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7.僕は精液にすぎないか(10)

 大きな缶を提げて、店員が入ってきた。

 並んだ灰皿の中身を、端から缶の中に捨てていく。

 僕らの前の灰皿をひっくり返しながら、お客さんたちなにしてんですか、と訊いてきた。

 店員は、顔を足下の水の入った缶に向けたままだった。

 玉も買わずになにをしているのか、という文句だろう。

 店内を監視するモニターに、僕らはかなり怪しく映っていたにちがいない。

 村上刑事は、仏頂面で警察手帳を店員の鼻先に突き出した。

 店員は首を縮めて、ご苦労様です、と言った。

 わざとらしく口笛を吹いて出ていった。

 店長には、張込み中の刑事でした、とでも答えるのだろう。


 パチンコ屋がドライブの終点ではなかった。

 村上刑事は、シートベルトを締めながら、もう一ケ所行くところがあるんだ、と言った。


「どこですか」

「〈名探偵〉のとこ」

「刑事さん、今日は休みなんでしょ?」

「そうだよ。なんで?」


 僕は肩をすくめた。

 刑事といったらワーカホリック、と決まっているわけじゃあるまい。

 これが、村上刑事の普段の休日の過ごし方だとは、信じられない。

 だいたい、容疑者を訪ねて回るなら、休日など返上して、正式な捜査とすればいい。

 そうしないのは、彼が個人的な理由で動いているからだ、という気がした。

 ただ、その個人的な理由がわからない。

 頭の中で、ガス状星雲のようにぼんやりと、形を作り始めてはいたのだが。

 車を再び渋滞の中に戻すと、村上刑事は、眼を先行車の尻に据えたまま、言った。


「今度のことを整理してみようよ。まずは――」

「僕が耳を見つけた」


「いや、それはちがう。

 君が耳を見つけるためには、だれかがサークル室に耳を置かなくちゃいけないだろう?

 そして、耳をそこに置くためには、だれかが耳を、だれかから切りとらなくちゃいけないんだ。

 だから、君が耳を見つけたことは、時系列的にはもっとあとだね」


「じゃあ、最初は、十三貝さんが部屋から消えたことですか」


「耳の切断と、彼女が部屋を出たのと、どちらが先かはわからない。

 でも、便宜的に、ここではそれを始めにしようか。

 十三貝美奈子は、七月二日の日中に、あの部屋を出た。夕刊が新聞受けに残っていたことから、そう考えられる。

 彼女が自分から出かけたのか、拉致されたのかは判断できない。

 ただ、部屋には争った跡はなかった――そういう話だったよね。

 だとすれば、自発的な外出の可能性が高い。

 そして、その後、彼女は部屋に戻らず、行方不明のままだ。


 第二は、同日、だれかがだれかの耳と乳首を切断した、ということになるね。

 耳を切った方を犯人、切られた方を被害者と呼ぶことにしようよ。

 ああ、監察医の報告によれば、耳も乳首もほぼ同時刻に切られたものだそうだ。

 具体的には、午前十一時前後一時間。

 切断面に生活反応はなかった。

 ただし、これを死体から切ったからだとは断定できない。

 耳にも乳首にも、切り口をあとからきれいに整えた形跡が見られるんだ。

 犯人はいったん切り離したものから、切断面がまっすぐになるように、さらに余分な部分を切り捨てたらしい。

 切断した部位の細胞が死んだあとで、もう一度切ったものなら、当然生活反応は出ないからねえ。

 生きている人間の、耳を削いだり、乳首を切り取ったりするなんて、残酷な話だけど、僕らとしては、そうだったと願うしかない。

 だって、そうでなかったら、被害者は死んでいるってことなんだから」


 僕は、十三貝さんが血まみれで、悶絶している姿を想像して、胸が悪くなった。


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