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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第一話

「ついに来たねぇー聖王都!」


かちゃり、と肩口を守っている鎧を鳴らしながら、男は大きく伸びをした。

「ここが今、攻略組の方々の拠点となっている聖王都ラニルアータですか……大きいですね」

とそこで、伸びをした男の横に寄り添うように立つ小柄な女性が、荘厳な街並みを目の当たりにして小さくため息をついた。


聖王都ラニルアータは東大陸の中央に位置する聖王国の首都である。大きな崖を背にした、白く、そびえ立つ巨大な城を象徴とした城下町として発展した街である。

この世界『アークレスト』には東と西、そして中央に大きな大陸を有していて、それぞれが独立した国家を築いている。



二年前、この世界に召喚された人々……後に彼らは『旅人』と名乗るようになった……がいたのは、西大陸の辺境に位置する小さな村であった。そこから旅人達は縦に長い西大陸を縦断し、国交を断絶している中央大陸をひとまず飛び越え、そして現在東大陸を踏破している最中なのである。ここまで歩き、海を渡るのに二年を消費してしまったが、旅人は様々な知識を得ることができた。


 この世界の文明レベルは、さほど高くない。建物の構造や封建制度が社会の基盤となっているところを鑑みるに、地球で言うと中世あたりの文明社会のようだ。

 ただ、科学技術を発展させていった地球とは違い、こちらの世界にはファンタジーに出てくるような魔法や騎士団が存在しており、地球では見られなかった社会が構築されている。魔法社会、次いでは騎士社会が発展していった理由は、そういう世界だった……というのが根本にあるのだろうが、やはり『魔物』の存在が大きいだろう。


この世界では、小さな集落や村は例外となってしまうが、人の住む場所には必ず結界が張られている。強靭な肉体と凶暴な自我を持った魔物が、街の外には蔓延っているからだ。街を出るためには、襲い来る魔物と対峙しなければならない。街の外へでなければその心配はない……と言えるかもしれないが、ある種箱庭のような街の中だけで生活できるほど、世界は豊かに出来ていない。

当然土地によっては育たない作物や家畜がいるのであって、それらを流通させるためには、自然と街の外へ出なければならないのだ。この時、魔物と対抗するために必要となった力が、魔法と武術なのである。


そういう背景もあって、地球より一般人でも身体能力の高い人々が多いアークレストだが、その中で旅人達は別次元の強さを持っていた。彼らは寿命が縮んでしまうという欠点はあるが、寿命が尽きるその時まで、何度死んでも生き返るという特別な体を持っている。そして、職業によってその性能を大きく変えるのである。


アークレストに住む人々は、旅人達が言うような職業は存在しない。より具体的に言うなら、彼らは生まれてから死ぬまで職業は『村人』であり、騎士として生活している者を騎士と呼び、魔法を学び、行使する者を魔法使いと呼んでいるのである。


対して旅人の方は、人によってなれる職は千差万別だが、自由に職を変えることができる。極論、今まで剣士として戦っていたものが翌日魔法使いになっていた……ということも可能なのだ。


教会の祭壇にある謎の端末にアクセスすれば、クエストで得た職に転職できるシステムだ。この教会の端末は、どこの教会にも同じものが存在するが、操作すると操作者自身に影響を及ぼす、地球にあったとしてもオーバーテクノロジーな産物である。

ゲームの一システムと認識するのはたやすいが、巡り巡ってこの世界そのものへの疑問が浮かんでしまうもので、旅人達は深くは考えないようにしている。



「物見遊山もしたいものだが、それは落ち着いてからだな。まずは宿を探してから、ジョブクエストを漁るか」

長旅で疲れている身体をほぐすように肩を揺らしながら、鎧を着た男が近くにいる青年の方を向いた。

「さすがにそろそろリンのジョブクエストがあってもいいだろ」

「……てか、ないと困るよオレ?」

鎧を着た男の言葉に首をすくめながら青年―オレは小さくないため息をついた。


「この世界に来てこれから三年目……未だにジョブクエストがなくて『村人』のままとか、マジ勘弁してくれ」

「ほんと、今までそれなりな数のジョブクエストがあったけど、リンさんのジョブクエストなかったですもんね」

「これ、運営に抗議してもいいレベルじゃない? ……運営と連絡できる手段があれば、だけど」

オレの肩を落としながらの発言に応えたのは、腰に二丁の銃を携えた十代半ばに見える軽装の少女と、背中に複雑な意匠を凝らした弓を背負っている同じく十代半ばだろうと思われる少年だった。


