第三十二話
先週更新できなかった分と、区切りがつきそうだったので、普段よりも分量多く投稿しています。
「もしかしたら、説明しなくても把握がついているかもしれないけれど」
放心するオーレンに先立って、体を離し起き上がるメリル。彼女はうわ言のように「い、一体何が――」と漏らすオーレンの言葉を受けて、口を開いた。
「オーレン君が発動させたあの極意はね。『界繋ぎの一閃』って呼んでいるの。……まあ、私がつけた名じゃないのだけれどね」
その呼び名をつけた者の姿でも想像しているのだろうか。彼女はそこで小さく肩をすぼめた。
「――兎も角、その名前の由来だけれど。ただ鋭く、斬撃が残るだけではなくて、あの技は空間そのものを切り裂くの。この世界の、ほころびを作る。そのほころびの向こうは、この世界とは非ざる別空間なのよ。人が踏み入れることのできる領域ではないから、私も以前の仲間の見解くらいにしか知りえていないのだけれどね。……そんな世界のほころびなのだけれど、同時に門としても機能させることができるの」
そこで言葉を区切ったメリルは、おもむろに立ち上がる。そして数歩ほどオーレンの傍から離れると、軽く腰をかがめ虚空をにらみつける。
「っ――」
直後、彼女の姿がぶれた。オーレンは一瞬自身の目を疑ったが、そのぶれは即座に収束する。思わず瞬きを繰り返したが、別段特に異常は見られない――
いや、違う。あれは目の錯覚ではない。オーレンの動体視力では、到底観察することのできなかっただけだ。
先ほどと変わらない佇まいで小さく息を吐くメリル。そんな彼女を挟んだ両サイド。
そこに二つの斬撃の軌跡が作られていた。
「オーレン君も訓練すれば、この程度はできるようになるわよ」
そんな人智を超えた技を放っておきながら、メリルはあっけらかんとしている。気軽に彼女は言うが、とてもじゃないけど真似できるようになるとは思えなかった。
「それで、さっき言った門としての機能だけれど」
メリルは一歩片側の斬撃へと歩み寄ると、おもむろにその斬撃に腕を差し込みはじめた。触れたものの硬度関係なくスッパリ切り裂くと、どこかの夕食時の折にでも聞いた覚えがあるのだが(物騒な話だなとそのとき思った記憶がある)。
しかし、斬撃にさし伸ばした彼女の腕が血に塗れることはなく。
なんと、もう片方の斬撃から腕が伸びてきた。
都合、虚空からどこからともなく女性の腕が生えてきている状態だ。
「こんな感じに、軌跡同士をつなげることもできるの」
「宙に投げ出されたオーレン君を助ける際に使ったのも、この方法よ」と、何度か軌跡をくぐらせた腕を振ると、メリルはすっと腕を抜いた。それと同時に虚空に浮かんでいた腕が引っ込み、斬撃の軌跡のみが虚空に残る。
「……まあ、落下の勢いまでは殺せないから、止む無く木の上から墜落する羽目になったけれど」
腕をひっこめる際、服に引っかかっていた枝葉を見つけたメリルは、加えてそう愚痴をこぼしながらそれを払う。その間に残っていた斬撃の軌跡も、やがて姿を消した。
「純粋に虚空に残る斬撃として使うこともできるし、こうして移動にも使える。まあ、あとはさっきオーレン君がやったように、どこからか何かを呼び寄せることにも使えるようだけれど、そちらは使ったことはないわね。そこは魔法使いの領分のようだから」
スタスタとオーレンのもとへと戻ってくるメリル。彼女は傍までよると、「そういえば」と漏らした。そして少し腰をかがめる。
「お礼を言っていなかったわね。ありがとう、オーレン君。おかげで助かったわ」
その言葉とともに、メリルは笑みを浮かべる。その笑顔はとても美しく、オーレンはただただ見惚れてしまった。自然と頬が熱くなる。
そんなオーレンの様子に、ふぅと甘い息を吐いたメリル。彼女は一瞬口元を引き締めたが、すぐに笑みを浮かべた。ただ彼女はだらしなく半開きになりそうだった口元を引き締めただけだったが、戦闘終了直後な上見惚れてぼんやりとしていたオーレンは知る由もない。
