6.TATOO――契約の印(3)
結局、そういう話か。
――二つの骰子。目は三と四だった。
それは十三貝さんの左内股、脚の付け根近くに彫られていた。
東京に出てきてすぐに入れたのだと教えてくれた。
刺青があることは彼女の秘密だった。
知っているのは、見たことのある人間だけだろう。
僕はさりげなく聞こえるように答えた。
「見たよ。でも、ずいぶん前の話だぜ。彼女から聞いてなかったの?」
「クリスマスにデートするってことだけ。冬休みだったしね。
わたしは帰省中だったから次に会ったときはもう終わったとだけ聞かされたわ」
そう、冬休み限定の恋愛関係だったんだよ、僕らは――とは、言わなかった。
こんな話を前振りにして洋子さんがなにを言おうとしているのかまるで予想もつかなかった。
「ちゃんとできたの?」
顔を伏せてて良かった。僕は赤面していた。
はいはい、初めてだったんで戸惑うところもありましたけど、お姉さまのお導きでなんとかちゃんとすますことができました、とでも答えればいいのだろうか。
「できたよ」
「嘘ついてない?」
「嘘なんかついてないよ。なんでそんなこと訊く?」
しかし、洋子さんは僕の質問には答えずにさらに質問を続けた。
「あんた、やたらとやりたがったりしなかった?」
「そう見える?」
「見えないこともないわ」
また、くぴくぴ、と音がする。
「あんたがやりたがると、あの子交換条件出さなかった?」
「どういうこと?」
僕は目を開けた。身体を起こす。
とりあえずお茶を飲んでみる。
喉が焼ける。
交換条件?
僕はなにか求められたか。
「うーん。トモはへそ曲がりだし、扱いにくいもんなあ。
鈍いとこもあるし。
さすがの美奈子さんも失敗したってことか」
洋子さんは自分勝手に納得して、両手で行儀よくお茶を飲んでいた。
僕は解答はおろか問題文を途中までしか読んでいないような曖昧さに苛立った。
「話ってこんなことなの?」
「まだ半分。残り半分の方が重要なのよ」
洋子さんは僕を見ようとしなかった。
くず桜にすいっと楊子を入れた。
「わたしね、ウマノスケとつきあってたとき、やってるところをビデオに撮ったことがあるの」
「まだ下ネタが続くのかよ」
「まあ、聞きなさいよ。
で、それをね、CDに保存したのよ。一枚だけね。
それは純粋に二人で見て楽しむためのもので、オリジナルのデータは消しちゃったし、CDの方のデータもロックかけてあったから、コピーは無理なのね。
そりゃ、コンピュータにすごく詳しい人ならできるかもしれないけど、わたしやウマノスケには無理な話。
で、あいつと別れたとき、わたしがそのCDを貰った。
当然でしょ?
ウマノスケだって素直に渡してくれたわ。
それでまあ、すぐに割るかお湯をかけるかして捨てちゃえば良かったんだけど、わたしにとっても記念だし、あいつとそんなに悪い別れ方したわけじゃないから、捨てられなかったのよ。
うん、ずっと持ってたの。
そうしたら、あるとき、ウマノスケが『なに考えてるんだ』って電話してきた。
怒ってるわけじゃなかった。当惑って感じだったわ。
わたしにはなんのことかさっぱりわからなかったから、こっちも当惑よ。
十分くらいわけのわからないやり取りが続いて、ようやくウマノスケには事態が飲み込めたらしかった。
ある十八禁のサイトを見ろって言われたわ。
そこは投稿写真専門のサイトで、そこのギャラリーにある写真を見ろって」
「洋子さんの写真があったわけだ」
「そう。犬みたいな格好した全裸のわたしが写っていたわ。
顔は鼻のところでフレームを切ってあったけど、自分の顔だもの、そりゃわかるわよ。
ウマノスケは腹から下が写ってたし、背景はまちがいなくあいつの部屋だった。
それがCDのデータからとったものだというのはまちがいなかった。
ビデオを撮ったとき以外には写真を撮ったこともなかったし、なんてったって何度も見て自分でも好きなカットだったからね」




