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7.僕は精液にすぎないか(16)

     ◆


 車は桜の木の下に停めてあった。

 葉影が、ボンネットと窓に、まだらの模様を作っていた。

 村上刑事はクーラーをきかして、ZARDを聞いていた。

 趣味が合わないがしかたがない。

 シートベルトをつけている僕に、彼は、やっぱり強請られてたんだろう? と言った。


「どうしてですか」

「そういう話をしてたんだろ?」

「いいえ。サークルの話でした。事件とは関係がない」


 村上刑事はしばらく、無言で、僕の顔を見つめていた。

 僕はまっすぐ前を見ていた。


「まあ、そういうことにしておこうか」

 彼は車を発進させた。

「さて、どこへ送って行こうか。また大学に戻ればいいのかな」


 家へ、と僕は答えた。

 電車賃分くらいは刑事の役に立ったはずだ。

 しかし、母の怒りがまだ治まっていない気もしたので、〈城〉へ連れて行ってもらうことにした。


 黙っていると眠くなった。

 うとうとしていると、刑事に腕を掴んでゆすられた。


「おいおい、寝るなよ。君がナビだろう。

 寝られちゃ、こっちはどこへ走って行けばいいのかわからないよ」


 そのとき、僕は半分眠りながら、考えていた。

 曖昧で形のない夢に、十三貝さんが現れて、言い訳していった。


 僕は刑事に言った。

「どうして十三貝さんは浅沼さんのことがわかったんでしょう?」

「うん?」

「〈パブロフ〉じゃ、みんな、浅沼さんを〈名探偵〉だと言ってた。

 本当のことは、考えて辿り着く答えじゃないですよね。

 だれかに正解を教えてもらったんだ」


「おしゃべりなやつがいたってだけのことさ」

「じゃあ、そのおしゃべりは、どうして本当のことを知っていたんですか」


「さあ、それはわからないな。

 また別のおしゃべりがいて、そいつから聞いたんじゃないの。

 別のおしゃべりはまた別のおしゃべりから……こんなこと、考えてもきりがないね」


 ZARDのCDはすでに一度聞いた曲に戻っていた。

 村上刑事は、曲に合わせてハミングしていた。

 わざとらしかった。

 緊張を隠しているのが見えた。


 BT、と僕は呟いた。

 〈ビフォー・トモ〉が、ここにいる。


「なんだって?」

「本当のことは、警察の人間しか知らなかったんじゃないですか」


 返事はなかった。


「刑事さん、あなたは彼女――十三貝さんと、つきあってたでしょう?」


 やはり返事はなかった。

 人は都合の悪いことを肯定するのに、どうしていつも黙り込むのだろう。


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