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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第二章 レベリング
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第一話

コンコン――

不意に扉が叩かれる音が響く。最初に反応を示したのは、一番扉に近い位置にいたオレだった。


「……? 誰だ?」

オレは掴みかけていたバッグを下ろし、誰に言うでもなく疑問を口にしながら扉の前まで赴く。だが、すぐに開けることはしない。誰か判明するまでは。ここは平和な日本ではないのだ。まさか開いた途端襲われる……なんてことはほぼ有り得ないとは思うが、警戒するに越したことはない。

「どちら様ですか?」

オレは扉のすぐ前まで移動すると、扉越しに誰何する。すると廊下から聞こえてきたのは、最近よく耳にする機会の多くなった声色。


「朝早くから申し訳ありません。宿の主でございます」


「? どうされました?」

知る人物であることが分かったオレは、ゆっくりと扉を開ける。扉の先には、身なりの整った中年の男性がたっていた。確かに、ここ数日お世話になっている宿の主人に相違ない。

その宿の主人だが、いささかこわばった表情をしている。一体何があったのだろうか?


「リィンベル様方を訪ねてきたという騎士様が、受付にいらっしゃっております」

その言葉で、オレは主人の表情が硬い理由をなんとなく察した。向こうの世界のもので言い換えれば、騎士団は警察に近いと思われる。つまり今の状況というのは、宿の主人からしたら自分の経営している店に警察が来ているようなものだ。加えて泊めている客に用があるとのことだし、揉め事が起こるのではないかと気が気じゃないのだろう。


「騎士様……? なんでそんな人が……その騎士様は何かおっしゃっていました?」

オレは眉をひそめて、小さく疑問を口にする。訪ねてきたということは用があるということなのだろうが、すぐには心当たりが浮かばない。オレが主人にそう尋ねると、彼は気が気でないといった様子で口を開いた。

「いえ、何も……。ただ、リィンベル様の名前を挙げて、呼んできてほしいと。……あの、非常に申し上げにくいのですが。当店での揉め事は……」

「いや、その点は問題ないと思うんですけど……」

主人がさり気なくまるで何かあったかのようにそう言ってくるが、オレ自身には騎士が訪ねてくる要件に、改めて考えたところで全く心当たりがない。この街で法を犯したつもりもないし、ましてやまだ数日しかいないのに騎士の反感を買うようなことをしでかした記憶も――



……あるわ。あったわ。



まだ頭が覚醒しきっていなかったのか、こんな大きなイベントを失念していたとは我ながら情けない。確かにもっと記憶に残る出来事が多かったとはいえ、忘れ去るには強烈すぎた。


「……もしかして。訪ねてきてるというのは、近衛騎士のエリスさんですか?」

「そ、そうです。よくお分かりになりましたね。……もしかして、お知り合いですか? なにか事件性があるわけでは……?」

「そうですね。彼女とは知己ですね。……恐らく、以前火急の用があって満足に話すことが出来ないことがあったので、それで僕を訪ねてきたんでしょう。……たぶん」

ミシェリアのこともあるし、強制的にひっ捕らえに来たわけではないと信じたいところだ。


「そ、そうですか」

それを聞くと、主人は安堵の息を漏らした。犯罪者を泊めていたとなれば、店の看板に傷がつく……とまでは言えないかもしれないが。いらぬ風評被害は出るのかもしれない。この街には多くの宿屋が他にもあるので、評価が下がる噂がたてば露骨に客が減る可能性がある。信用問題は容易にユーザーを引きはがす……それはどの世界でも同じということだろう。……ただ単に面倒ごとを避けたいだけというのも考えられるが。

「……とにかく。知らせていただいて、ありがとうございます。ちょっとあってみます。……ちょっと先行ってくる」

どのみち会ってみないことには要件が分からない。前半は主人に、後半に部屋の中にいる仲間に声をかけると、オレは部屋を後にした。






聖王都ラニルアータに存在していたシシリーのジョブクエスト、そして意図せず発生したオレのジョブクエストが終わってから数日後。紆余曲折があったが、シシリーは基本上位職の『ルインプロフェッサー』を、オレは戦闘上位職であり恐らくユニーク職でもある『紅魔リカ・リリエスト』を獲得した。

初めての上位職であるので、またいちからレベル上げを行わなければならない。だが、余りにハードで驚きに満ちたジョブクエストであったため、オレたちは一度休むことにした。


休むといっても街の外に出ないだけで、やることは多い。

装備の新調、アイテムの調達、クエストの有無の調査、気晴らしに観光……ぱっと思い浮かぶところだと、こんなものだろうか。ちなみにオレたちは、この数日は主にクエストの確認と装備の新調をしていた。


