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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第十九話

「……ミシェリア。そんなTモンに挑むにあたってなんだけどな」



オレは改まった調子で彼女の注意を引く。予想通り、ずらされていた目線が、オレのほうに向いた。

……これだけは、絶対に言っておかないとだからな。


「Tモンっていうのは、言った通りオレたち旅人でも苦労する。しかも今回は少人数戦だ。運悪く……いや、たぶん一人二人は死ぬかもしれない。でも、オレたちは教会で復活することが出来る。制限はあるけど、何度だって蘇ることが出来るんだ。……だけど、君はそうじゃない。一度でも致命傷を食らえば、それまでだ。……君の強さは、ここまでの道中で十分というほどわかった。オレたち旅人と十分肩を並べて戦うことが出来ると思う。けど、オレたちのような戦い方をしちゃいけない」

「……どういうこと?」

「あぁー……つまりだな」

ここまで付いてきてくれて、最後にこういうことを言うのは、オレとしても申し訳なく思う。けれど、彼女のためにも、エリスに頼まれてしまったオレのためにも、言わなくてはならない。


「あまりにTモンが強そうだったら、オレたちを無視して逃げてほしい」


そう口にしたが、オレはなんとなく嫌な予感がしていた。ミシェリアと目を合わせられず、先頭を歩くジェリクの背中を眺める。

すると、数歩もしないうちにミシェリアが口を開いた。


「……リンさんが私の身を案じてるってことは、すごい分かるよ。それはとっても嬉しい。……けど――」

と、オレの視界に無理やり入るかのように、彼女はオレを追い抜いた。そして肩越しにオレの顔を見つめて、言った。


「そんなこと言われたら、絶対に逃げたくなくなっちゃった。私、結構わがままだからね。何と言われようと、最後まで戦うから」


にこっと、してやったりといった笑みを浮かべるミシェリアに、オレは頭を抱えることになった。

「……なんとなく、そんなこと言われるんじゃねーかと思ったわ」

「あはは。要は、道中以上に気をつければいいんでしょ? それに、みんなが協力してくれるなら、きっと大丈夫だよ」

「……オレらにはない前向きな意見、どうも」

「一本取られたな、ベル」

「うるせ、お前はしっかり前みてろ」

「へぃへぃ。……ま、どんだけ俺らが気張るかだろうよ。姫さんの身の安全は」


オレの非難にジェリクは肩をすぼめながらそう口にする。実際ジェリクもこう言っているが、オレなんかよりよっぽど動きに気を配ろうとしているだろうと思う。オレは直接戦うことはできないから、ミシェリアの安全を守るのは、前線に立つ彼の仕事だ。彼がカバーできない範囲は、恐らくオーレンの魔法でやりくりすることになるだろう。何もできない自分が歯がゆいところだ。


