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7.僕は精液にすぎないか(5)

「僕はなにを知っていそうですか」


「大人をからかうもんじゃないよ。

 君は十三貝美奈子とつきあっていたわけだろう?

 たとえわずか二週間にすぎなかったとしてもさ。

 その間に、彼女から聞いてないか」


「だから、なにを?」


 僕の腕を掴む手に力がこもった。

 村上刑事の瞳は細かく震えていた。

 殴られる予感に僕は身を固くした。

 しかし、村上刑事は手を離し、首を振った。

 白い光の中に彼の身体はゆれていた。


「ドライブしないか」と彼は言った。

 無理に明るい声を出しているようだった。

「ドライブにはうってつけの日――じゃないか」


 全然、と僕は答えた。

 が、一九五四年に未発見だった、警官にさよならを言う方法は、世紀が変わってもまだ発見されていない。

 結局、僕は村上刑事の尻について、駐車場へのろのろと歩いていった。


     ◆


 あの人は駄目になってしまったんだ、と村上刑事は言った。

 それから僕の無言に気がとがめたように、「と言われている」とつけ足した。


「あれでも本庁にいた頃は切れ者で通ってたらしいよ」


 あれでも、と言われても、どう「あれ」なのか、僕は知らなかったし、警察官の愚痴なんてものに興味はないから、そっぽを向いて黙っていた。


「まあ、わからないでもないんだが……。

 仕事をする張りって言うのかな、そういうのをなくしちゃったってことなんだろう。

 君にはまだ、そういうことはわからないか。

 うん、僕にも本当のところはわからない。そうなんじゃないかってだけでね。

 ただ、あの人のペースに合わせていたら、解決するものも迷宮入りになってしまう」


 車は国道を西に向かっていた。

 とは言っても、走っている時間より、止まっている時間の方が長いくらいだった。

 カーラジオによれば、高速入口から延々渋滞しているらしい。

 ただ車を走らせたいなら、渋滞から逃げればいいのに、村上刑事は先行車が進めば進み、止まれば止まるということを、不機嫌にもならずに、繰り返していた。


「まあ、迷宮入りなんてことはないにしてもだ、十三貝美奈子の安否がわからない以上、もっと積極的に動かなくちゃ駄目さ。

 先入観による捜査は過ちを招くっていうのもわからないじゃないが、この場合はね、とにかく動くことが必要なんだよ。

 まちがったらやり直せばいい。

 トライアル・アンド・エラーだよ。

 今、求められているのは、精確な状況判断じゃない」


「十三貝さんは生きてますか」


 村上刑事を見た。

 彼は微笑っていたが、ハンドルを握る手には力が入り過ぎているようだった。

 白く、血の気が引いていた。


「正直わからない。もう殺されているかもしれない。

 でも、生きていると信じなくちゃ。わかるだろ、水岡君?」


 僕はうなずいた。

 村上刑事だって、ただ上っ調子なだけじゃない。それは彼の一面でしかない。

 だれだって見かけどおりの単純さで生きているわけじゃない。


「着いた」と村上刑事が言ったのは、一時間も車に閉じ込められたあとだった。

 しかし、空間的には大学からそう離れていなかった。


 村上刑事は、パチンコ屋の駐車場に、車を入れようとしていた。

 これからパチンコをするなんて、まさか僕だって考えない。

 ここは――。

 きっと――。


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