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98、モモ、小さな秘密を知られる~鉄壁のポーカーフェイスを誰かください!~前編

 扉を押し開くと、元気のいい声が聞こえて来た。


「いらっしゃいませー! 『魔法のお菓子(タニーマ)』に、ようこそ!」


「空いてる席はあるかな?」


「あっりますよー。奥のお席にご案内!」


 三つ編みが可愛い店員さんの笑顔が弾けてる。その元気を分けてほしいよぅ。カイの腕の中で桃子はそんな風に思っていた。


 ストンと椅子の上に下ろされて、ホストな尋問者が向かい側に座る。レリーナさんは右横に座る。コの字型で椅子に座った三人は、対照的なほど表情が違う。気分的にしょぼんとした桃子はカイから怒られるのを怖がって俯きがちだし、カイは不自然な笑顔を浮かべ、レリーナはいつも通りのクールな顔だ。 


 桃子には持ちえないポーカーフェイスが今はとっても羨ましい。心の中で右往左往しながらカイの顔色を窺うと、にぃーっこりと目が笑っていない笑顔をもらう。


「ごめんなさい」


「もう降参!?」


 即座に白旗を振った桃子に、カイが驚いたように突っ込んだ。ほっ、よかった。いつものカイに戻ってくれたようだ。レリーナさんがクスクスと笑う。固い雰囲気が壊れたので安心して桃子も笑う。


「困ったおちびちゃんだな。真面目な話をするつもりだったのに、笑わすなんて」


「そんなつもりはなかったよ? でも、怖い顔より笑った顔の方がいいなぁ」


 いつも優しい顔をしていることが多いから、真顔だと別種の怖さがある。怒から激怒に漢字が変わる感じ? ……ダジャレじゃないよ?  


「そんなこと言われたら無表情でいるのは無理だね。これでも、今回ばかりはモモを叱らなきゃいけないかと、心を害獣にしていたんだけどな」


「心を鬼じゃなくて?」


「おに? モモのとこじゃそう言うの?」


「うん。怒りたくないけど怒らなきゃいけない時に使うの」


「意味は同じだな。こっちじゃ、使うのは害獣だけどね。恐ろしいものという意味で子供を叱る時にはよく使われるんだよ。たとえば、子供が夜に遊び歩けば害獣に殺されるぞとかね?」


「おぉぅ、過激だねぇ」


 幼女らしくない声が出ちゃった。なんか驚いた時の口癖になってる? ねぇねぇ、叫ぶ? 叫んじゃう? いつものカイに戻ってくれたので、隠れていた五歳児精神がわくわくしながら出てくる。しないから。店の中で「幼女もどきでごめん!!」なんて叫ばないからね! 


 桃子が五歳児の自分にそう返していると、店員さんが踊るような足取りでやってきた。楽しそう。きっとすんごくお仕事が好きなんだろうねぇ。 


「おっまたせいたしましたー。お水をどうぞ。今日のお取り扱いはこちらの一覧になってまーす。アタシ的には、リンガのタルトがおすすめです! 味見させてもらったんですけど、とっても美味しくて、結局ホールごと買って食べちゃいましたもん!」


 あははははっ。なんて笑ってるけど、このお姉さん笑顔でとんでもないこと言ったよ!? 驚きのあまりに、その凹凸しっかりついた体系をしげしげと見つめてしまう。うぅぅ、そのドーンとしたお胸にカロリーが吸収されてるの? いいなぁ! 


「へぇ、すごいね君。じゃあ、オレはそれにしようかな。モモとレリーナはどうする?」


「わたしはお腹が空いていないので紅茶だけ頂きますね」


「はぅ。わたしもカイと同じのにする」


 お胸よりお腹のお肉になりそうだけど、それほど美味しいのなら食べてみたい。そう言いつつも、昨日から今日にかけて食べ過ぎな気がしてるんだよね。……今日だけ今日だけ。こそこそと五歳児が囁く。うんうん、今日だけだよね! 今は半分くらいまでお腹が減ってるから、美味しく食べれてしまうのが切ない。ぽよんぽよんに進化しないように帰りは走って帰ろうかなぁ。


「あっりがとうございまーす! すぐにお持ちしますねー」


 お姉さんがとびっきりの笑顔で下がっていく。テンションも口調も弾けてる。冷静なバル様とこのお姉さんが話してる姿をちょっと見てみたい。明るい夏と澄んだ冬の組み合わせは面白そうだ。




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