メリルは腰をかがめた状態のまま、ゆっくりと手を差し伸べてきた。
「一旦家に戻りましょう。何か言葉だけじゃないお礼がしたいし。……それに下界に戻る準備、しないといけないのでしょう?」
優しくほほ笑むその姿からは、先ほどまでの敵を目の前にした獰猛な雰囲気は一切感じ取れない。普段家で見せていた朗らかなものだ。それにオーレンは小さく安堵の息を吐いた。
「あ、ありがとうございます……」
スタンにかかっているわけではないが、やたらと重く感じる上半身を起こし、オーレンは差し出された手を取る。そしてよっこらせと立ち上がろうとしたが――
「あ、あれ……?」
膝を曲げる程度しか反応せず、思うように足が動いてくれなかった。
「あ、あれおかしいな」
慌てて何度も立ち上がろうと足元に力を籠めるが、一向に成果が上がらない。まるで腰から下が自分のものではないかのような感覚だった。
その様子を見ていたメリルが、ふふと息を漏らした。
「あらあら、完全に腰が抜けているわね」
メリルはその場でくるりと反転すると、背中をオーレンに向けつつ地に膝をついた。
「背中を貸すわ。乗って頂戴」
背中に流れていた髪を前にもっていきながら、彼女はオーレンが動くのを待つ。一方のオーレンは、しっかりとくびれ蠱惑的な背中のラインにたじろいて……もとい、女性におんぶしてもらうということに抵抗感を覚え、慌てて手を振った。見えるはずがないにもかかわらず。
「え、あいや、大丈夫ですよ! も、もう少ししたらたぶん動けるようになりますし」
「そのもう少しを待つつもりがないから、こうしているのよ。ほら、恥ずかしがっていないで。ここじゃ満足に落ち着くこともできないでしょう?」
「さあ」と再三にわたり、メリルは催促する。その口元がほんの少しだらしない感じになっているのは、背中越しには分からない。背中から見えれば頼りになるお姉さんだが、正面から見ればただの危ない人であった。
何を言っても無駄というオーラが、メリルから出ている。下手をすれば、おんぶでは飽き足らずお姫様抱っこですらしそうな雰囲気を感じた。
「…………」
「…………」
双方とも動きを見せないまま、数瞬が過ぎる。
やがて先に動きを見せたのは、オーレンだった。
「……分かりました。ごめんなさい、よろしくお願いします」
そう漏らすと、力なくメリルの背にもたれかかる。先の戦闘で脇腹に剣を突き立てられたオーレン。本来なら血塗れで、こんなことをしたらメリルの背にべったりと血糊が張り付いていただろうが。そこは赤いライトエフェクトのみで、血の流れない旅人であるからして、血に汚れる心配はない。
「お安い御用よ」
そう言いつつ、メリルはオーレンの腿を手繰り寄せると、ゆっくりと立ち上がった。
思った以上に華奢な感触であるメリルの背中。そしてほのかに漂ってくる甘い香り。
空間すら切り裂くことのできるという、常軌を逸した剣士の彼女。
だが、今この瞬間オーレンが否応なしに感じているのは、剣士としてのメリルではなく、女性としてのメリルであった。
要するに、とても恥ずかしい。
何か口にすれば墓穴を掘りそうな気がして、オーレンは口を閉ざしたままメリルに運ばれていった。
本当ならば、転送装置が動くようになったその日に帰る予定であった。
だが、予想以上にニーフの残した戦闘の残滓が、心身ともに大きく影響を与えたようだ。思うように気乗りしなかったオーレンは、メリルからもう一晩いるように言われた。
いかに優秀な戦士であろうとも、戦闘後の休息をおろそかにしてしまえば、以後その力を十分に発揮できなくなる。そう口にする彼女が、それでも下界に降りようとしていたオーレンを諫めた形だ。転送装置は、動かさなければ翌日以降も使える、そう説明されたことも大きい。