「周りを見て、姫さんの手綱を握るのはお前だぞ、ベル。お前の判断が事を左右するかもしんねぇから、直接戦わねえからって油断すんなよ?」

「…………お前に言われなくても、そのつもりだったよ」


だが、オレの複雑な気持ちを汲んだのか、ジェリクは肩越しにオレを見ながらそう付け足した。オレはそれに少し驚いたが、その後苦笑を漏らしながらひらひらと片手を振った。

……全く。オレのまわりのやつときたら、聡いやつばかりかよ。




「……さて。気を取り直して進もうと思うが――」

会話をしていたことで緩やかになっていた歩みを正そうと思ったのか、ジェリクがそうつぶやいたが、その言葉の途中で不自然に区切る。

それだけにとどまらず、あろうことか立ち止まった。


「……あれ? どうしたのみんな?」

最後尾を歩いていたオーレンが、前列の歩みが止まったことに疑問を口にする。それにオレは背後にいる彼に顔を向けて首を傾げた。

「さぁ……。おい、どうしたんだ?」

オレは顔を正面に戻し、ジェリクに問いかける。

すると彼はちらりとこちらを振り返ると、自身の前の通路をおもむろに指さした。正確には、通路の床か。


「……これは」

彼の横から指さされた箇所を覗き見たオレは、思わずつぶやいた。さらにその横からミシェリアが顔を出し、反対の側からはオーレンも同様に覗き見る。

ジェリクが指さした床は、大きく崩れぽっかりと不自然な穴が開いていた。強引にぶち抜いたことは、その無造作な形状から明らかである。


「オーレンは、Tモンが頭上から降りてきたって言ったよな。……こいつじゃねえか?」

「……そうだとすると、ギルさんたちはこの下か」

「おっきな穴だね……。すごい大きな魔物なんだ」

「あの時は焦ってたから、はっきりとは言えないけど……。確かこれくらいあると思う」

「……どうするベル? 一応、飛び降りることはできそうな高さだぜ?」

「…………」

オレはあごに手を当てて、まじまじと大穴を観察する。


……これだけ風通しのいい大穴が開いてるのに、戦闘音が全然聞こえないってことは、それだけ遠くへ移動したってことなのか……? それとも、結界のような何かしらの遮音するような空間があるか……。後者だったら危険かもだけど、前者なら降りてすぐ危険になるってことはない。悠長に攻略できない今、最短ルートが出来るのはありがたいって感じか。


「……降りた先が危険かどうかわかんないけど、この大穴を降りよう。出来るだけ早くギルさんたちと合流したい」

「あいよ。……んじゃ、先降りて安全確認してくらぁ」

「あ、おいっ」

なんの物怖じもせず、そういうとジェリクは颯爽と大穴へ身を投じた。オレの止める言葉すら届かないほどの即断である。


「あ、相変わらず無茶するね……ジェリクさん」

オレの横でオーレンも顔を引きつらせていた。オレも奴の行動力には苦笑いを浮かべるしかない。ミシェリアは、素直に驚いている様子だった。



「おーい。問題ねぇようだから、降りてきても大丈夫だぜー」



そうこうしているうちに、階下からジェリクの間延びした声が聞こえてきた。それに軽快に応じるのが、身体能力の高さを感じさせるミシェリアだ。彼女はフードの裾を気にしながらも、全く問題なさそうに着地した。

問題なのが、あまり身体能力に自信のないオレとオーレンである。


「…………」


視線でけん制しあっても、どちらも先んじて飛びそうにない。

仕方なくオレたちはお互い頷くと、同時に大穴へとダイブした。




「……い、意外に平気だった」

「……いってぇ」


同時に飛んだとはいえ、結果は同じとは限らなかった。


オーレンのほうは、思った以上に問題なく着地することが出来たよう。しかしオレの方は、地に足が付いた直後体を支えきれず、ぐきりという嫌な音とともに地面に伏せることとなった。そのまますぐには動けず、苦悶の声をもらす。


「り、リンさん大丈夫?」

先に降りていたミシェリアが、そう言いながら心配そうにオレのそばでかがむ。それにオレは「ま、まぁ一応……」と口にしながら、取り敢えず伏せていた体を起こし座り込んだ。


「……一切戦闘に参加してないのに、HP一割減ったんですけど」

視界の隅に常時浮かんでいるHPとMPのゲージ。そのHPを示す緑色のゲージが、先の落下の衝撃で一割程度減少していた。


それを聞いたジェリクがやれやれといった様子で腕を組んだ。

「……ひ弱すぎだろ」

「……言うなよ。オレ自身そう思ってるんだからさ……」

衝撃のせいで若干しびれている体に鞭打って、立ち上がる。しかしそのしびれも、体中についた土埃をはたいている間にほとんど抜けた。オレの一挙手一投足を眺め見ていた三人を見回して、小さくうなずいた。


「……取り敢えず大丈夫そうだ。先を急ごうか」

オレの言葉を受けて、再び集団の足が動き出す。



大穴の下の階は、広い空間をそれより狭い通路がつないでいるような構造になっているようだった。降りてからまだ一度も敵のような影は見えていないが、階層が違えばでてくる魔物も全然違う場合が多い。そのためオレたちは、大穴を降りる前よりも慎重に歩を進めた。


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