第二十五話
「……協力?」
オレは青年の言葉に眉をひそめた。協力とはなんだろうか。このよくわからない青年に手を貸せば、ミシェリアが助かる――。そう言われても、ここまでの損傷は、常軌を逸した旅人たちですら治療は困難を極める。それが何とかなるのだろうか。一体どうやって……?
だけど、ミシェリアが助かるなら……。
「……ミシェリアが助かるっていうのなら、協力しよう」
「ああ、それでいい。そこでうじうじ悩んでたら、思わずその頭吹き飛ばすところだったろうしな」
「……で、でだ。協力って、オレは何をすればいいんだ?」
小さい見た目の割に、えげつないことを漏らす青年にたじろぎつつも、オレは内容を問う。オレがそう口にすると、青年は小さく不敵な笑みを浮かべると、悠然とした動作でオレを指さしてきた。
「俺様と契約しろ」
「………………は?」
一瞬青年が何を言ったのか分からなかった。『けいやく』とは何だろうと。少し間をおいて、『契約』ではないかと勘繰る。「僕と契約して魔法少女になってよ」的な契約だろう。
……何でよりによってそれを思い浮かべるんだよ、オレは……。懐かしいなおい。
「……あぁ? しゃあねえな」
と、そこで青年がミシェリアを見下ろして面倒くさそうに顔をゆがめた。その口ぶりは、誰かにくぎを刺された感じだろうか。そういえば先ほども似たような言い淀みがあった気がする。……もしかしたら、彼に相棒と呼ばれている光の英雄だろうか。
「どうやら説明不足だったようだからな、補足してやる」
オレの内心抱えている疑問をよそに、青年はそう口火を切ってつらつらと真意を語った。
どうやらミシェリアに加護を与えていたのは光の英雄と呼ばれるものと、その相棒の目前の青年の二人だったようだ。何故ミシェリアが光の英雄の加護を受けているというのに、関係のない運動能力が強化されているのか。それは対極である彼の恩恵があったからであるよう。
ミシェリアの能力は、魔法系統の光の英雄の加護よりも、運動能力が向上する闇の加護を強く受けていた。見た目一切闇をつかさどる彼の面影がないうえ、青年はさっぱり表舞台に話が出ていないので、気が付くことがなかったのだという。
「俺様は戦いのプロだ。で、相棒は魔法関連の鬼でな。相棒にかかれば、ミシェリアの傷も治すことができる。だが、その時邪魔になるのが、俺様の闇の加護だ。俺様の加護があるおかげで、相棒の力が十全に発揮できねぇ。宿主……ミシェリアへの負担が大きすぎるんだ。相反する属性で、しかもふたつの加護を出力されりゃ、お前らのような規格外存在である旅人じゃなけりゃ体がもたねぇ。そこで、俺様の加護を他者に譲渡しようっていう話だ」
「加護の譲渡……そんなことが出来るのか?」
オレは思わずそう疑問をもらす。
加護の譲渡……それは恐らくだが、オレたち旅人で言うところの固有スキルの譲渡に近いと思われる。例えば筋力値がアップする固有スキルがあったとして、それを他人に渡せるかと言われたら……そんな話聞いたこともない。
しかし目の前に浮いている小さな青年は、当然と言わんばかりに頷いた。
「化身である俺様がいるんだ。俺様が指揮を取れば可能だ。……ただ」
しかしそこで、青年が言い淀んだ。
「ただ、俺様達の加護は特殊でな。どの時代の加護が受けられるか分かんねえ」
「どの、時代……?」
「ああ。俺様達は、この世界で生まれたわけじゃねえんだ。いやまぁ、生まれてるのには変わりねえんだが……。この世界で生を受ける前にも、あらゆる世界……あらゆる時代で転生を繰り返してる。それぞれの場所で全然違う人物だったし、出来ることだって異なる。今具現化してるこの姿だって、その転生してた間で使ってた体だ。この世界だと、気が付いたら相棒ともどもミシェリアの中だったからな。メインは相棒なくせに、能力は俺様っていう半端な状態だった。半端だったからこそ、ミシェリアの中にいる間は問題なかった。だが、離れると話は変わる。相棒は、宿主を食うようなヘマはしねえだろうが、俺様はそこまで器用じゃねえ。最悪、どこかの世界の俺様の姿で、契約者の姿かたちっていうのを食いつくすかもしれねえ」
「そのうえでお前に問う」と青年は真顔になってオレを眺めてきた。
「ミシェリアと、彼女を助けようと躍起になってる相棒を助けるために、俺様の加護を受けてくれねえか」
青年の瞳が真っ直ぐにオレを射抜いてくる。オレの判断を仰いでいる。
それにオレはどう応えればいいだろうか。
……勿論、ミシェリアが助かるのなら契約するのはやぶさかではない。けれど……なんだろう。この、何か引っかかる感じは……?
