7.僕は精液にすぎないか(16)
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車は桜の木の下に停めてあった。
葉影が、ボンネットと窓に、まだらの模様を作っていた。
村上刑事はクーラーをきかして、ZARDを聞いていた。
趣味が合わないがしかたがない。
シートベルトをつけている僕に、彼は、やっぱり強請られてたんだろう? と言った。
「どうしてですか」
「そういう話をしてたんだろ?」
「いいえ。サークルの話でした。事件とは関係がない」
村上刑事はしばらく、無言で、僕の顔を見つめていた。
僕はまっすぐ前を見ていた。
「まあ、そういうことにしておこうか」
彼は車を発進させた。
「さて、どこへ送って行こうか。また大学に戻ればいいのかな」
家へ、と僕は答えた。
電車賃分くらいは刑事の役に立ったはずだ。
しかし、母の怒りがまだ治まっていない気もしたので、〈城〉へ連れて行ってもらうことにした。
黙っていると眠くなった。
うとうとしていると、刑事に腕を掴んでゆすられた。
「おいおい、寝るなよ。君がナビだろう。
寝られちゃ、こっちはどこへ走って行けばいいのかわからないよ」
そのとき、僕は半分眠りながら、考えていた。
曖昧で形のない夢に、十三貝さんが現れて、言い訳していった。
僕は刑事に言った。
「どうして十三貝さんは浅沼さんのことがわかったんでしょう?」
「うん?」
「〈パブロフ〉じゃ、みんな、浅沼さんを〈名探偵〉だと言ってた。
本当のことは、考えて辿り着く答えじゃないですよね。
だれかに正解を教えてもらったんだ」
「おしゃべりなやつがいたってだけのことさ」
「じゃあ、そのおしゃべりは、どうして本当のことを知っていたんですか」
「さあ、それはわからないな。
また別のおしゃべりがいて、そいつから聞いたんじゃないの。
別のおしゃべりはまた別のおしゃべりから……こんなこと、考えてもきりがないね」
ZARDのCDはすでに一度聞いた曲に戻っていた。
村上刑事は、曲に合わせてハミングしていた。
わざとらしかった。
緊張を隠しているのが見えた。
BT、と僕は呟いた。
〈ビフォー・トモ〉が、ここにいる。
「なんだって?」
「本当のことは、警察の人間しか知らなかったんじゃないですか」
返事はなかった。
「刑事さん、あなたは彼女――十三貝さんと、つきあってたでしょう?」
やはり返事はなかった。
人は都合の悪いことを肯定するのに、どうしていつも黙り込むのだろう。




