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次元都市アクシス  作者: 七夜
01 終わりと始まりの世界
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Chapter03-1 アクシスの人々

 フューリーと会話していた部屋を出て、まず俺は別の部屋で制服に着替えた。どうせこの後生活必需品の買い出しへ行くために管理局を出る予定だし、寝間着のままでは問題があるだろう。

 鞄の方はどうしたもんかと悩んでいたら、久道さんが手品のようにパッと消してしまった。話によると≪ブリンカー≫という装置で俺が入る予定の宿舎に転送したらしい。早くも次元技術の片鱗を味わったぜ。

 着替えも終わり久道さんに連れてこられたのは、俺が目覚めた部屋から二分ほど歩いた先の開けた空間。ソファやテーブルなどが置かれた休憩スペースのような場所は、管理局の窓際に面したラウンジだそうな。

 そこで遂に俺は、他のガーディアン――これから一緒に働く同僚たちとご対面したのである。

 男女の入り混じるグループからの視線を一身に受けた俺は開口一番、久道さんに「こう言えば問題ない」と移動中に教わった通りに挨拶をした。


「俺の名前は友柄晴近! 東京で学生をやってたんだけど、フューリー室長に呼ばれて都市に来たら何か知らん内にガーディアンになってた! よろしく!」


 ……おい、本当にこんなんで大丈夫なのか!?

 馬鹿正直に言われた通りやったけど、振り返ってみたらとんでもなく胡散臭いぞ。俺だったら間違いなく何だコイツってなる。

 やってしまった感がハンパない。

 ほら、もう既にみんなの俺を見る目が可哀そうな奴を見る感じになってるし。

 久道さんに助けを求めたかったが、あの人はラウンジへ入る直前に「野暮用がある」と言ってどっかにテレポートしてしまった。頼れるのは己だけだ。

 かと言ってこの静まり返った空気をどうすることもできず笑顔のまま硬直していると、一番手前にいた俺と同い年くらいの少年がツカツカと歩み寄ってきて、


「……お前も、大変だったんだな」

 泣きそうな顔でポンと、俺の肩に手を置いて来た。


「へ?」

「おっとみなまで言うな! オレにはお前の気持ちがよーくわかる。ていうかガーディアンやってればあの人の滅茶苦茶さは嫌でもわかる!」

「そ、そうなのか」

「だから困ったことがあったらお互い様だ。オレはラッド・マイヤーズ。これからよろしくなハルチカ!」

 最後にラッドはそう名乗りながら、爽やかな笑顔でサムズアップしてきた。

 なるほど。

 フューリー室長は、どうやらとことん普段の行いが良い(・・)ようだ。

 俺に集まる視線は同情の視線だったのか……。

 その後もラッド以外の面々から自己紹介を受けつつ、何故か一緒に労いの言葉をかけられていく。

「瑞葉・ベイカーだ。まあ、フューリー殿の奇行はこれに始まったことではない。すぐに慣れるさ」

「ミハイル・グッドマンと申します。大丈夫、友柄様はまだまだお若い。きっとこれからの人生で良いことが多々あるでしょう」

「ノイン・クラッツァ。半ば誘拐に近い形でありながら、銃を取る覚悟を持つに至ったトモノエ・ハルチカに小官は敬意を表する」

「やった後輩――じゃなかった、わたしフィーダ・レティエです! これでもハルさんより先輩ですから、どんどん頼っちゃっていいですからね! わたし先輩ですからね!」

 約一名、物凄くテンションが高い子がいるんですが。

 やけに先輩って部分を強調してくるな。ていうかハルさんって。

 それにこのノインって子、ちっちゃくないか? 少なくとも俺より二つか三つは年下っぽいぞ。シアちゃんともあんまり変わらないんじゃないだろうか。

 随分と個性派揃いのようだが、全体的にだいぶフレンドリーでよかった。フューリーをダシに使ったみたいで悪い気もしなくはないけど、指示してきたのは久道さんだ。俺は悪くない。

 

