第十四話
『あっ、リンさん!』
『おう、どうしたオーレン。まだクエの途中だろ?』
『そう、そうなんだけどさ!?』
どうやらオーレンはかなり興奮気味であるようだ。念話では難しいと判断したのか、口に出して通話しているようで、チャット越しに荒い息が聞こえてくる。
『ま、まずいことになったんだっ』
『……まずいこと?』
不穏なフレーズに、オレは眉を顰める。
『こ、攻略中にスレットモンスターが出たんだ!?』
「な、なんだって!?」
思わずオレはそう口に出してしまう。
オーレンの言葉に合ったスレットモンスターとは、ざっくり行ってしまえばレアな魔物である。ごく稀にしか遭遇できず、しかし倒すことが出来れば、大量の経験値と確率だが貴重なアイテムを得ることが出来る。その希少さゆえに、どれだけの種類がいるのか、そしてその魔物がどこに現れるのか、ほとんど解析されていない。
そんな特殊な魔物であるスレットモンスターだが、素直に出会えればおいしいというわけでもない。脅威と呼ばれるだけあって、同エリアに現れるモンスターとは一線を画する強さを有しているのだ。万全の備えがあったうえで討伐できるモンスターであり、備えがなければ素直に撤退が推奨されている。
『それで、どうなったんだ!?』
オーレン達が向かったディーディスタール遺跡が、どの程度のレベル帯のモンスターが出るのかは分からない。おそらくだが、すぐに引き返すといった連絡が来なかったことから、しっかりと対応できる程度であったのではと、オレは考えている。
しかし、出くわしたのがスレットモンスターというのならば話が違ってくる。
少なくとも少人数なら、ダンジョン攻略の適正レベルよりも十はマージンを取っておきたい。相手によってはそれでも不安だ。尚且つ、しっかりとした前衛と盾、後衛、回復役を揃えたいところだ。
そう考えると、オレ達のパーティは比較的バランスがいいとは言え、前衛が盾役兼任のギルバインしかいない。彼一人で支えられるモンスターならいいのだが、そうでなければ瓦解は早いだろう。
オレの問いに、オーレンは気落ちしたような声色で返す。
『それが……。完全に退路を断たれちゃって……。みんなから離れていた僕だけが、なんとか射程圏外にいられて。ギルさんに助けを呼んで来いって言われて、僕だけ街に戻ってきたんだ』
『……つまり、Tモンに三人で挑んでるのか』
状況は芳しくないようだ。いくら死んだところで復活できるといっても、寿命が縮むというリスクがある以上、出来る限り避けなければならない。
『ともかく、街にいるなら合流しよう』
その後短く彼の居場所を聞いたオレは、通話を切った。耳元に当てていた手をだらしなく振り下ろす。
……一体どうしたものか。
オーレンがいるというところは、現在地からさほど離れていない。合流は容易だ。だがギルバイン達を助けに行くことは、今のままでは到底不可能である。
オレ一人増えたところで、何の役にも立てないからな……。
「……リンさん、どうしたの?」
ふと横から姫様のうかがうような声が聞こえた。先ほどまで荒ぶっていたはずだが、落ち着きを取り戻していた。不意にオレが驚きの声を上げたうえ深刻そうな顔をしているのを見て、我に返ったのかもしれない。
「何かあったの?」
「いや……」
そこでオレは目の前の小柄な姫様を見下ろす。
今オレが欲しているのは、ギルバイン達を救出するための戦力だ。それも、スレットモンスターに対抗し得る腕を持つ人物である。
そんな中、この姫様は、前衛のジェリクを吹き飛ばすほどの能力を持ち、尚且つかなりのスピードを有する。十分に戦力に数えることができる。
……おあつらえ向きの人材だけど……誘うことなんて、出来るのか?
今まで現地の住民に、私的な目的でクエストやダンジョン攻略に同行してもらったという話は聞いたことがない。そもそも彼らは、オレ達旅人とは異なるシステム上に生きる者たちだ。メニューウィンドウもなければ、パーティ申請なんてシステムがあるとも思えない。
加えて彼女は、一国の姫であって、直前に近衛騎士と騒動を起こしている。旅人じゃないからという以前に、連れ出していいとも思えない。
まぁ、普通に考えて無理だよな。
「……さっき仲間から連絡があってな。こんなタイミングでいうのもあれだけど、ちょっとやばそうだから、今から向かおうと思う」
言いながら、オレはメニューから街の地図を開く。目前の道が騎士たちの密集によりほとんど封鎖されているに等しいため、別ルートを探す必要があったからだ。目の前に出現した地図をまじまじと眺めていると、姫様がさらに口を開いた。
「それは、大変だね……。何か私が手伝えることある?」
「……と、言ってもな」
正直に言うと、頭を下げてでも協力を要請したいところだ。だが、目の前に並んでいらっしゃる重装備の騎士様方を眼前にとらえては、それも忍びない。
再度どうしようか、オレが頭を悩ませていたその時である。
「っ!?」
オレの目の前に、突然文字列が浮かび上がった。
見覚えのあるその文字列に、オレは目を見張る。
さ、サドンクエストだって!?
目前に浮かび上がったのは、Suddenly Quest Startという言葉。一般の任意で受注できるクエストと異なり、これは強制的に受けさせられるものである。受注するか否かの選択肢さえ出ない。
この強制クエストがどこで見られるかというと、主にダンジョンなどでトラップに引っかかった場合だ。例えば、出入り口がふさがれ、モンスターが大量に湧くような、いわゆるモンスターハウスのトラップに引っかかったとき、『眼前の魔物を排除しろ』などと言った内容で、このクエストが発行される。
何でこんなところで。……しかもこんなタイミングで?
「リンさん?」
どうやら、サドンクエスト発生の文字は、旅人にしか見えないよう。突然顔をゆがめたオレに、姫様は怪訝そうな表情を浮かべている。
「い、いや……」
そうこうしているうちに、クエストの詳細が浮かび上がる。その内容は、さらに驚くべきものであった。
『第二王女との共闘◇第二王女ミシェリアとともに、ディーディスタール遺跡に出没したドラゴンソルジャー・ジャイアントを討伐せよ』
「…………」
何故そのようなクエストが発行されたのか……。明らかにタイミングが良すぎて疑問が浮上する。
戦力を欲しがっているこの瞬間に、しかも場所までドンピシャときた。都合がよすぎやしないか……?
もしかしたら、遺跡のほうにスレットモンスターが出現したら、連動して発生するクエストなのかもしれない。そこにうまい具合に居合わせた可能性も、なくはない。本当にそうなのかは、前例があるかどうかを調べないと何とも言えないが……。
……まあ、考えても仕方ないか。サドンクエストだし、やるしかない。
懐疑的な思いは拭い去れない。だが思いがけない幸運なのも事実だ。オレは気持ちを切り替えるため、目を閉じながら小さくうなずいた。
そして、姫様……ミシェリアに向かって頭を下げる。




