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次元都市アクシス  作者: 七夜
01 終わりと始まりの世界
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Chapter03-3

 二人はなんやかんやと揉めていたが、結局ルナリアが折れた。ノインは依然としてすまし顔であり、あの牙城を崩すのは相当に難しいと考えられる。

「で、その≪タグ≫とやらに装備一式が詰まっていると」

「正確には、≪タグ≫一つにつき一つの装備ね。まとめて収納もできるけど、一つずつ取り出すことは出来ないから個別にした方が取り回しがいいのよ」

「嵩張る物でもなさそうだしな。どうやって取り出すんだ?」

「簡単よ。連結開始(リンク・オン)

 ルナリアがいつぞやか聞いたことのあるワードを口ずさんだ直後。

 彼女の左手首に装着されていた≪リンカー≫が淡い黄色の輝きを放ち始めた。

 続けて右手に持った≪タグ≫の腹にあるボタンを、親指でカチリと押し込む。

 変化は一瞬だった。

「うわっ!」

 まばたきすらしていないのに、いつの間にかルナリアの右手にはライフル銃のような武器が出現していた。

 スナイパーライフルと言うには全体的にやや短く、あくまで持って動き回ることを想定しているらしい形状。銃口に当たる部分にはプリズム状のパーツが取り付けられていて、陽光を七色に照り返している。

「こ、この武器は?」

「≪サイレントルーラー≫。私のメインアームなんだけど、これに関する説明はまた今度ね。そして、仕舞う時も同じ手順で……この通り」

「おおっ」

 トリガー付近を弄ると武器は霞みのように消え去り、ルナリアの手元には入れ替わるように≪タグ≫だけが残っていた。

「私たちが使う次元兵器は基本的に≪タグ≫を内蔵する構造になってるから、一々持ち替える必要もないって訳」

「よく出来てるんだなぁ。さっきのリンク・オンっていうのは? まあ大体察しはついてんだけど」

連結開始(リンク・オン)は≪リンカー≫を起動させるためのコマンドよ。ちなみに逆は、連結終了(リンク・オフ)

 流れで発せられたコマンドに従って、ルナリアの≪リンカー≫が輝きを失った。

 スイッチらしきものは見当たらなかったが、そういう仕組みだったのか。

「次元技術を用いた道具を動かすには次元エネルギーを供給する必要があって、≪リンカー≫はその中継器なの」

「エネルギーの大元は管理局本棟の地下にあって、確かウル、ウロ……」

「ウロボロス機関」

「それだそれ! 難しい理屈は知らんが、そこでエネルギーを生み出してるらしい」

 ウロボロスって名前自体は時々聞く。

 ゲームとかでは無限を象徴しているということで何かと大役を頂いているイメージだ。

 きっとそのウロボロス機関とやらも大層なものなんだろうが、それに関しちゃノインの「使えれば問題ない」という一言で片が付く。

 発電所みたいなもんだと思っておこう。

「でもエネルギーって使うのに金かかんじゃないのか? 電気代みたく」

「室長ってば、本当に最低限のことしか説明してないのね……ガーディアンなら≪リンカー≫を経由して幾らでも使えるわよ。勿論タダで」

「タダなの!?」

「それに≪リンカー≫並みに小型化された供給装置なんて市井には出回らないから、ガーディアンの特権って結構大きいのよね」

 フューリーが言ってたガーディアンの特権ってのがこれか。

 俺の世界で当てはめるなら、それこそ電気代光熱費が全部無料になるようなもんだ。しかもどこにいたって引き出せる。そりゃ凄い。でも命がけだしなぁ。

 次元エネルギーに実際どれほどの価値があるのかわからない俺には、この特権が命をかけるに値するのか判断しかねた。

 ――ラッドやルナリアたちはどうなんだろう。

 俺は別段葛藤することもなく、その場の勢いみたいな感じでガーディアンになることを決めてしまったが。

 彼らは、一体どういった理由でこの道を選んだんだろうか?


