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4.眼から隠すという露出(3)

「まあ、そういうこと。

 犯人は開店前のパチンコ屋の駐車場に車で現れたところを逮捕された。

 犯人がそこに現れると警察は知って待ち伏せしていたんだね。

 犯人に警戒されないようマスコミには伏せられてたんだけど、ある新聞一紙だけがその情報を掴んでいて早朝の逮捕劇を写真におさめた。

 その写真は夕刊の特ダネ記事として使われた。

 犯人にね、私服の刑事たちがわっととりついていて、一見すると集団暴行みたいな写真だね。

 ――うん、僕は見たよ。

 その写真の切り抜きは〈パブロフ〉のスクラップブックに貼ってあるからいつでも見られる。

 その写真にね、ミロクさんが写っているんだ」


「単なる通りすがりの野次馬じゃないの?」


「いや、刑事たちが犯人に組み付いているかたまりのすぐ脇にミロクさんは立ってるんだ。

 無表情にその様子を眺めているって感じかな。

 隣にはカエルみたいな顔した丸刈りのオヤジが立っている。

 富田林さんによれば、そのオヤジが風炉素戸でミロクさんとコーヒー飲んでた刑事だってことなんだな」


「それって浅沼さんが事件を解決したってことなんでしょうか」

「本人はなにも言わないしね。僕が大学に入る前の話だからな、よくわからないね」


 若菜がカウンターを強く叩いた。

「たったそれだけであんたたちは〈名探偵〉とか呼んでるわけ?

 なに、それ?

 たまたま犯人を見つけて警察にタレ込んだだけなんじゃないの?」


 タレ込んだだって? ひゃあははは、とマスターが笑った。

 若菜は使用済みの紙おしぼりを投げつけた。


「若菜、それはないよ」

 ちさとが言った。

「捕まるまで犯人がだれかなんてみんな知らなかったんだから。犯人を見つけようがないじゃない」


「じゃあ、どうして浅沼は犯人がわかったのよ」

「だから……推理したってことじゃないのかしら?……」


「たしか」とマスターがヒゲを撫でながら近づいてきた。

「犯人は結構若い男だったよなあ。ちがうか」


「いや、高校出たての中古車ディーラー勤務だった」

「よく覚えてるわねえ、トモ」

「だれかの親父が犯人から車を買ったとかいうホラ話を事件のあとで聞いたんだよ。それで覚えてるんだ。

 でも、マスター、犯人が若いってことがなにか?」

「うん、ちょっとな……で、浅沼君って彼女とかいないんじゃないか。そういう話が出たこともないだろう?」


 僕はうなずいた。

 ミロクさんに関する限り女の子の噂は聞いたことがなかった。

 しかし、それと女子中学生連続暴行殺人事件とどうつながるのか。


「やっぱりな。だとすると、あたしの考えてることは満更はずれてもないようだよ。

 どう、聞きたい?」


 僕は首を振った。

 どうせろくでもない妄想に決まってる。

 しかし、若菜は、聞きたい、と鼓膜に突き刺さるような高い声で答え、ちさともうなずいていた。


 ――マスターによれば、ミロクさんは「恋人を売った」のだった。


 マスコミが伝えるだけの情報しか浅沼君が得ていなかったのなら、彼が推理して犯人を特定することは不可能だったはずだ、とマスターは言った。


 事件発生から約一ヶ月、その間にテレビや新聞、雑誌に流れた情報だけで推理が可能だったとは考えられない。

 もし可能だったとしても、それならミロクさんのほかにも真実に辿り着く人間がいたはずだ。

 しかし、他に〈名探偵〉が現れたという話は聞かない。

 マスコミ経由の情報だけでは真実を見抜くにはデータ不足だったはずなのだ。


 だから、浅沼君はわれわれが知っていた以上の情報を、マスコミ以外から得ていたはずなんだ、とマスターは断定した。


 浅沼君がすでに〈名探偵〉として警察からどんな情報も得られる立場にあったなら別だが、しょせん彼はただの大学生にすぎない。

 にもかかわらず彼が警察に先んじて犯人を指摘しているのは、警察が知らない情報を彼が知っていたことを意味する。

 となれば、情報の出所は犯人の側からしか考えられない。

 犯人との間になにかしらの関係が存在したことになる。

 犯人が彼に直接殺人を告白したとは考えづらい。

 おそらく彼は断片的な情報から、自分と関係のあるその人物が連続殺人事件の犯人だと推理したのであろう。


 警察が部外者の話を信じたからには、浅沼君の推理にはそれだけの根拠があったはずだ。

 容疑者の絞り込みさえできない事件では、アリバイがないといった状況証拠だけでは根拠たりえないだろう。

 被害者の遺留品のような物的証拠が存在したにちがいない。

 しかし、そんな物を容易く人目に触れるところに犯人が保管していたとは考えにくい。

 それを入手可能な関係というのは、単なる友人関係にとどまらない、家族にも等しい関係だったはずだ――


 というのがマスターの話だった。


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