7.僕は精液にすぎないか(11)
「第三。犯人は、乳首を入れた水岡智徳あての封筒を、大学の近くのポストに投函した。
あの地域の郵便物の回収は、いちばん遅くて午後六時半だ。
それまでに集められた郵便物には、その日の消印が打たれる。
局へ直接持っていったとしても、十九時までということになっている。
だから、犯人が封筒を投函したのは、遅くとも十九時。
切断が十一時前後だから、実際に投函されたのはそう遅い時間ではない、と見た方がいい。
いずれにせよ、はっきりしているのは、犯人が君の名前と住所を知っていたという事実だ。
第四。犯人は、〈パブロフの猿〉のサークル室に、被害者の右耳を置いた。
それは、高槻若菜の証言から、六時二十分以降だということはわかっている。
現在のところ、彼女よりあとにサークル棟に入った関係者はいない。
ただ、その時点では、ほかのサークルの学生がまだ残っている。
そのことは、部外者にも十分予測できることだと言えるね。
だから、耳を置くところを目撃されるのを避けたければ、犯人は、学生があらかたいなくなる閉門後に、構内へ侵入したはずだよねえ。
とすると、犯人はサークル棟がそこにあること、サークル棟に〈パブロフの猿〉の部屋があること、そして、サークル棟の戸に鍵はついていないことを、知っている者ということだな。
第五――」
「まだありましたっけ?」
「あるよ。七月四日夜。
浅沼大悟、水岡智徳、石垣ちさとの三名が、十三貝美奈子住居に侵入。
目的および行動内容は不明。
十三貝美奈子失踪の調査のため、とする浅沼の証言はあるが、その信頼性は薄い――
こういうことだね」
「僕は入りたくて入ったわけじゃありませんよ」
「信じられるわけないだろ?
正直、君たちの目的はなんだったんだ?
単に素人探偵の真似事だったなんて、言い張るつもりはないよねえ?」
「僕は……僕とちさとは、言ってみれば偶然、あの部屋に入ったんです。
ちさとは僕が言い出すまで、十三貝さんの部屋に行くつもりなんてなかったし……。
部屋の明かりがついていなければ、僕らはマンションの前で、Uターンしてましたよ」
村上刑事は、ヒゲの伸びだしてきた頬を撫でた。
僕の話を信用していないようだ。
「美奈子が戻ってるぞって、部屋を訪ねたんだっけ?
ところが、そこにいたのは美奈子ではなく、浅沼君だった。
君たちは彼が入れと言うから、部屋に入った。
まったく、まるで子どもだな。
少しは状況判断とか、できないもんかなあ。
被害者かもしれない人間の部屋へ、警察が捜索もしていないうちに入るなよなあ」
「すみません」
僕は素直に謝った。
僕らの無計画な行動が、十三貝さんの発見を遅らせるんじゃないか、と後悔していた。
「やっちまったもんはしかたがないとするか。
だけどね、君たちはそれですますとしても、先に来ていた浅沼君については、どう説明するんだ?
彼の目的はなんだ?」
「わかりません」
「考えろよ」
村上刑事は怒ったように言った。
僕は黙っていた。
僕の考えになんか、意味はないはずだ。
村上刑事は、僕の皮を剥いで、内側を覗きたがっている。
彼はそこになにを見つけるのだろう。
だいたい、僕には内面なんてあるだろうか。




