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4.眼から隠すという露出(7)

「良かった」とちさとが言った。


 僕は首を振った。まだ喜ぶには早すぎる。

 明かりはずっとつけられたままなのかもしれない。

 あるいは、十三貝さんは自分の部屋に監禁されているのかもしれなかった。

 彼女が生きているのを、そしてその右耳が右目の横にまだついているのを、自分の眼で見るまでは安心できない。


「行ってみよう」


 四階建ての古いワンルームマンションだから、マンションの玄関にオートロックのドアなどない。

 各部屋の前までだれでも直接行ける造りになっている。

 僕らはエレベーターで十三貝さんの部屋のある三階へ上がった。

「十三貝健次」と表札の出ている部屋のチャイムを鳴らした。

「健次」というのは、十三貝さんの架空の同居人だった。


「表札に女の名前しかないのは不用心でしょ?

 中上健次の『健次』よ。

 そんなに好きな作家ってわけでもないんだけど、中上って頼りになりそうじゃない?

 少なくとも『トモノリ』よりは効き目がありそうな気がするわ」


 この部屋を初めて訪れたとき彼女が言ったことばだ。


 チャイムに反応はなかった。僕はもう一度チャイムを鳴らした。


「いないのかなあ?」

「風呂かトイレってこともある」


 ちさとがドアの覗き窓に眼をあてた。

 暗くて見えない、と言った。

 そのひとことを聞いた途端、僕の全身の血液は倍の速度で流れ出した。


「それは向こうからも覗いてるってことだよ。中にいるんだ、だれか」


 僕の台詞を待っていたかのように鍵をはずす音がした。

 しかし、ドアは開かれなかった。

 よく見ると、ドアの隙間にボルトが見えた。

 鍵ははずされたのではなく、今かけられたのだった。


「美奈子さん?」


 ちさとがドアの向こうに声をかけた。

 返事はなかった。


「美奈子さん、開けて顔を見せてください。それが嫌なら声だけでも聞かせて」


 返事はなかった。


「美奈子さんじゃないんですか。

 だれなんですか。

 ここは十三貝美奈子さんの部屋です。ドアを開けてください」


 やはり返事はなかったし、ドアが開けられることもなかった。

 しかし、ドアのすぐ向こうでだれかが息をひそめてこちらの様子をうかがっている気配があった。


「どうしようか」

「警察に連絡しよう。ケータイ貸して」


 僕はわざと中の人間に聞こえるように言った。

 そして、覗き窓から見える位置に立って、ちさとがバッグから出したピンクの携帯電話のボタンを押した。


 今度こそ鍵をはずす音がした。

 そして、ドアが拳一つ分ほど開いた。


「入りなよ」と中から声がした。


 ミロクさんだった。

 彼は照れたような顔をして突っ立っていた。


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