 そして、最後の一人は。

「ルナリア・カミカワよ。突然こんなことになって混乱してるだろうけど、私たちが出来る限りサポートを……って、どうしたの? 私の顔に何かついてる?」

「あ、いや。顔を見てたっていうか……」

 確かに目の前にいるルナリアは元の世界でも滅多にお目に罹れない美少女だったが、それよりも気になったのは彼女の声だった。

 何か、どっかで聞いたことがあるような――

 

『ミラーポイント集中配置――連結開始!!』


 ふと脳内で再生されたあの時の音声が、ルナリアの声と一致した。

 そうか、どうりで聞き覚えがあった訳だ。

「あの時のレーザーって、もしかして君が?」

「そういうあなたは、確か三番ラインで女の子と一緒にいた……」

「やっぱりそうか!」

 色々と落ち着いてからお礼参りに行こうと思っていたが、わざわざ探す必要はなくなったようだ。

「その節はありがとう、おかげで助かった!」

「べ、別に礼を言われるようなことはしてないわ。私はガーディアンとして、当然の義務を果たしただけなんだから」

 全力で頭を下げると、何故かルナリアは目に見えてあたふたし始めた。

 言葉ではそう言いつつ満更でもなさそうな辺り、単にお礼を言われるのに慣れていないのだろうか。

 しかしそれでは困る。あそこで助けてもらっていなければ俺もシアちゃんも二人揃って人生終了していた訳で、こちとら感謝してもしきれないのだから。

「それでも助かったのは事実だからさ。目が覚めてから、命の恩人にはちゃんとお礼を言いたいと思ってたんだ」

「だから良いんだってば!」

 更にひと押しすると、困惑から一転して険しい表情になったルナリアはより一層ムキになった。

「ああもう、元はと言えば室長が自分で招いた人材の管理をちゃんとしてなかったからあんなギリギリの綱渡りに……それに、あなたもあなたよ!」

「え、俺!?」

 思わぬ飛び火に、面食らってしまった。

 おのれフューリー室長!

「次元兵器どころか、≪リンカー≫も装備してない状態で変異体に立ち向かうなんてどういうつもり? 戦う力がないならすぐに逃げなきゃ駄目じゃない!」

「んなこと言われても、逃げようにもあの子を見捨てる訳にもいかなかったし、見捨てて自分だけ生き残るなんて死んでもごめんだったし……」

「死んだら元の子もないでしょうが。全く、私たちが間に合わなかったら本当に危なかったんだからね」

「ああ、その点に関してはすっげー感謝してる。マジでありがとうな」

「だからお礼なんて……はぁ、もういいわ」

 唐突に始まったルナリアによるお説教は、結局ルナリアが折れたことによって終了した。

 厳しい物言いも俺やシアちゃんのことを本気で心配してのことだろうし、やはり根本的にいい子なのだろう。

 これがあれか。

 いわゆる、ツンデレというやつなのだろうか。

 リアルでは初めて拝んだなぁ。

「そうカッカすんなよルナリア。オレはハルチカの男気に中々グッと来たぜ」

「黙ってラッド。そもそもあんたが微妙に揺らしたせいで、晴近のことまで撃ち抜きそうになったんだからね!」

「うへぇ、まさかの藪蛇!?」

「移動足場の本分すら果たせないか。ラッド・マイヤーズには失望した」

「だ、誰か! 誰か俺の味方はいないのか!?」

「大丈夫ですラッド先輩! 私も瑞葉さんやミハイルさんのことをミサイルで吹っ飛ばしそうになったので!」

「……いや、流石にそれは引くわー」

「わー裏切られたー!?」

「うん、相変わらず青春しているな。いいことだ」

「またそのようなことを……お嬢様もまだまだお若いのですから」

 あっという間にギャーギャーと騒ぎ出す、ガーディアンの若いメンバーたち。俺らよりも少しお姉さんっぽい瑞葉さんや、男の理想を体現したようなナイスミドルのミハイルさんは遠巻きにそれを見守っている。

 何っつーか、賑やかだな。

 フューリーから散々に脅されたこともあり、命がけの現場である以上はそれなりに殺伐としていると思っていた。

 蓋を開けてみれば俺とそう年齢の変わらない人物も多いし、何より雰囲気が明るい。

 これなら、うまくやっていけそうな気がした。

「どうやら、随分と打ち解けたようだな」

「あ、久道さん」

 とここで、しばらく席を外していた久道さんが戻って来た。瞬間移動ではなく、ちゃんとドアからである。

 同時に、視界の端に新規メッセージを受信したという通知が表示される。

 送り主は、やっぱり久道さんか。

「一足先に友柄が入居する予定の局員用宿舎で手続きを済ませて来た」

「へぇ、そうなんですか……え?」

 通知に気を取られてつい流しそうになったが、何だって?

