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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第一章 力不足の旅人リィンベル
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第十八話

「はあぁぁ!」



気合一閃、ミシェリアが手に持った細身の剣を薙ぐ。その一撃で胴体を寸断された目前の魔物は、耳障りな鳴き声を上げながら霧状になり霧散した。それを確認した彼女は、「ふぅ……」と小さく息を吐くと、切っ先を地面へと下ろした。


「……つえぇな、姫さん」

「あ、あぁ……」

「ふ、普通に旅人としてもやっていけるよね……?」

その後ろで待機していたのは、オレたち男衆。予想外の彼女の強さに、驚愕を隠せないでいた。


運悪くスレットモンスターと遭遇戦をしなければならなくなったギルバイン達を助けるために、オレたちは聖王都から離れたディーディスタール遺跡へと赴いていた。本来であれば、馬車に数時間は揺られないとたどり着けない場所である。しかしオレたちは、聖王都からものの数分といったレベルで赴くことができていた。それもこれも、一度この遺跡に足を運んだことのあるオーレンのおかげである。


オーレンが使ったのは、通称『石板』とよばれる移動アイテムだ。このアイテムは、登録したダンジョンへ一瞬で移動できるという効果を持つ。登録できるのは一か所だけであり、行くだけで使用地点に帰ることはできない。距離の遠いが経験値効率がよかったり、良いアイテムがドロップすることが分かっていたりするダンジョンを登録し、活用するパターンもあれば、二つの街の間にあるダンジョンを登録しておいて、街間を移動する際に使うこともある。


今回、オーレンがディーディスタール遺跡を登録してくれていたおかげで、オレたちは聖王都―遺跡間の移動をカットすることができた。時間が惜しいこの状況では、非常にありがたい。


「しかし、まんま動きが剣プリだな。まぁ、間違っちゃいねぇんだろうけど」

その遺跡を攻略している最中、今のようにミシェリアが戦闘をすることも多々あった。その動きを見て、ジェリクがポツリとつぶやいた。オレもその言葉に小さくうなずく。


彼の言っていた『剣プリ』というのは、剣のスキルを習得した『プリンセス』というジョブのことである。女性だけが得ることが出来るこの『プリンセス』というジョブは、剣をメイン武器にした近接・魔導書をメイン武器とした魔法・長杖をメイン武器とした回復の三種類のうちどれかを選び、育てることが出来る。剣プリというのは、近接スキルを選んだ『プリンセス』のことだ。ちなみに魔法だと魔プリ、回復だと正プリと呼ばれる。回復だから回ではなく何故正なのかというと……回復役というその慈愛に満ちた設定から、『正統派プリンセス』であると主張する輩がいたせいである。当初はあまり相手にされていなかったが、気付かぬうちにその通り名が定着してしまったのだった。


「ふぅ……。旅人さんたちの力になれるかちょっと不安だったけど、いけそう!」

「いけるもなにも、オレなんかより遥かに役に立ってるよ……」

意気揚々とオレたちの元へ戻ってくるミシェリアの表情には、余裕が有り余っている。遺跡に潜り始めてからそれなりに時間が経過し、戦闘回数も増えてきているのに疲労している様子が見られない。


……オレなんかは、ついていくだけでも精一杯なんだけどなぁ。


「それにしてもミシェリア。毎回どことも知れない空間から剣を取り出してるがよ。魔法も使える口なのか?」

一緒に行動するにあたって、名前で呼んでくれと本人から言われた手前、名前で呼んだジェリク。彼の視線は、ミシェリアが手に持つ剣に向けられていた。その剣は、丁度魔力の粒になって彼女の体へと吸収されたところであった。

その問いにミシェリアは、直前に剣を持っていた掌を眺めながら「うーん」と唸った。


「残念ながら、魔法は使えないんだよ。でもこれが魔法じゃないのかーって言われたりもするんだけどね。なんていうか、これは生まれつきというか……。これだけは気が付いたら出来るようになってたんだ。みんなは、隠された光の英雄の能力の一つだって言ってるけどね。でも、本来光の英雄さんは剣士じゃないから……正直、私もよくわかんない!」

