバインたちを引き連れると、外に止められていた馬車へと誘われた。近衛騎士……城勤めの人が使う馬車なので、えらい豪華なものなのだろうかと思っていたが、止まっていたのは大きいが割と質素なものだった。予想外だったのでそのあたりをエリスに伺うと、『式典などの催し事以外で使う用であれば、こんなものだ。豪華なものを使って、要人が乗っているなどと吹聴する必要もないだろう。街のものを驚かせてしまう上、狙ってくれと言っているようなものだ』とのことだった。確かに言う通りだろう。



「……実は、俺も城に入るのは初めてなんだよな」



そう口にしたのは、オレの横に並びしみじみと城を眺める偉丈夫。ちゃっかりついてきたジェリクだった。一体どこから嗅ぎつけてきたのか、オレたちが馬車へ乗り込む際彼が姿を現した。曰く、城から馬車が出るなんて普段見ないイベントを聞きつけたからには、追いかけるしかないだろうとのこと。

その行く末がオレたちを呼ぶためのものだとはさすがに思わなかったそうだが。


「意外だな。てっきりお前はあれこれ探索してるものだと思ったけど」

ジェリクの言葉にオレは彼を見た。彼はあまり公表していないが情報屋だ。どれだけのパイプを持っているのか知らないが、これだけ目立つ建造物に調査の手が入ってないとは思えなかった。

だが彼は、オレの物言いに肩をすぼめた。


「ここにきて間もないんじゃ知らないのも無理はねえか。この城の警備はくそほど堅いんだよ。そりゃもう昼夜をおかず完璧だ。だから無理に侵入することはできねえ。残る手立てとしては、今回みたいに城の住人に招かれることだが……そんなクエは滅多にない。そもそも、城の住人に知り合える機会なんてねえしな」

攻略組がこの街に初めてたどり着いてから、まだ半年も経っていない。その間に国の要でもある城に招かれるほどの信頼を勝ち取るということは、なかなかできなかったということだろう。

それこそ、オレのようなケースがイレギュラーなだけということか。


「なるほどね。……ということは、もしかしたらオレたちが城に入れた最初の旅人だったり?」

「……いや、残念ながら違うな。まあ、俺の知る限り二番手だけどな」

オレはその言葉にジェリクのほうに顔を向けた。オレたちが城に招かれるようになった事件のようなことが、ほかにも起こったのだろうか


「オレらの前にいたのか。どうやってはいったんだ?」

「同じさ。城の住人に呼ばれたらしいぜ。今じゃそいつは、数少ないユニーク職保持者だ」

「……ジョブクエストか何かだったのか?」

「恐らくな。直接話が聞けたわけじゃねえから、定かじゃないが。……ただ、そいつの職名は『聖騎士』だっていうんだから、ジョブクエストで呼ばれたんだろうな」

ジェリクがこれ以上はいい情報を持ってないと言いたげに、両手を体の外側へ軽く広げる。


オレより以前に城に招かれた旅人は、ユニーク職を獲得した。一方その次に招かれたと思われるオレも、ユニーク職を得ている。オレは肩をすぼめた後、目の前の城を見上げた。

「もしかしたら。城に招かれる系のクエストは、ユニーク職が得られるジョブクエストなのかもな」

「まぁ後続が一人でもいたら、ユニーク職じゃなくなるんだがな」

「……確かに」





「城を眺めるのはもういいだろう。城内に入る。ついて来い」


オレを含め、日の光を反射して輝く純白の居城に圧倒されていた面々に、先に馬車を降りていたエリスが声をかけてきた。見るといつの間にか彼女と距離が開いている。慌ててオレたちは彼女のもとへと走った。

エリスについていくと、たどり着いたのは正門ではなく比較的小さな両開きの扉だった。といっても正門より小さいというだけで、ずいぶんと立派なのには変わりないのだが。


「今回は姫様の独断のようなもので、正式な書面での招待ではないからな。正門から入るのが少々面倒なのだ。だから、普段私たちが出入りに使うこちらの扉から入る。あくまで特例で、だがな」

そう断りを入れて、エリスが城内へと足を踏み入れた。それにオレたちも続く。


扉の向こうに広がっていたのは、騎士団たちの詰め所のようなところだった。広い空間の中に会議用なのかテーブルが随所においてあり、壁際には武具の類が並んでいる。その空間をちらほら人が行き来していて、鎧を着こんでいるものやローブを着ているものと様々だった。ただ、一様にエリスの姿を視界に収めると立ち止まり、胸元に拳を当て始める。この世界の敬礼だと思われる。エリスはそれに片手を上げることで応じていった。


「なんか、ゲームみたいな景色だよなぁ」

「……お前、それ今更だろ」

思わずオレが漏らすと、横にいたジェリクが何言ってるんだと呆れ気味に答えてきた。その返答に改めて自分の発言を振り返ると、確かに今更だと思った。

オレはぽりぽりと頬を掻きながら、歯切れ悪く口を開く。


「……いやなんか、変に緊張してるんだろうな。落ち着かなくてさ、つい」

「気持ちはわからんでもないぞリン。俺も抑えないと今すぐあちこち走り回りそうなほど高揚してるからな! なにここカッコイイ」

不意に前を歩くギルバインが、肩越しにオレを見てきた。その顔はひどく明るいもの。だが、その横に並んで歩くミヤビがいさめる様にそっと彼に触れる。


「……さすがに擁護できないので、その気持ちは抑えてください、ギル」

「城内を走り回るなよ? 衛兵につまみ出されるぞ」


加えて、最前列を歩くエリスが棘のある口調でそうくぎを刺してきた。こうなるともう下手に物申すことはできないことが、彼にも分かったのだろう。ギルバインは両手を降参とばかりに挙げると、エリスについていくことに集中し始めた。


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