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7.僕は精液にすぎないか(13)

 もっとも、村上刑事の話によれば、校長たちは、女子生徒たちのそんなオマヌケなふるまいよりも、むしろ、頭撫で魔の行動のどこか性的な匂いに怯えていた。

 二人は警察に、どうにかしてくれ、と言いにきたのだった。

 しかし、ただ頭を撫でていくだけで、どこのだれかもわからない人間を、どうにかするなんて、警察には不可能だった。


 女子小学生の頭を撫でているやつが、若菜を突き飛ばしたやつなのか。

 しかし、答えの出ないような問題なら考えるだけ無駄だ。

 僕は十三貝さんの件に話を戻した。


「封筒に二日の消印があったことに意味はないんでしょうか」

「どういうこと?」

「十三貝さんにとって七月二日は特別な日だったんじゃないかと」


 村上刑事は、僕の顔の前で、手を振った。

 言わなくていい、ということらしかった。


「刑事さんはどう考えているんですか」

「僕の意見?

 少なくとも過去の事件とは関係ない、と考えているんだけどね」


 村上刑事は、日記にあった村田という男もあやしい、と言った。

 十三貝さんは、村田という人間を読み損ねたのだ、と。

〈日記男〉――と村上刑事は呼んだ――は忍耐心に富んでいなかったわけだ。

「まだ大丈夫」と重ねた積木が、実は「もう駄目だ」だったということらしい。

 高く、高く積まれた積木の塔は、一挙に崩れて、十三貝さんは、その下敷きになってしまった。

 僕がそこへどう絡んでくるのかといえば――

 当て馬として、あるいは苦し紛れの言い訳として、彼女は、僕の名前を、村田に聞かせたんじゃないか、というのだ。


「それって、ただのとばっちりじゃないですか」

「そう、とばっちりだよねえ」


 村上刑事は鼻で笑った。


「ただ犯人が〈日記男〉なのか〈名探偵〉なのか、今のところ五分五分だ。浅沼君の話を聞いてみればその答えが出るだろう」


     ◆


 ハムスターは上機嫌に車輪を回していた。


 飼い主は、刑事の到来に、明らかに不機嫌になっていた。

 腕組みをして壁にもたれたまま、村上刑事の話を聞いていたが、ときおり責めるような眼を僕に向ける。

 連れてこられたのは僕の方なのに、まるで僕が刑事を連れてきたかのようだった。


 彼の肩の上に、カレンダーがかかっていた。

 銀行が配る、風景写真のカレンダーだった。

 アフリカのサバンナ――らしき風景。

 風が、草原を波打たせている。

 だれも怒らせないような写真にはちがいなかったが、結局、それだけの意味しかない写真でもあった。

 ミロクさんの部屋には、似合いのカレンダーだと言えるかもしれない。


 この部屋にも生活臭はあった。

 人が生きて暮らしているという温もりはあった。

 しかし、暮らしている人間の顔は見えなかった。

 それはだれでもいい――任意のXを世帯主とし、空間の中央に配置せよ――ミロクさんはたまたま、ここへ居合わせたにすぎないようだった。

 檻に閉じ込められたハムスターにしても、ここにいるのは、なにかの偶然だろう。


「ゆうべ、あなたは一つ隠したでしょう?」


 村上刑事は、返事がないのをたしかめると、ひとこと加えた。


「預金通帳のことなんだけどねえ」

「話しましたよ。見つけたとちゃんと言いました」

「でも、だれが、その口座に振り込んでたかは教えてくれなかったじゃない」

「見ればわかることですから。なにもすべてを話す必要はなかったでしょう?」


「日記のことは話してくれたでしょ」

「あれは行き掛り上しかたがなかった。

 ちさとが――石垣さんが日記の話なんかしなければあんなこと喋るつもりはなかった」


「その石垣さんなんだけどね、今日は、カインとチューリングって名前が、通帳にあったことを、教えてくれたんだよ」


 ちさとのおしゃべり!――。


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