手のひらから放出される光の粒子が、瞬く間に剣を形作る様子は、非常に格好いい。


「ジェリクさんも、すごいと思ったよ? まるで舞台でも見てるかのような躍動感というか、そういうのがあって」

「まあ、『ソードダンサー』だからな。戦う芸術家よ」

鼻を鳴らして腕を組んだジェリクは、不敵な笑みを浮かべた。




「……しかし、これだけ見れば大した難易度じゃねえよな、この遺跡は」

不意に、ジェリクが辺りを見回しながらそうつぶやいた。


このディーディスタール遺跡は、地下に向かって伸びる閉鎖的なダンジョンだ。そのせいか、魔物は地を這ったり、歩行したりするものが多い。基本的に速度のない彼らは、真っ当に戦えばあまり苦労しない。そのうえ、通路があまり広くはないので、団体で来ることもほぼない。多少硬いのが難点かもしれないが、それでも剣はしっかり通る。また、魔法の耐性はあまりないようで、魔法がてきめんに効く。そのため不利な状況になったら、オーレンが一掃するということもできた。


魔物の湧きが異常に多いとか、厄介な敵が出てくるということもないこのダンジョンは、比較的難易度が低いと言えよう。


「確かに。もしかしたら、トラップがメインのダンジョンなのかも。先にギルさんたちが解除してるだろうから、そこらへんが分からないだけで」

「加えて、四人用クエで使うダンジョンだからな。そこらへんも補正されてんのかもな」

「あり得る話だな、それも」

オレたちは、時々現れる魔物を排除しながら足早に……しかしトラップには警戒しながら進む。

オーレンの情報だと、スレットモンスターが出たというのは中層だという。ジェリクが仕入れてくれていたマップ情報のおかげで、そこまでは問題なく通過できそうだ。


「……しかし、Tモンか。どうしたもんかな」

不意に、地図を確認しつつ先陣を切っているジェリクが、ポツリと漏らした。

「まぁ確かに、情報がねえくれぇだからな。東大陸でもあるし、とんでもねえレアを持っててもおかしくはねえけどな……」

ジェリクが悩ましそうにガシガシと頭を搔く気持ちは、オレも分からないでもない。レアアイテムがほしいという願望は、誰にだってある。当然オレだって、倒せる状況ならば迷わずたかるだろう。

……しかし今回は、残念ながらそんな理想的な状態ではない。


「そんなこと言っても、圧倒的に戦力不足だから勝てないって……。夢見させるなよ」

オレはジェリクの後ろでため息混じりに答えた。それに彼は「……わぁってる」と同様にため息をつく。

と、そこで背後から軽くつつかれる感触。振り返ってみると、ミシェリアのなにか言いたそうな顔が目に入ってきた。


「ねえリンさん。……付いていくときから気になってたんだけど。てぃーもんってなに?」

「あぁ……」

そういえば何気なく使っている言葉だが、旅人が勝手に作った言葉が大量にあることを思い出す。オレは少し頭を悩ませると、歩調を緩めミシェリアの隣へと移った。


「わかりやすく言うなら、その土地の主……って感じになるのかな? 厳密には違うけど、そんな解釈でいいと思う。とにかく強いんだ」

「ということは……。今助けに向かってるリンさんのお仲間さんが危ないっていうのは、この遺跡の主……てぃーもんに襲われてるってこと?」

「まぁ、そういう感じ。大抵Tモンは、旅人でも大人数でかからないと倒せないやつばかりだから、三人だけで立ち向かってるギルさん……オレらの仲間は、今相当やばい状況なんだよ。オレらが加勢しても多分勝てないから、今回はうまく逃げられるような作戦を考えてるところかな」


「なるほど……。旅人さんでも敵わない敵もいるんだね」

「あぁ、ごまんといるよ」

言いつつオレは肩をすぼめる。

上には上がいるというのは、どの世界でも……ゲームのような世界でも共通の格言だということを、オレたち旅人はこの二年で痛いほど学んだ。いや、今でも学んでいる最中であろう。絶対の頂点なんて、この世の中何処を探してもいないのかもしれない。


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