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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第二十八話

あけましておめでとうございます。今年も一年よろしくお願いいたします。

「よぉく感覚を覚えとけよ旅人。この体の正しい使い方ってやつを、特等席で見させてやるからよ」



そう言い終わるやいなや、青年が動かすオレの体がその場から飛び跳ねる。その直後、ドラゴンソルジャーの尻尾が真横から抉るように元いた場所を通過した。颯爽と空中で一回転し少し距離を置いたところに着地したオレは、右手でジェリクの剣を構える。


「……っふ!」


小さく息を吐く音と感覚がした。そこまでは動きを把握することが出来た。だが、その直後の視界の動きは、正直我が身ながら全く感知できなかった。


恐らく動いたのだとは思う。動いたという感覚はある。

けれど、あの丸太のような尻尾を切断し、ごつごつした太腿に深い切り傷をつけて元の居場所に戻ったという感覚は、一切ない。



『…………っガアアァアァアアァ!!?』



ドラゴンソルジャー自身の反応も遅かった。奴も自分が刹那の間に切り刻まれた事に気づくことができなかったのだろう。不意に訪れた激痛に、初めて状況を把握させられようだった。

「どうだ、追いつけたか?」

当の高速で切り付けた本人は、息一つ乱していない。重いはずの直剣の腹でぽんぽんと肩を叩くその様子は、遊び半分……というような雰囲気すらまとっている。

当然、動いたことすら朧気にしか分からなかったオレは、言葉を濁すしかない。

『いや、全然分からんかったわ……』

「なんだよ情けねぇな。ま、素人のお前に期待はしてなかったけどな」

『なら聞くなよな……』

「ははは。まぁこの体を使うんだったら、いずれお前も動けるようになるだろうよ」

ちらりと青年が動かしている少女の目線が、苦しんでいるドラゴンソルジャーを眺めた。


「しっかし、旅人ってのは便利だな。敵の体力がわかるたぁ、親切設計なことで」

『旅人じゃないお前にも見えてるのか?』

「ああ。恐らく、お前の体を動かしてる間だけだろうがな」

オレの視界には、確かにドラゴンソルジャーのHPバーが見えている。あれだけ重傷を負っておきながら、いまだに最後のHPバーが半分残っているのは驚異的だと思う。

……まあそれ以上に、一気にこれだけのダメージを負わせたっていう事実のほうが空恐ろしいけどな。


「まじでお前ら、ゲームみたいな世界を見てんだな」

『……なんでこの世界の住人のお前が、そんな感想持てるんだ?』

オレは何気なく呟いた青年の言葉に疑問を覚えた。

この世界では、元いた世界で使っていた横文字が通じない。ミシェリアがこちらの言う横文字の単語を聞いたら、首をかしげたのがいい例だ。世界が違うのだから、当然といえば当然だ。

にもかかわらず、この青年は平然と口にしている。その意味も、おそらくオレたちの理解と変わりない。奇妙な話だった。

オレがそう疑問を漏らすと、青年は小さく肩をすぼめた。


「言ったろ、あらゆる世界を見てきたって。それらが全部ファンタジックなものだったわけじゃねえんだ。そんなかには……たぶんお前らがいた世界とそう変わらない世界だってあったんだ。というか、同じ世界かもな」

『そんなことがあるもんなのか?』

「さあな。生憎とあまりに昔のことなんで記憶が曖昧でな。絶対とは言い切れねぇ。だが少なくとも、お前たちの世界と似たようなところを経験したことは、確かだな」

と、青年はそこで言葉を切った。どういう仕組みになっているのか定かではないが、意識だけあるオレに対して集中するためだろう。虚空に投げていた視線を、ドラゴンソルジャーに戻す。


「……まぁ、それはいい。で、だ。あんまり遊んでやるのも可哀そうだから、あのデカブツをとっとと仕留めるぞ」

『あ、あぁ』

オレたちが悠長に会話している間にも、ドラゴンソルジャーは動いていた。切り裂かれた足を引きずりながらも、オレの方に近づいてきては、残った腕で拳を振り上げていた。


「……その根性だけは、認めてやるよデカブツ」


拳が振り下ろされる中、青年はそうつぶやいた。


「まあただ、相手が悪かったな」


悠然と青年が影の魔手状態の左手を突き出す。苦し紛れの一撃なのだろうが、ドラゴンソルジャーの拳はその左手に正面からぶつかり、大きな鈍い音をたてた。その衝撃はすさまじかったらしく、青年……今はオレのともいえるが……の足元が少し陥没した。だが、こちらは一歩も動かない。


青年は完全に動きを止めたドラゴンソルジャーの拳を、床へと叩きつけた。直後ドラゴンソルジャーが苦悶の声を上げ、手を引こうとした。しかし完全に床に埋まった拳はすぐには抜けない。その間、青年は腕を伝って一気に肩口まで登り詰めた。

そしてドラゴンソルジャーの太い首の横で、剣を構えた。


「じゃあな。エネミーのシステムは分かんねえが。次復活する時は、もうちっといい戦いができるやつとやり合えるだろうよ」


それだけ言うと、青年は一気に剣を振りぬいた。

直後、ドラゴンソルジャーのHPが全損し、体がガラス細工のように粉々に砕け散った。ボス格の敵が倒されたときの、通常の魔物とは異なるエフェクトだ。

空中に投げ出された青年は、そのエフェクトのなか、自身の身長の何倍かある高さから危なげなく着地した。


「……残念、レアドロはありませんでしたってか」

敵が完全に消滅したことが確認されると、オレの視界にリザルト画面が表示された。そこにはとんでもない量の経験値とお金が表示されている。初めて見るような桁であった。恐らくギルバインたちは戦闘を離脱したという扱いで分配されず、すべてがこちらに流れてきたのだろう。

だが確かに、その下に出てくるドロップアイテム欄には、レアアイテムを意味するアイコンは見られない。



『……というか、まじでソロクリアかよ』



信じられない光景であった。戦績自体がもう理解の範疇を超えているが、それが目の前……というか、自身の体を動かされて繰り広げられていたのだから。

どんだけぶっ壊れ性能なんだよ、このジョブは……。というか、既存ジョブとは明らかに形態が違うし、色々信じられんわ……。


「あー動いた動いた。久々に満足したぜ。ほれ、返すわ」

ぐぐっと伸びをした青年は、そういうとなりを潜めた。途端、一気に現実感が戻ってくる。急なことに対応できなかったオレは、再びたたらを踏むことになった。


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