もしかしたら、事態についていけていない頭が、一度整理する時間を欲しているのかもしれない。だから何か不安を掻き立てておいて、話を止めようとしているのかと。
だが、そこで無慈悲にもさらにオレの頭を混乱させる出来事が起こった。
不意に眼前に文字列が浮き上がったのだ。
Order Changeという二つの単語。
それが意味するものは、クエスト内容に変更があったということだ。その内容がその下に紐づけされて表示される。
『第二王女との共闘→魔族との契約(NEW)◇ミシェリアの命を救うため、彼女に闇の加護を与えていた青年と再契約を行う。クエストを受理しますか?』
サドンクエストであったはずの第二王女との共闘が、選択式の魔族との契約というクエストに変化していた。
……クエスト内容が、変わった? しかもこのクエストは、もしかして……。
オレの中で、驚きが広がっていく。
この流れ……もしかして、ジョブクエストなんじゃないか?
このクエストを受理すれば、恐らく闇の加護なるものが得られるはずだ。なのに、何も変化しないということは考えられない。何かしらのステータス変化があるか、それとも新しいジョブが得られるか……ともかく、何かが変わる気がした。
けど、明らかに怪しい……。なんだよ魔族との契約って、絶対まともじゃない。この黒いのも言ってるじゃないか、食いつくすかもしれないって。情報も一切ないし、出来ることならもっと考えたい。考えたいけど……。
オレの視線がとらえるのは、時間が止まったように微動だにしないミシェリアの姿。オレを助けるために、両足をえぐり取られ死の淵に立っている少女。旅人と違い、一つしかない命とわかっていながら、命を懸けた憐れなで勇敢な……世間知らずな女の子。
……オレなんか見なくても、君ならもっといい男に出会えるだろうに。ここで終わらせるのは、悲しすぎる。
「…………いいだろう。ミシェリアが助かるっていうのなら、その契約受けてやる」
その言葉とともに、クエストを受理したというテロップが流れた。眼前の青年は、労うような笑みを浮かべる。
「時間はかかったようだが、よく頷いてくれた。……代わって礼を言う。助かるぜ、心優しき青年よ」
そう言い終わった後、青年は右の掌をオレのほうに掲げてきた。その途端、オレの足元で大きな魔方陣が形成された。
「お前の心意気に免じて、俺様も出来る限りの努力はする。ぜってぇお前が消し飛ぶような真似はさせねえさ」
「……そこはマジで頼むぞ……」
「っへ、俺様に対してよく言いやがる」
不敵に笑みを浮かべた青年は、直後目を閉じた。
その後彼の口からあふれてきたのは、一度も聞いたことがない謎の言語による詠唱だった。その詠唱は、かなりの魔力が込められているのか、口を開くたびに辺りを震わすほどの魔力波がオレを打ち付ける。ダメージは受けていないようだが、油断すると押しつぶされそうなほどの圧倒感を覚えた。
詠唱はかなり長い。一体どれほどの規模の魔法が展開されるのか皆目見当がつかない。これほど長い詠唱がいる魔法があることを、オレは聞いたことがなかった。
「……さぁ、博打の時間だ」
やがて、青年が詠唱の区切りでそうつぶやいた。今までの詠唱を受けて、眼下に広がる魔方陣は直視できないほど輝いている。
『……~~!』
最後、青年が何か言い切ると、一気に魔方陣の光がはじけた。