「だよなぁ……。シシリー、オーレン。君らのジョブ数いくらだっけ?」

「わたしは今の『ガンナー』と『スピードマスター』、あとは『道具使い』と『投擲師』、『火薬師』……五職ですかね?」

小さなおとがいに指を当てつつ、自分の持っている職の数を数えるシシリー。

「僕は『アーチャー』、『精霊使い』、『ソーサラー』、……あと『魔法感知師』ってのがあるから、四かな」

空中に指を躍らせながら答えたのはオーレン。彼は自身のステータスウィンドウを確認していたようだ。


これもゲームと言う感覚をほうふつとさせるものなのだが、空中で指を走らせると、メニュー画面が現れる。そこでは、筋力や体力などといった基礎ステータスが数値として確認できたり、装備の変更や所持アイテムの確認が出来たりする。

彼が見ていたのは、自分の職業が表示されている欄の横についている、『取得済み職業』欄だろう。そこに現在の職である『アーチャー』以外の職が表示されているようだ。


再三言う事になるが、自身がなれる職業は様々な条件で発生する特殊なクエストをこなすと増える。

この特殊なクエストを『ジョブクエスト』と呼んでいるが、すべての旅人が同じクエストをこなせば、同じ職を得られるというわけではない。


例えば、シシリーの現在のメイン職である『ガンナー』は、魔法研究所という場所の研究員の一人から受けられる「二丁の魔銃の開発」というクエストの報酬として手に入ったものだが、そのクエストを受注できたのは、オレの周りではシシリーただ一人。それ以外はクエストがあることすら分からなかった。つまりジョブクエストは、そのクエストで得られる職になれるものだけが、クエストの存在を感知し受注できるが、それ以外の者は受注可能クエストの表示さえ出てこないようになっているのだ。


ジョブクエストを漁る、というのは、この特殊な仕様のクエストがあるかどうかを、クエストを持っている街の人ひとりひとりをあたって探すことである。



「まぁ、職の数があった方が幅広いとは思うが……。もしかしたら、ここまで引っ張ったんだから、アホみたいに高性能な職にありつけるかもしれないぞ? ユニークジョブとかさ」

年下二人の職の数を聞いて肩を落とすオレを見かねた鎧を着た男……名をギルバインという……が、オレの肩を叩きつつ明るい声で言った。それにオレは「だといいんですけどね……」とあまり気の乗らない返事を返す。


「どうせなら、不足している前衛職になってもらいたいものですね」

「確かにな。前衛俺一人じゃ、つらいんだよなー」

ギルバインの横で無表情に言葉を発するのが、ミヤビと言う名の女性だ。オレ……名前をリィンベル・本名鈴原鈴汰という……を含めたこの男女5人が、この世界に来てからのオレのパーティであり、身内とも呼べる関係であった。


「ふむ。立ち話もなんだ、そろそろ宿を探そうぜ。おじさんそろそろ足がやばいわぁ」

「まだ二十九歳でしょ。頑張ってください」

「そういう君はまだ二十五でしょ? 三十路近くて節々が痛むおじさんの苦労が分かってないな」

ギルバインが年を食ったような発言をしたのに対し、ミヤビが横に寄り添いながら言う。向こうの世界でも恋人同士という彼らは、こっちの世界に来た時からこんな調子だ。


「やっぱり、窓から城が見える宿がいいですね!」

「あの大きさだったら、街のどこに泊まっても見えるんじゃないかなぁ? でも、ちょっと高いところから見てみたいねー」

二年経った今でもまだ十代であるシシリーとオーレンは、まだ余力を残した感じでしきりに辺りを見回しながら歩き出す。


それに、今年で二十四歳になるオレも、先ほどまでの気の重さを振り払うように頭を振った後、彼らの動きに付いて歩き出した。


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