その日の夜。
このメリル邸にきてからお世話になっている客室のベッドの上で、オーレンは何気なしに虚空を眺めていた。
街にあったような、魔力を込めると発光する不思議な鉱石。照明としてそれもあるのだが、現在の光源は、ベッドの横に置いてあるランプの光のみだ。さほど強い光ではなく、部屋の隅などは暗がりになっている。中の炎によって不規則に光量を変えるランプ。天井に映るその影を、オーレンはぼんやりと眺める。
「…………」
何気なしに、彼は脇腹をこする。ニーフとの戦闘の折、剣を突き刺された箇所だ。回復アイテムを使ったおかげで、傷跡は一切なく、HPも満タンまで回復し万全な状態だ。
にも拘わらず、何かが引っ掛かる。
「……ニーフ、か」
結局偽名とみられるその名前しか聞くことのできなかった男。終始危なげな雰囲気をまとった彼と、自分は殺し合いをしたのだ。モンスターとは違い、知性があり、言葉の通じる、同じ人間同士での戦い。オーレンの人生において、初めての経験であった。
一瞬たりとも緊張をゆるめることのできなかった、命の奪い合い。その最後は、双方が天空の大地から放り出されたところで終了した。オーレンはこうして救い出され、一方のニーフは、落ちるだけでは飽き足らず、胸に剣を突き立てられたまま、落ちていった。
最後に、小さく涙の跡を残して。
「……………」
オーレンは軽く天井に手を伸ばし、自身の腕を眺める。
「…………あれは。僕が……殺した、のかな」
致命傷となるのは、天から降ってきたあの剣……メリルが投擲したものらしいが……の一撃だろう。だが、それがなくてもあの高さから落ちればまず助からない。かぎ縄も所持していたが、結局それもメリルによって吹き飛ばされた。
生存の道をことごとく潰したのはメリルとはいえ、きっかけ作りをしたのは自分だ。全くの関与なしとは言い切れない。
「僕が……人を?」
殺した?
そう思ったとたん、不意にランプが天井に作り上げる影が、恐ろしいもののように感じた。
ゆらゆらと揺れる影が、ニーフの負の意識に見える。彼の無念が、苛立たし気に揺らめき、次の瞬間にも自身に降りかかってくるのではないかと、手を伸ばしてくるのではないかと感じた。
「や、やめっ――」
思わずオーレンは鋭く声を上げ、体を縮める。頭の片隅では、そんなこと有り得ないと分かっていながらも、物理的に何か来るのではないかという恐怖が抑えきれなかった。
心なしか、声まで聞こえてくるようだった。
「や、やめて! やめろよ!」
ぎゅっと強く閉じた瞼。しかし光の残像が、逃がすまいと言わんばかりに瞼の裏に焼き付いている。
「やめ――」
「オーレン君!?」
不意に耳元から聞こえてきた、自身の名。そして押しつぶされるような圧迫感。それを感じ取ったところで、オーレンは我に返った。
目を開けると、ここ最近見慣れた天井が映る。そこには、先ほどと変わらず炎の揺らめきによってできる不規則に形を変える影があった。
同じ状況だが、先ほどのような強迫観念は受けない。
「あ、あれ……」
ぼんやりとした意識の中で、自分が何をやっていたのか思い出そうとする。
そんな時――
「……落ち着いたかしら?」
真横から、しかもほんのすぐ傍から声が聞こえてきた。
「!?」
慌ててオーレンは声のした方を振り返る。
そこには。
「……っ中々筋力あるわよね、オーレン君って」
苦笑いを浮かべている、メリルの端正な顔があった。
その距離、約二十センチ。
「え、め、メリルさぁん!?」
オーレンは思わぬ距離感に、慌てて距離を取ろうとした。だが、体が思うように動かない。というか、何かに押しつぶされている感がある。
一体何に自分は潰されているんだ。
その答えは、その後一瞬でクリアになった。
「え、あ、あのこれはっ!?」
なんと、メリルがオーレンの上から抱き着いている状態であったのだ。
え、何、何この状況!?
