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非現実の現実で僕らは戦う  作者: 沖野 深津
第三章 界繋
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第二十八話

「……勘はなかなか良さそうだな」

「この!」


立ち上がると同時に、ニーフがわずかに開いていた距離を詰め、追撃を加えようとしてきた。それに合わせ、オーレンは剣を振り下ろす。元々旅人というスペックに加え、ここまで素振りを積み重ねてきたおかげか、その一撃は本職の剣士と比較しても非常に鋭い。


「……魔法使いのくせに、ふざけた太刀筋だ」


その一撃を目にしたニーフは、不快気に顔をゆがめた。彼の太刀筋に才能の片鱗を見たのだろう。だがあまりに単調すぎるその斬撃は、難なく回避されてしまった。

その後も接近戦に持ち込まれつつも、オーレンは何とかニーフの凶刃を捌いていく。ここまで連戦をしているせいか、ニーフの動きも陰りが生じ始めていたのも幸いしていた。だが、やはり素人と経験者の戦い。オーレンは少なくないダメージを負い始めていた。


「……成程。お前は旅人か。そういえば旅人というのは、血がでないという噂を聞いたが、事実だったのか」

いくら剣を突き立てても、変な光のエフェクトが皮膚上に残りはするが、血の一滴も出てこない。明らかに通常の人間のそれではないオーレンの様子に、ニーフは眉をひそめた。

「……お前らは、死ぬのか?」


息は上がるのか荒い呼吸をしているが、傷による動きの低下はあまり見られない。あれだけ腕や足に切り傷をつけられれば、普通は剣筋が鈍ったりするものなのだが。

「さあ、どうかな!」

辛うじて大ダメージだけは避けているオーレンは、自身を鼓舞する意味も込めて力強くそう口にする。しかし、内心はあまり穏やかではなかった。


……さすがに、素人剣だけじゃ太刀打ちできない。そもそもスキルの一つもないし……。魔法を使おうにも、こんだけ距離を詰められると詠唱する暇もない。くっそ、どうしよう!


恐らく、オーレンの魔法ならばニーフを追い詰めることはたやすい。彼の本領は広範囲の殲滅魔法だ。いくらニーフが素早いと言えども、そのすべてを避けきれるとは思えない。


本来だったら、これだけ近づかれた時点で僕の負けなんだけど!


しかし、彼自身ニーフの振る舞いは腹に据えかねていた。もしかしたら助けられていたかもしれないログライを、目の間で殺されたこと。あれだけ容易く人を殺せる彼を、到底受け入れることはできない。そしてそれだけに飽き足らず、恩人であるメリルにまでその凶刃にかけようとしている。


絶対に許せない!



「なあ、どうしてあんたはこんなことができるんだ!」


人を斬ることに抵抗を感じるオーレンが狙うのは、ニーフの剣。武器さえ破壊すれば、勝機はあるのではないかと考えての行動だ。それを見切っているニーフは、わざわざオーレンの振り下ろしには付き合わない。鋭いが単調すぎる彼の一撃を、ニーフな難なくかわす。お返しとばかりに繰り出された蹴りを、オーレンはまともに食らい再び地面を転がった。


「……こんなこと、とは何を指している?」

「げほっ。――人を殺すことだよ! なんであんなに簡単に殺せるんだ!」


咳き込みつつも、オーレンはゆっくりと立ち上がる。その目は、ニーフを強くにらみつけていた。その叫びを耳にしたニーフは、何度かまばたきをすると、口元に小さく笑みを浮かべた。

「……成程。余程甘い環境で育ったのだな、お前は。場違いな台詞に頭にくるかと思ったが……。存外、度が過ぎると笑いがこみ上げてくるようだ。……いいぞ、面白い言葉だ」


ふふふと小さく笑い声を漏らしながら、ニーフは一歩近づいてくる。それに合わせて、オーレンは一歩後ずさると、背後からの強い風を感じた。思わず顔だけで後ろを振り返る。


視線の先には、草原の緑は見えなかった。果てしなく広がる白い雲海が視界いっぱいに広がる。

いつの間にか、彼はこの浮いた大地の端に追い込まれていた。




「……いい眺めだな。この高さだ、踏み外せば命はないだろう」

「…………」


その呟きに、オーレンは少し足を横に出す。何とかして大地の端から逃れようとの目論見があったのだが、やはり正面に立つニーフは許してくれそうにない。オーレンが横へ逃れようと動こうとしたところ、彼も同様に立つ位置を変えオーレンと対峙する構図を維持する。


「さて。何故簡単に人が殺せるのか、だったな?」


そう口にしたニーフの脳裏に映ったのは、友人に裏切られ彼の首をかいたあの日の景色であった。

奴隷の身分であるし裏社会に身を置き始めていた。だから遅かれ早かれ、自身の手を汚く染め上げることになったのかもしれない。けれどその日暮らしの生活でも、生きていければもうけものだと感じていた彼だから、どこかで道を改めもっと別の生き方をした可能性もある。


あの日だって、警告だけに止まっていれば、道を違えたと諦めたかもしれない。友人が少しでも分かり合おうという意志を見せてくれれば、また再び手を取り合うこともあったかもしれない。

もしかしたら、二人で仲良く剣を振るう未来だって、あったかもしれない。


けれど、現実は現実だ。


あの日を境に、ニーフは人を斬ることに躊躇いを抱かなくなった。例え人を斬る感触に手が震え、吐き気をもよおすことになっても、人を斬れるようになったのだ。

あの日習得した人を斬れるという技術のおかげで、今の彼は暗殺者稼業を続けられている。


あの日の事件はいまだに、ニーフの中で様々な思いを抱かせる。人生最悪の日ともいえるし、あの日のおかげで今生きている自分がいる。おいそれと言い表せない、彼の特別な記憶。


だが、そんなもの他人に言って聞かせたところで何の得になろうか。どうせつまらない男のつまらない与太話だと聞き流される。言うだけ無駄というものだ。


「……最初は、死にもの狂いだった。殺さないと殺される……そんな状況で殺した。今思うと、稚拙な技術だよ。それに、数日いろいろなものに苛まれた。肉を切る感触やにおいが忘れられずに、胃のものをぶちまけたり、来るわけもない報復を恐れて、眠れない日々を送ったり。かといってたまに眠ることができたと思えば、悪夢を見るなんて落ちが毎回のように続いてな。それは辛かったさ。……けれど」


だから、まともに話をする必要なんてない。

ニーフは口元に笑みを浮かべながら、おもむろに自身の剣の腹を指の節で軽くたたいた。


「二回、三回と続けていくと……これが楽しくなってくるんだ。人を斬る感覚は、当然人を斬ることでしか得ることはできない。そしてその味を覚えてしまうと、もう人を斬ることに躊躇いを覚えることはなくなる。……ほら、これで立派な人斬りの完成だ」


「た、楽しい……だって。そんな理由で――」

ニーフが口にした言葉が到底受け入れられなかったオーレン。彼は大きく目を見開いて、わなわなと口元を震わせながらそう漏らす。

そんな彼の姿をみたニーフは、「ああ」とつぶやくと顎を上げ、オーレンに見下すかのような視線を向けてきた。



「人を殺す理由なんて、そんなもんだ」




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