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8.胸に転がる異物(8)

     ◆


 カツは二階のいちばん明るい部屋にいた。

 壁にもたれて床に座り込んでいた。

 膝には薄い本を開いている。傍らに十冊ばかり本が積み上げてある。

 僕に気づくと「やっぱ車谷長吉はいいわあ」と呑気なことを言った。


「なに借りた?」

「東インド会社」

「はあ?」

「ちょっと調べてみてえことがあってさ」

「突然東インド会社かあ」

「いやあ、転職しようかって、な」

 ヘヘヘ、と笑った。

「もう家に帰ったんか」


 僕は首を振った。

 そうか、と言って、カツは本に眼を戻した。

 今夜CDを取り返しに行く、と話した。

 つきあってくれってことか。そうだよ、いいじゃん。パタンッ、とカツは本を閉じた。


「おまえ、なに隠してる?」

「なにも」

「嘘つけ。

 ――あのなあ、トモ。

 兄弟だからって、無条件に信じてもらえるなんて、そんなお気楽な期待はすんなよな」


「耳のことで僕を疑ってるのか」

「だれも疑っちゃいねえ。おれにゃ関係ねえもん。

 可能性のあるやつがぞろぞろいて、おまえもそん中のひとりだってだけだ。

 おまえが犯人だっていいんだ、おれには関係のない話だからな」


「僕はやってない」

 僕は自分そっくりの顔を凝視した。

「信じてくれないのか」


「おまえ隠してることあるだろ?

 そいつがはっきりしないうちは、おれにはなんとも言えないね。

 式の一部が欠けてるのに、答えなんか出せねえよ」

「そっちだって僕に隠してることがあるだろ?

 ここんとこ様子が変だぜ、カツ」


 僕らの間に、埃がきらきら光りながら、舞っていた。

 夏の青臭い匂いがした。

 カツは、人指し指のない右手で、眼の下の汗を拭い、はだけた胸をポリポリ掻いた。


「正直になろうよ、カツ。お互い隠していることを話そう。それでいいだろ?」


 どこへ行っても、今日は正直になる話ばかりだった。

 しかし、自分の口から、こんなことを言うとは――。

 伝染性正直に感染してしまったのかもしれない。


 おまえからだ、とカツは言った。


 僕は十三貝さんとの関係を話した。

 カツは、はあ、と言った。

「変な気の回しすぎだよ。

 双子だからって、なにも一緒に童貞捨てなくたっていいんだからさ。

 自分だけ女の子とつきあうのはまずいってか?

 なんだかなあ……クローネンバーグじゃあるめえし。

 そのうち、ひとりの子を共有しようなんて、ふざけたことを言い出しかねねえな、おまえ」


「馬鹿言うなよ」

 脳裏に若菜の顔が浮かんで、僕は赤面した。

「次はおまえだ。カツが隠しているのはなんだよ?」


 カツは、図書館が貸してくれる布製の手提げ袋に、本を突っ込み始めた。

 一冊一冊、厚さを確認して、手提げ袋が太らないように、入れていく。

 こいつ、聞くだけ聞いて、話す気がないのか、と腹を立てかけた頃、親には言うなよ、とカツはぼそっと言った。


「なんだよ、そんな凄い秘密か」

「凄いよ。お袋なんか聞いたら、今朝の騒ぎどころじゃないぜ、きっと」


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