4.眼から隠すという露出(12)
「すみません」
ちさとが縹刑事に頭を下げた。
縹刑事はゆっくりと首を振った。
「お嬢さん、謝る相手は私じゃありませんよ。
十三貝さんが戻ってきたら、正直に話してきちんと謝りなさい」
「赦してもらえるかどうかはわからないけどね」
「村上。余計なことを言うな」
村上刑事は肩をすくめてみせた。
「でも、刑事さん」
ちさとは上目遣いに縹刑事を見ていた。
いつの間にか臆病なちさとに戻っていた。
日記を読んでいたときの彼女は、どこへ消えたのだろう。
「言いたいことがあるようですね」
縹刑事はちさとを促した。
「美奈子さんは――十三貝さんはもうここには戻ってきません、たぶん」
縹刑事はなにも言わず、充血した眼でじっとちさとを見つめた。
「あの……、日記が切られてるんです。
それで浅沼さんが推理したんです。
だから、もう十三貝さんは戻ってはこないはずなんです」
縹刑事はゆっくりと首を振った。
それから、ミロクさんを見た。眠たそうな眼だった。
「やっぱり探偵ごっこですか」
◆
「健次って人はどこ行ったの?」
村上刑事は運転席から首をひねって僕らを振り返った。
僕らは後部座席に三人詰め込まれていた。
ほかの二人がなにも言わないのでしかたなく僕が答えた。
「あれは存在しない人です。女のひとり暮らしに見えないようにって」
「ふうん」
村上刑事はエンジンをかけた。
「さて、説明というのを聞きましょうか」
「ここでですか」とミロクさん。
「署まで行きたいですか。今日中には家に帰れなくなりますよ」
「あ、早く帰りたいです」
ちさとが蚊の鳴くような声で答えた。
「十三貝のことが心配になったので――」
ミロクさんは説明を始めた。
初めから鍵は開いていたこと、あとから偶然僕とちさとも来たこと、白砂咲子名義の通帳が机の上に出してあったこと、日記の最後のページが切り取られていたことを要領よく話した。
それでも十五分くらいはかかった。
村上刑事は車を駅のコンコースに停めると降りていった。
戻ってきたとき、村上刑事はコンビニの袋を提げていた。
中から冷えた缶コーヒーを出して全員に配った。
「水岡さん、浅沼さんの言ったことにまちがいありませんか」
僕らが部屋に行く前にミロクさんがそこでなにをしていたか、彼の言う通りなのかどうかは疑わしい、日記を切ったのだってミロクさんなのかもしれない――とは、言わなかった。
話がこんぐらかるだけだ。
僕はもう疲れていて、早く家に帰って眠りたかった。
「はい」それだけ言った。




