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4.眼から隠すという露出(14)

「十三貝さんが自分で切ったんじゃありませんか。

 合理的な説明なんて考えない方がいいのではないですか。

 こういう仕事をしてますとね、ずいぶんと不合理な理由で突拍子もない行動をした例にいくつもぶつかります。

 日記の件がそういう一例ではないとは言い切れないでしょう。

 現実は推理小説じゃないんです。

 現実はそんな論理的なものではないと、私は経験から信じているんですが」


「でも、縹さん、彼の言うことを頭から否定するわけにはいかないですよ。殺人の可能性ですからね」


 縹刑事は同僚を疲れたように眺めていた。

 やがて、どうでもよくなったような笑いを口唇の端に浮かべて、同僚の肩をポンポンと叩いた。


「なんです?」


「その可能性なら初めから考慮のうちだったろ?

 よく考えろ。

 判明している事実は、耳が見つかったことと、女が二日間家を空けていることの、まだ二つしかないんだ。

 耳が女のものかどうかもまだ不明だということを忘れるな。

 おれたちは素人じゃない、空想をもとに動くわけにはいかないんだ」


 縹刑事は助手席から僕らを振り返った。


「それから、あなたたちにも言っておきます。

 十三貝さんのことを本気で心配しているなら、今日のような馬鹿なことは二度としないでください。

 捜査の妨害以外のなにものでもありません。

 よろしいですか。

 特に浅沼さん、あなたがこんなことをするなんて意外でした。

 あなたがわれわれにどんな貢献をしたとしても、それはあくまで過去の事件についてです。

 この事件とはまったく関係がないということをお忘れなく」


「そうなのでしょうか。私にはそうは思えません」


「いいかげんに過去の事件のことなんて、忘れた方がいいのじゃありませんか。

 今、大学院に行ってらっしゃるんでしたよね?

 大学の先生を目指しているのでしょう?

 学業に専念なさいというのはいらぬ差出口でしょうが、少なくとも自分にとっていちばん大切なことはなにか冷静に判断して行動してください」


 そして、僕らは解放された。


 すでに十一時を過ぎていた。

 大丈夫なのか、とちさとに訊くと、彼女は叱られるだけだと答えた。

 送っていこうかと言うと、そんなことしたらトモさんが帰れなくなりますよ、と断られた。


 警察は浅沼さんに対して敬意が足りない、と彼女は怒っていた。


「〈名探偵〉なのに!」


「僕はそんなもんじゃないよ」

 ミロクさんはいつもの柔和な笑顔で答えた。


 改札で僕は二人と手を振って別れた。

 僕だけが下り線だった。

 階段を上がってホームに出ると、向いの上りホームにはちょうど電車が来ていた。

 ちさとのはしゃいだ声が聞こえたような気がした。


 電車が出ていくと、上りホームにはだれもいなかった。


 僕はプラスチックのベンチに座った。

 両手で顔を擦った。

 身体中の関節に煮凝りのような血が溜っていた。

 眼を閉じたらそのまま眠ってしまって二度と目覚めないような気がして恐ろしかった。


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