「見えてきましたよ!」

「ん、あれか」

 フィーダの声に思考を中断され顔を上げると、彼女が指さす先に巨大な倉庫とビルがくっついたような建造物が佇んでいた。

 本棟と比べれば小さいが、それでも都市の建物と比べると倍以上の大きさだ。俺の通ってた高校の校舎なんて倉庫部分にすっぽり収まってしまうだろう。

 ラッド曰く、倉庫っぽい部分が工房で、くっついてる建物が実験棟らしい。まあ、概ね印象通りだ。

「じゃあ、わたしたちは装備置いてきますね!」

「一〇分後には戻る」

 目的地へ着くなり、フィーダとノインは工房へと入っていってしまった。

 出入り口前で待ち合わせすることになり、彼女らが作業をしている間、俺はラッドとルナリアに連れられて実験棟の中を回ることになった。

「つっても、ここにしたって常日頃から通うようなとこじゃないけどな。月始めの健康診断とか、室長に個人的な呼び出しを食らったときくらいか」

「健康診断なんてあんの?」

「次元兵器の中には肉体に直接作用するタイプもあるからな。安全性は確保されてるらしいが、やっとくに越したこともないだろ」

「個人的な呼び出しってのは?」

「それならルナリアの方が詳しいだろ。オレは全然呼ばれねえし」

「そうね……私が呼ばれる時だと、大体新しい制御回路のテストね。実際に武器を使ってターゲットを撃ちながら、その時の脳波を測定したりとか」

「へぇ、何か実験っぽいな」

「そりゃ実験棟だからな」

 と、他愛もない会話をしながら飾り気のない廊下を歩いていたら。


「おや、こんな所で会うとは奇遇だね」


 手前の部屋から、白衣の女性がにゅっと顔を出してきた。

 フューリーだった。

「きゃあ!?」

「ひぃ!?」

 話題の人物が突然現れたことに両隣の二人が妖怪にでも遭遇したような悲鳴を上げる中、俺は呆れを隠すことなく話しかける。

「もっとまともな登場の仕方は出来ないのか?」

「むむ、春近君はあまり驚いてくれなかったようだ」

「実験棟って時点で、何となくこうなる気はしてたからな」

「ハハハ、良い勘をしているじゃないか」

 何が嬉しいのか朗らかに笑いながら、フューリーは首から下も廊下側へと出してきた。

 俺が部屋を出た時はそこに残っていたはずの彼女が何故俺より先にこっちへ来てるのかは謎だが、久道さんのような例もあるし驚くことはない。

 でも、出ていく時にフューリーは「また明日会おう」って言ってたような気がしたんだが。

 そのことについて尋ねてみると、

「むしろ驚かされたのは私の方だな。君は自ら実験棟に来るような人間ではないと思ったから、日を改めて呼び出すつもりだったんだが」

「昼過ぎくらいにならないとまともに都市を回れないって聞いたから、ラッドたちに局内を案内してもらってたんだ。こっちに来たのはフィーダとノインの用事のついで」

「あぁ、彼女たちは工房の常連だったね。特にフィーダ君の兵器や機械に対する熱意は凄まじいものがある」

 若い頃を思い出すなぁと、しみじみと呟くフューリー。

 この人も充分若く見えるけどな。見た目や雰囲気的には瑞葉さんよりも大人っぽいけど。

 女性に対する年齢に関する話はタブーだと思うから触れない方針だ。触らぬ神に祟りなし。

「そうそう」

 不意にフューリーは俺から視線を外し、

「ラッド君やルナリア君も、時間を取らせてすまないね。彼を引き込んだ以上、本来ならば私が案内をするのが筋だと思うが」

「へ!? そ、それはまあ、こんなんでも先輩っすから!」

「今日は予定とかなかったので、むしろ丁度良かったかなって思ってました!」

 二人の狼狽っぷりが凄まじい。

 ガーディアン的にはフューリーは直属の上司だし、敬意をもって接するべき人物なのかもしれないが、これは尊敬というか恐怖に近いな。

 慌てふためく二人を他所に、フューリーは平常運転である。