オレは今まで村人であり、ほとんど武具の類を装備できなかった。だが、ユニーク職を得たおかげで、剣系統の武器がすべて使えるようになった。……ただ、まだ筋力値が低いので最安値かつ最低限の性能しかない剣しか装備できないが。

一方シシリーのほうは、ルインプロフェッサー固有の武器というものがないため、サブ職にあてがっているガンナーの武器である双銃で戦える。困るのはメイン職のレベルが低いため、倉庫に眠っていた初期装備くらいしか装備できないことか。ただ、新たに武器を買うという手間がないだけお安い。いずれは武器の更新も考えないといけないが、今は手持ちのお金をすべて防具の新調へと費やせる。ほかのメンツは、武器と防具の新調を手持ちの資金の範囲内で行ったようだ。


そんなこんなで数日たって十分に休息がとれた。そのため、そろそろ街の外に出てレベル上げに勤しもうと思った日に、エリスが訪ねてきたのだった。




「……一体こんな朝っぱらから、何の用なんだろうなぁ」

オレは一人宿の部屋を後にし、階段を下りながらつぶやいた。


まあ、彼女単体で進んでオレを訪ねることはないだろうから……ミシェリアがらみってところかな。


エリスの旅人嫌いは承知している。そんな彼女が、旅人であるオレに個人的な用があって訪ねてくるとは考えにくい。ミシェリアの側近であることだし、彼女に何か言われて代わりに……というケースのほうがよほどしっくりくる。

「……まぁ、会えばわかるだろう。いくらオレがミシェリアに気に入られてるからって、まさかこんな公共の場でいきなり殺気バリバリで突っかかってくることは……ないよな?」

何はともあれ、会ってみないことには要件は分からない。オレは階段を降りきると、一応身だしなみが崩れてないかチェックする。個人の見解だが、彼女はこういうことにうるさそうな印象がある。下手に刺激したくない小心者のオレだった。


階段を降りた後は、人がすれ違える程度の幅の通路に面する。そこを道なりに進むと、受付があるロビーへと出られる。意を決して、オレはロビーへと足を運ぶ。



「……来たか」



宿のロビーに備え付けられている、ちょっとした憩いのスペース。その一角にある椅子に、凛とした雰囲気をまとう女騎士が腰を下ろしていた。

宿の主人の言った通り、そこにいたのはエリスだった。彼女はオレの姿を見かけると、かちゃりと鎧のこすれる音を立てながら立ち上がった。ただ、その鎧は以前ほど重厚ではない。どちらかというと騎士であるということを示すだけの、ちょっとしたものといった様相だ。非戦闘用のよそ行き装備なのかもしれない。

「えっと、お、おはようございます」


「……あぁ。おはよう」

近寄りがたいオーラをまとっているエリスに、なんと声をかければよいか。悩んだオレは、取り敢えず無難に朝の挨拶をすることにした。それに彼女も渋々と言った様子で返してくる。

エリスとは、ディーディスタール遺跡から帰ってきて意識のないミシェリアを託して以来だった。その時彼女の服が一部破かれていることに目にしたエリスに激昂されたのは、記憶に新しい。でもミシェリアが心配だった彼女は、割とすぐにオレたちを解放し、城に戻っていった。その際、確かにどこの宿に泊まっているか伝えたのだが……。


「……姫様がお前たちをお呼びでな。迎えに来たのだ」

「ということは、彼女は目を覚ましたんですね。容体はどうですか?」

「目覚め自体は早かった。だが、そのときはあまり体調が優れているわけではなかったようだったよ。まあそれもすぐに快方に向かい……今では相変わらず、いつ抜け出すかと気が気じゃないよ」

「……元気そうですね」

やれやれといった様子でそう口にするエリスに対し、オレは苦笑を浮かべた。


……でも、何ともなさそうで安心したわ。


エリスが知っているか定かではないが、ミシェリアは一度両足を引きちぎられるという致命傷を負った。その傷は、彼女に加護を与えている光の英雄の奇跡のような回復魔法により元通りに治されたが、想像を絶する激痛だったであろうことは容易に考え付く。それが原因でトラウマでも抱えていないだろうかと不安だった。治っているはずなのに、恐怖が植えつけられ足を思うように動かせなくなっているとか……あってもおかしくはないのではと。だが、聞く限りそのような後遺症はなさそうで、オレは安心する。


「ともかくだ。準備をして仲間たちを呼んで来い。宿の前に馬車を用意してある。急なことになるが、許してくれ。姫様がうるさくてな。お前含めて六人だと伺っている」

「大丈夫ですよ。まあこちらも、そんな急ぐ用事もないので。と、取り敢えず呼んできます」

ジェリクも入れて六人ってことなんだろうなと思いつつ、オレはエリスに断りを入れて仲間を呼びに戻った。


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