4.眼から隠すという露出(9)
窓際の机には銀行の預金通帳とノートが出しっ放しになっていた。
ノートがそこにあるのはべつにおかしくない。
しかし預金通帳には違和感があった。
ひとり暮らしでも預金通帳を放り出したまま出かけたりしないだろう。
ミロクさんか、と僕は考えた。
彼はこれを僕らに見せるために机上に出しておいたのだ。
名義が十三貝美奈子ではなかった。
「白砂咲子」とある。
その名には心当たりがなかった。
どうして十三貝さんは他人名義の通帳なんか持っているのかわからなかった。
さすがにこれは素手で触れる気になれなかった。
ペン立てからサインペンを一本抜き取ると、その先で通帳を開いてみた。
結構頻繁に出し入れされている口座だった。
毎月二十七日に「サキコ」から十五万円の入金があった。
もっともこの金はその日のうちか遅くとも三日以内には全額引き出されていた。
そのほかには、毎月十日前後に「チューリング」、二十日前後に「カイン」から各々一万円ずつ振り込まれている。
チューリングの方は一年くらい以前に始まっていた。
カインはすでに二年以上続いていた。
おそらく〈サキコ〉は白砂咲子だろう。
チューリングとカインは?
個人名だとは決めつけられないし、どういう意味の毎月一万円なのだろう?
「鋭いな、トモ。通帳に気がついたか」
いつの間にかミロクさんが背後に立っていた。
僕が通帳を見つけるのを待っていたのだろう。
「これ、浅沼さんが探し出したの?」
「探し出したというか、そこにあったのを見つけたんだけどね」
――嘘だ。
「彼女の名義じゃないですね」
「白砂咲子って名に心当りは?
どうして他人の通帳を十三貝が持っているのか考える必要がある。
いろんな仮定は立つけれども、特定するにはデータが不足しているな」
「このチューリングとカインというのはなんでしょうね?」
「毎月一万円ずつの振り込みだよねえ……一万という額が微妙だよ。
どうして定額なのか、いったいどんな対価として一万円は妥当なのか」
「無尽じゃないんですか」
ちさとは僕とミロクさんの間から首を出して通帳を覗き込んだ。
「昔、うちのおじいちゃんがやってました、無尽講。
この前テレビで見たんですけど、どこかの地方では今でも盛んにやっているらしいです」
ミロクさんが笑いながら首を振った。
「それはないだろうね。三人じゃ三回で終わりだし、一万円ずつじゃ当たっても三万円にしかならないよ。
――トモはなにかないの?」
「援交かもしれません」
「月一万は援助交際にしちゃ安くないか」
「一万は基本料金なんですよ。
利用料金はその都度現金で払うシステムじゃないですか。
基本料金を払わないと、その月は会ってもらえないんです」
「えー、美奈子さんがそんなことするなんて信じられない!」
「本気で言ったわけじゃないよ。
もっとも、彼女がなにをしたって僕は驚かないけどね」
「そう……十三貝ならそういうことだったとしても、おかしくはないか……」
ミロクさんは僕が言ったことを真に受けたのか黙ってしまった。
ちさとは通帳の隣にあったノートを素手で開いて、指紋をベタベタつけていた。
まるで若菜なみの考えなしだ。