「なら良かった。私としても、若者同士の方が気兼ねなくやり取りができると思っていたのでね。春近君の様子を見る限りでは、秀一君の判断に間違いはなかったようだ」

「その点についてはお陰様で。ていうかフューリー室長は久道さんを働かせすぎだろ。入居手続きとかも本来あんたの役目なんじゃないか?」

「押し付けていることは否定しないが、彼は昔から苦労性なんだ。面倒を背負いこむ体質なのかな? 何にせよ、助かっていることは事実だね」

 いっそ清々しいレベルの開き直りだった。

 久道さんが将来禿げたとしたら絶対この人のせいだ。

 とは言え久道さんも文句を言いつつ従っているあたりに、二人のパワーバランスが見えてくる気がする。

 極めて実直そうな人物である久道さんからすれば、常に飄々としていて何を言われようと自分のペースを崩さない彼女は天敵なのだろう。

 その後も実験棟の第一印象だとか職場環境に不満はあるかなど、次々と飛ばされる短い質問に当たり障りのない解答をしていく。気分は街頭アンケート。

 まだ管理局の全容を把握できていないし、仕事が本格的に始まった訳でもないので何とも言い難いのだが、現状には満足してると言っていい。少なくとも同僚はみんな親切だ。

 正味五分ほど立ち話を続けたところで、ふとフューリーがちらりと横を見やる。

 あれはどうやら時間を確認する時に特有の動作らしく、実際に見えるようになってわかったことだった。

「少々立ち話が過ぎたかな。私も実験中なのだった」

「どんな実験をしてたんだ?」

「それは結果が出るまでのお楽しみと言っておこう。そうだ、折角会えたのだしこちらは今渡してしまおうか」

 するとフューリーは白衣のポケットを漁り、銀色の何かを取り出す。

 どこかで見たような覚えのあるそれは、先ほど現物を目にした≪タグストレージ≫に他ならない。

「ガーディアンの基本装備一式が入っている。まとめて吐き出してしまうから、展開は部屋に帰ってからをお勧めする。空になった≪タグ≫は好きに使うと良い」

「え、くれるのか?」

「都市では割と一般的なツールさ。安い物ではないが、迷惑料もかねて一つくらい快く進呈しようじゃないか」

 半ば放るように手渡された≪タグ≫を、俺はついじっくりと見てしまう。

 考えてみれば、この世界由来のものを手に入れたのはこれが初めてだ。あのナノマシンは貰ったというより押し付けられたに近いのでノーカンだ。

 うーん、何だか感慨深い。

 今すぐ試してみたい衝動に駆られるも、注意された手前なので自制する。フューリーの言ではないが帰ってからのお楽しみにしておこう。

「それでは失礼する。君たちも引き続き、案内を頑張ってくれたまえ」

「は、はい!」

「了解っす!」

 最後にラッドたちをひとしきりビビらせて満足したのか、フューリーは特に後を引くことなくするりと部屋の中へ戻っていく。

 しばしの沈黙の後、二人はドッと息を吐き出した。

「びっくりした……」

「危うくショック死するとこだったぜ」

「流石に緊張しすぎじゃないか? 話してみれば案外面白い人だぞ」

「いやいやいやいやいや! あの人は実際ヤバい。つーか容赦がない。笑顔で『今回は死んじゃうかもね?』とか言って実験させてくるとことかマジでヤバい」

「あなた、よく室長とあんな気安く喋れるわね。局の偉い人ですらあの人には頭が上がらないのよ?」

「んなこと言われてもなぁ……」

 尊敬と畏怖が半々の視線を浴び、思わず頬を掻いてしまう。

 俺の中でのフューリー像は、滅茶苦茶頭は良いけど人間的にはだいぶ残念な人物として固まってしまっている。やらかすことの規模は違えど、ちょくちょく子供っぽいのだ。

 根っこの部分ではそれなりに善人であることも確認済みだし、あれだけ気安い態度をとった後で今さら畏まった態度を取るのもどうかと思った。

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