「もう部屋にはいつでも入れる状態だ。宿舎の場所と部屋の番号は今送ったメッセージに記載されている」

「あ、ほんとだ。ここから結構近いっすね」

「あと、ついでに備え付けの家財のリストも添付しておいた。準備費はライセンスの発行と同時に振り込まれている。他に必要なものがあるなら後で揃えると良い」

 至れり尽くせりか!

 アフターサービスが充実しすぎている。命のやり取りさえなければ理想の職場なんじゃないのこれ。

 てか野暮用って、俺の入居手続きのことだったのか。いくら瞬間移動が使えるからってこの人働き過ぎなのでは?

「疲れてるでしょうに、何から何まですみません」

「大した手間ではない。お前は被害者のようなものなのだから、ケア出来る部分はしていかないとな」

 言葉通り、久道さんの態度は年長者らしく余裕のあるものだった。

 ……かっこいい。

 これこそ出来る大人。男の中の男って感じだ。

 同じ大人でもフューリーとは安心感が違う。あの人はむしろ人を不安にさせる天才なのかもしれない。

 あれ、なんだかここに来て室長の株価が大暴落してるぞ?

 いやまあシアちゃんを助けてくれた上に俺にも色々教えてくれたし、これからも授業とかしてくれるみたいだし、いい人なんだろうけどね。

 久道さんの登場によって、いつの間にか騒ぎも終息している。教室に先生が入ってきた時と似てて懐かしい。朝に異世界へ飛ばされてまだ昼前だというのにそう感じてしまうのは、それほどこっちで過ごしている時間が濃いからだな。

「さて、顔合わせは一通り済んだと思う。作戦終了後に待機してもらったのは御覧の通り、フューリーが呼び寄せた新人を紹介するためだ。よって今をもって此度の防衛戦を終了する。全員、よく頑張ってくれた」

 彼の言葉に対する、みんなのリアクションは様々だった。

 瑞葉さんとミハイルさんはただ小さく頷き、ノインは当然のことだと言いたげな無表情。フィーダとラッドは単に仕事が終わったことを喜んでいて、ルナリアは何やらブツブツと呟きながら反省しているようだ。

 俺は特に何もしてないので、そんな彼らを眺めていただけ。

「今日は解散とするが、ベイカーとグッドマンはこの後話がある。他の者たちは緊急の指令がない限り自由だが、手隙なら友柄に局や都市の案内をしてやってくれ。友柄もそれで構わんな?」

「はい。俺としては」

「オレらも全然オッケーっすよ」

「うむ、では俺からは以上だ」

 最後に久道さんがそう締めくくり、ガーディアンたちの今日の仕事はひとまず終わったようだった。

「では皆様、お先に失礼させて頂きます」

「近い内にゆっくり話す機会を設ける。その時は茶でも振る舞おう」

 二人は先の宣言通り、久道さんに連れられてラウンジを後にしていった。

 どうやら俺は後日、瑞葉さんとのお茶会が確定したようだ。

 綺麗なお姉さんとのお茶会。うーん、嬉しいやら恥ずかしいやら。コミュニケーション力は人並みにある方だと思うんだが、相手が美人だとやはり緊張してしまうんだろうな。

 んでもってラウンジに現在残っているのは、俺とラッドにルナリア、フィーダにノイン。若手メンバー勢ぞろいって感じだ。久道さんはそれなりの年っぽかったが、ガーディアンの平均年齢自体はそこまで高くないのだろうか。

 まあ、その辺のことも聞いてみればわかることだろう。

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