オーレンは理解が及ばない事態に頭を混乱させた。にも拘らず、体はしっかりとメリルの柔らかさを伝えてくるのだから、おい神経お前らもう少し力の使うところを考えろよなどと益体のないことを考えたり。
そんなオーレンの気が動転している最中。メリルはふぅと小さく息を吐く。
「落ち着いたかしら?」
「お、落ち着いたって、何のことです!?」
「さっきまで、怖い夢を見ていたんじゃなくて?」
「――」
その言葉で、オーレンははっとなった。そして天井に目を向ける。
天井でうごめいている影が、まるで負の思念のように見えていて、それに自分は抗っていた。実際にはそんなことはなく、ただランプの炎の揺らぎにつられて、影が形を変えていただけだというのに。
ここにきてようやく、先ほどの自分のことが客観視できるようになっていた。
改めて見ても、そこには何の変哲もない天井が見えるだけ。負の思念なんて欠片も感じ取れない。
「……もしかして僕、暴れてました?」
「それなりにね」
「……すいません」
「いいのよ」
そう言ってメリルは、オーレンの上に乗ったままゆっくりと彼の頭を撫でた。
「あれだけの経験をしたんだもの。場慣れしていない者が恐怖を覚えるのも無理はないわ。それで悪夢を見るのも、ね」
「……メリルさんも、そういうことがあったんですか?」
先ほどあれだけざわめいていた心情が、落ち着きを取り戻していた。そしてメリルの温かさが心地よく、もう少しこのままでいたいと感じたオーレンは、さらに言葉を紡ぐ。彼の思いを知ってか知らずか、メリルの方もそのままの状態で口を開いた。
「どうだったかしらね。元々だいぶ跳ねっ返りだったから。……けれど、悩んだこともあったにはあったわね。今のオーレン君と同じように、恐怖におびえることもあったわ」
「あんなに強いメリルさんが恐怖するなんて、ちょっと信じられないですね」
「失礼ね。こんな美人つかまえて。私も聖剣を賜ってから半分はやめているかもしれないけれど、人の子ですからね。恐怖することもあれば、人肌恋しくなることもあるわ」
そのとき、メリルが少し身じろぎをした。その動きは、下に敷かれているオーレンにダイレクトに伝わる。
「!?」
とそこで、オーレンが小さく息をのんだ。その頬に若干赤みが差す。
あ、これは。これはその、やばいのでは……っ。
今までどうして平然としていられたのが分からない。先ほどメリルが動いたことによって、落ち着いていた心情が再び揺れ動き始めた。
「…………」
「…………」
どことなく甘い表情をしているメリルに対して、オーレンは必死に天井を凝視していた。
ひとえに、気を静めるために。
大丈夫、大丈夫だ。落ち着くんだ、僕。落ち着いて、そう、心を清流のように研ぎ澄ませるんだ。
本当は深呼吸の一つでもしたいところなのだが。そうすればメリルにイケナイ気持ちになっているのが感づかれる恐れがある。それはまずい。恩人にその仕打ちはまずい。もし感づかれたら、彼女に顔向けできなくなってしまう。
オーレンは極力身動きをしないよう、すべての感覚を切り離すつもりで意識を集中しようと――
「あら」
したところで、土台無理な話だった。
「……ふふ、そうよね。オーレン君も男の子だもんね」
メリルが何かに……というかナニに気が付いたように、笑みを浮かべてそう口にした。それだけでなく、おもむろに身じろぎをして、オーレンに絡みつくかのような姿勢をとった。
「す、すすすいませんっ」
オーレンは顔を覆いつつ、謝罪の言葉を口にする。その様子が可笑しかったのか、メリルは「あはは」と朗らかに笑った。
「何を謝っているの。ちゃんと私に反応してくれているのだから、女として嬉しいくらいよ」
ひとしきりふふふと笑いを漏らしていたメリル。彼女はやがて笑いを抑えると、頬を上気させながらオーレンの耳元に顔を近づけた。
「……私は、別にいいわよ?」
それは甘い、とても甘い一言であった。
