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7.僕は精液にすぎないか(7)

「浅沼君が事件を解決した――ということになってるんだろう、君たちの間では?

 どこからそんな話が出たのかなあ。

 まあね、解決したと言えないこともないんだけれど……。

 でも、〈名探偵〉ということにはならないだろうなあ」


 彼はからかうように僕を見てコーラをすすった。


「浅沼君が犯人を推理したわけじゃないんだよ。

 あの事件での彼の役割はまるでちがうんだ。

 警察はすでにあのとき、事件の犯人を割り出していたからね。

 逮捕状を取って指名手配まであと一歩、というところだったんだよ」


「指名手配――ですか」

「そう、犯人は当時、行方をくらましていた。

 捜査の手が自分の近くにまで及んだことに、気づいていたんだね。

 警察は焦った。

 なにしろ相手は三人の中学生を殺し、四人めに手を出して失敗したばかりだったから。

 すぐに次の犠牲者が出ても、おかしくなかったんだ」


「四人めって言いました? そんなのニュースで言ってました?」

「言ってたよ。事件が解決したあとでだけどね。

 四人めの子は殺される寸前に逃げ出したんだ。

 被害者のプライバシーって問題があるだろ、まだ中学生なんだからね。

 マスコミも大きくは取り上げなかったし、もちろん、どこのだれかなんて公表されなかった。

 そうしたら、いつの間にか、みんな忘れてしまったんだなあ。

 だけど、その子の証言がなければ、犯人逮捕には到らなかったろう」


「浅沼さんはどこに関係してくるんです?」

「うん。彼は警察に電話してきたんだ。犯人から連絡があったって」

「わからない。どうして犯人が浅沼さんに連絡してきたんですか」


 僕の頭の中を、若菜のミロクさん真犯人説や、マスターが言った犯人の恋人説が、ぐるぐる駆け巡った。

 僕は混乱していた。

 しかし、聞きたくない話を聞こうとしているのだ、ということだけはわかっていた。


「犯人は、彼が匿ってくれると思ったんだよ。血を分けた兄弟だったからね。優しいお兄ちゃんだけは、自分の味方だと信じてたのさ。

 犯人は小学生のときに、子どものいなかった叔父夫婦の家へ、養子に出されてね、苗字がちがうのはそういうわけなんだ。

 追い詰められて、最後にすがれるのは、兄貴しかいなかったんだろう」


「兄弟だったんですか」


 村上刑事は、なぜか得意げにうなずいた。


「浅沼さんは犯人とここで待ち合わせる約束をして、それから警察にそのことを教えたわけですね。

 そして、喫茶店であなたたちの仲間と細かい打ち合わせをしているところをうちのメンバーに目撃されたんだ」


「なるほどねえ。そういう経緯があったわけか。

 それで彼は事件を解決したと勘ちがいされて、〈名探偵〉ってことになっちゃったんだね。

 彼が誤解を解こうとしなかったのもわかるけどな。

 弟を裏切ったなんてことは、得意になって話せるようなことじゃないものなあ。

 でも、常識的に考えて、一般市民としては当然の行動だったと言えるんじゃないか。

 なんたって、弟はシリアルキラーだったんだからさ」


 窓の外をオープンカーが通り過ぎた。

 運転席に座っていたのは、ウイスキーのような色の髪の若い女性だった。

 儲けたのか、負けたのか、垣間見た表情からはつかめなかったが、彼女は乱暴な運転で駐車場を出て行った。

 僕の殺伐とした気分が、彼女に伝染したのかもしれなかった。


「それが僕のアドバンテージですか」

「そう。浅沼大悟は〈名探偵〉でもなんでもない。ただの学生にすぎない。君にとっては、サークルの先輩であるだけだ。

 だから、君がワトソンである必要もない。

 ホームズになりたきゃ、なればいいってことだね」


「僕をそそのかしているんですか」

「まさか。僕は刑事だからね、そんなことはしない。

 ただ、考えるんなら、自分の頭で考えろってことだよ。

 他人の脳みそなんか信用するもんじゃない。

 あてにしていた〈名探偵〉は、チクリ屋にすぎなかったわけだしねえ」


 縹刑事にも自分で考えろと言われた。

 僕はよほどなにも考えていないように見えるのか。


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