7.僕は精液にすぎないか(6)
駐車場は混んでいて、空きスペースを見つけるのに手間どった。
エンジンを切ると、エアコンの風も止まった。
数分で蒸し風呂だろう。
僕らは車を降りた。
「ここがわかるかなあ?」
「女子中学生連続暴行殺人事件の逮捕現場でしょ」
村上刑事はうなずいた。
〈パブロフ〉のスクラップブックにある写真が、どの辺りを写したものか、周囲を見回してみたが、わからなかった。
写真が撮られたのは早朝で、駐車場にはたった一台、犯人が乗ってきたらしい車しか写っていなかった。
今は、日光にきらめく、色とりどりの車の屋根で、駐車場は埋め尽くされていた。
「どうしてここに連れてきたんですか」
「涼しいところで話そう」
僕らは店に入った。
たしかに涼しかったが、そこでは、あらゆる音がツマミいっぱいまで、ヴォリュームを上げられていた。
球の音。
有線放送。
場内放送。
会話。
店内の空気の、どの部分をとっても、物凄い量の音が詰まっていた。
鼻から吸い込む空気にさえ、音があった。
こんなところで話せるのか。
首を傾げている僕を、村上刑事は腕を掴んで、店の隅に連れて行った。
「RELAX ROOM」と書かれたドアがあった。
村上刑事が開けた。
英語としちゃおかしいんじゃないの、とニヤニヤ笑いながら、僕はあとに続いた。
細長い部屋だった。
一方の壁全体がガラスになっている。
そこに面白いものが見えるわけじゃない。
客の乗ってきた車が、太陽に灼かれているだけ。
ドアを閉めると、鼓膜を痺れさせていた音は小さくなった。
聞こえないわけではないが会話するには十分だ。
ドアの横にソフトドリンクの自動販売機があった。
その向こうにベンチが並べられている。
ベンチでは煙草をふかす数人の客が、リラックスしているとは言えない顔で、窓の外を睨んでいた。
コーラでいい? と村上刑事は返事も聞かずに、二人分のコーラを買った。
僕らは、ほかの客から離れた場所に、腰を下ろした。
僕はコーラを飲んだ。
弾ける泡が舌に痛かった。胃が少し荒れている。
「君だってワトソン役に甘んじてるのは嫌だろう?」
「べつに」
「嘘つけ」
嘘じゃなかった。だいたい、僕はワトソンじゃない。
「君に一つアドバンテージをやるよ」
「代償は?」
「それは君次第。ただ、正直には正直で返すのが礼儀ってもんだけどねえ」
「僕は嘘なんかついてませんよ」
「でも、まだ話してくれてないことがあるはずだよ」
僕は肩をすくめた。
村上刑事がなにを聞きたいのかわからない。
十三貝さんのことか。
スリーサイズとか?
好きな体位とか?
「わからないって顔だね。君は特別に鈍いのか、それともとぼけるのが上手いのか……。
ま、いいさ。まずはこっちが正直になる番だからなあ」
彼は窓の向こうを指差した。
駐車場の出口の方。
あそこ、と言った。
「あそこ?」
「うん。あそこらへん。いま、赤い4WDが停まっている辺り。たぶんあの辺のはず」
女子中学生連続暴行殺人の犯人が逮捕された場所のことを言っているのだ、とわかるまで数秒かかった。
やはり僕は鈍いのだろう。