思わずオーレンはメリルの顔色を窺う。目線が合うと、お互いとも顔が真っ赤になっているということに気が付いた。
「顔が真っ赤よ、オーレン君」
「……メリルさんだって」
二人して、口元に笑みを浮かべる。
その後のことは、二人だけの秘密である。
下界への転送装置と言われ連れてこられたのは、ログライやニーフが現れたものとは別の場所にあった。周囲に不思議なモニュメントが建てられていることなど、形は類似しているが、あれよりもさらに小さい。あちらが整備された玄関なのだとしたら、こちらは勝手口といったところだろうか。
相変わらず天気は良く……といっても、雲の上にあるのだから当然だが……心地の良い風が吹き抜ける。正直これほど気持ちの良い景色と気候は、今まで旅した中で目にしたことがないと思う。それほどまでにこの仙境は、オーレンにとって景色一つといえど印象的だ。戻るのは、どこか名残惜しさが残る。
だが、別に景色自体は、まあぶっちゃけ割り切ることができる。名残惜しいといえばそうなのだが、それよりも仲間たちの方が気にかかるからだ。
それとは別に、下界に戻るにあたって割り切れないことと言えば……。
「えっと、短い間でしたけど。お世話になりました……」
オーレンはぺこりと頭を下げる。そのときの挨拶は、誰が聞いても寂しそうだと感じるものだった。
オーレンは下げていた顔を上げると、まっすぐに前を見つめる。
その視線の先には、腰に手を当てて佇むメリルの姿があった。
相変わらず彼女はどこか全身から自信をあふれさせていて、その端正な顔には小さく笑みが浮かんでいる。さらさらと風に揺られる金髪が、まるで光の粒子のように陽に反射して光る。改めて見ても、とても美しい女性だ。
そんな人と、僕は……。
不意にオーレンの顔が赤く染まる。そしてこれ以上はさらに名残惜しくなりそうな気がしたので、慌てて昨晩の記憶を隅に追いやった。
「そ、それじゃあ僕は行きますね。また機会があれば、ここに来たいと思います。いやむしろ、来れるなら何度でも来たいですけど――」
「オーレン君」
「あ、はい」
早口にまくしたて始めたオーレンの口上を遮るように、メリルが彼の名を呼んだ。だが、その後彼女はすぐには言葉を発しない。ただその場に佇むのみで、じっとオーレンを見つめるのみだ。
「……?」
メリルの意図が分からす、オーレンは首を傾げた。一言二言くらいは別れの挨拶が来るかと思っていたが、違うのだろうか。
「……まあ、いいか」
メリルの言葉を待つこと数瞬。やがて彼女は、そう言うと唐突に歩を進め始める。
下界へと降り立つための転送装置に向かって。
「……え?」
オーレンの横をするりと通り過ぎるメリル。そんな彼女をオーレンはただ目で追うことしかできなかった。
「あ、あのメリルさん?」
「気が変わったわ」
ふと、転送装置の前まで歩を進めたメリルがぴたりと立ち止まる。そしてこちらに背を向けたまま、あっけらかんと口を開いた。
「私も下界に降りることにするわ」
「え!?」
その言葉に、オーレンは喜色を浮かべつつも、同時に戸惑いの声を上げた。
「だ、大丈夫なんですか、それ?」
「問題ないわよ。定期的に下界には降りていることだし。それに、数年程度なら留守にしても、誰も来ないだろうし。そもそも私がいなければ、仙境へ来るための転送装置も動かないしね」
ひらひらと手を振るうメリルからは、本当に大したことのないといった雰囲気を感じる。
「……それに、一緒に寝た男の子が、下界に降りてすぐ別の女ひっつかまえたりしたら、悔しいものね」
ひらひらと振るっていた手をおもむろに止めた彼女は、ぴっと指を立てた。一方のオーレンは、その内容に再び赤面する。
「だから――」
そこで言葉を区切ったメリルは、不意にくるりとオーレンの方を振り返った。
そして、自信のあふれる顔ににこやかな笑みをたたえて、言った。
「下界に降りても、よろしく頼むわね。オーレン君」




