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4.眼から隠すという露出(4)

「つまりミロクさんはホモセクシュアルで、犯人は彼の恋人だったってことだね?」

「そう。どうだ、あたしの推理は?」


 僕は首を振った。

 論理が飛躍し過ぎてる。

 結論に向かって無理矢理過程をねじりまくっている。

 蓋然性と必然性がソバ飯みたいにグッチャグチャだ。

「九マイルは遠すぎる」って聞いたからって、必ずそこに殺人事件があるわけじゃない。


「だから、聞きたくなかったんだよ」


「はい、トモちゃん」と若菜が手を上げた。

「おまえまでか」


「なによ。いいから聞きなよ。

 マスターは途中までは合ってるの。

 どこまでかっていうと浅沼が警察以上の情報を持っていたというところ。

 でも、そこでマスターはまちがってんの。

 浅沼は犯人から情報を得たんじゃない。

 犯人の部屋で、たとえば被害者のパンツを見つけたとしてもよ、それが被害者のだってどうしてわかる?

 だれのかわかんないパンツを見て、犯罪に関係しているなんて普通思う?

 せいぜいこいつは下着ドロかって思う程度よ。

 被害者の物を見つけるには被害者がなにをなくしたか、犯人は被害者の死体からなにを持ち去ったか知っていなければならない。

 ここがポイント。

 押さえておいてね。

 じゃあ、知っていれば可能だったのかってことになるけど、そんな仮定を立てること自体がまちがいなわけ。

 だって、そんな情報は報道されなかったにちがいないし、当然浅沼も知るはずがないんだもん」


「それおかしくない?

 若菜は今、浅沼さんが警察以上の情報を持っていたことは認めたじゃない。

 それなら浅沼さんが知るはずないとは言えないんじゃないの?」


「そう、そこに自家中毒があるのよ」

 それは自己撞着だろ、と突っ込みを入れたが、若菜は聞こえないふりで先を続けた。

「浅沼になにかしらの根拠があったのはたしか。

 でなければ警察は素人の推理なんて相手にしないだろうし。

 でも、これだっておかしいわけよ。

 だって知らないはずの人間が知ってるってことだもん。

 もし、根拠となるのが物的証拠だとしてよ、その証拠が被害者の下着だったとするじゃない。

 そのとき、それが被害者の下着だって知っているのはだれ?

 そのパンツがだれのかいちばんよくわかっている本人はすでに殺されちゃってんだからね」


「だれ? 家族とか」

「冗談じゃないわよ。

 雅也にあたしのパンツとちさとのパンツの区別がつく?

 つくわけないでしょ! 絶対無理だとは言わないけど……もし無理じゃなかったら……あいつボコボコにしてやる!」

「若菜、なんか話がそれてるよー」


「それてなんかいないわ。

 あたしはパンツの話をしてるの。

 中身のないパンツなんてだれのだかわからないって。

 たったひとり、それを脱がした本人を除いてはね」


 若菜は僕らを馬鹿にしたように見回すと、冷めてしまっただろう紅茶を飲み干した。

 三年ぶりくらいに彼女が頭を使ったところを見たような気がした。


「だれが脱がしたの?」

「ちさとー、あんたも鈍いわね。

 パンツを脱がしたのは浅沼に決まってんじゃない。

 あいつはだれかから情報を得たんじゃないの。

 そんな必要はなかったわけ。

 だって全部自分がやったんだもん」


「駐車場の逮捕劇はミロクさんが仕組んだ偽装工作だったってことか」


「そう。トモ、真犯人は浅沼なの。

 捕まったのは、彼にロリコン制服フェチの濡れ衣を着せられた、かわいそうな、ただの中古車ディーラーってことよ」


 ちさとは絶句していた。

 こういう若菜を見るのは初めてだったのだろう。


「たしかあの犯人には死刑判決が下ったんじゃなかったっけ……?」

 マスターがぽつりと言った。


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