表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/372

97、カイ、幼馴染に頼まれる

カイ視点にて。

 カイがキルマからとある頼まれごとを引き受けたのはつい先日のことであった。一日の執務を終えてバルクライが帰宅したのを見届けた後に呼び出されたのだ。


 執務室でカイを待っていたのは、物憂げな様子を隠せない幼馴染だった。話を聞けば、その内容たるや……カイは、よりによってこの時期に、と天井を仰ぎたくなった。なにしろキルマの口から飛び出したのは、そうするに相応しい内容だったのだ。


 そうしてカイはこれよりしばらくの休日を幼馴染の相談事の為に使うことを決めたのである。……女性達との楽しいデートを断って。


 最近はモモを構うのに忙しくて、不特定の女性達と楽しく過ごすこともなかった。だから今回の休日で、久しぶりに誘いに乗ろうと思っていた矢先の頼まれごとだったわけだ。

 

 そういうわけで、カイはせっかくの休日にも関わらず私服姿で一人さみしく街を歩いていた。


「と、言っても宛もないし、どうするかな……」


 計画もなくただ街を歩くのでは散歩と代わらない。立ち並ぶ商店を流し見ながら腕を組んで考える。ちらちらと女性の秋波を頬に受けているのを感じて、2人組の女性にぱちりとウインクを送ってみた。きゃあっ! と黄色い悲鳴を頂く。楽しい反応だ。何の予定もなければ誘いかけてもよかったんだけどな。そう思いながらカイは流し目をくれて、再び歩き出す。


 すると、その先に見慣れた小さな姿を見つけた。きりりとした横顔が可愛いが、ちょこちょこした足取りで入っていく先は、驚いたことに請負屋だった。


「は? なんでモモが請負屋に……?」


 モモの後ろには護衛役のレリーナがくっ付いている。それはつまり、彼女はこの事態を黙認しているということだ。これにはカイも混乱する。どう考えても場違いな場所に、幼女のしゃんとした背中が消えていった。……バルクライ様は知ってるのか?


 いや、顔にはあまり出ないが、モモに心を砕いているバルクライが自分の目が届かない場所で幼女が請負屋に出入りするのを許すはずがない。おそらく、いや、絶対に知らないのだろう。これは場合によっては報告義務がある。カイはモモ達が出てくるまで入り口近くで待つことにした。事情聴取だ。


 人の出入りを見ていると、故郷の一回り小さな請負屋を思い出す。カイも騎士団に入団する前は、よく仕事を受けていたものだ。騎士団を目指し、キルマと一緒に故郷を出るまで、資金集めや生活費の為に働いていた。


 数年前のことを思い出しながら待っていると、モモが出てきた。カイが近づくと、わかりやすくぎくりと固まるので吹き出しそうになる。悪い意味の隠しごとではないのだろう。可愛い顔にどうしようと書かれていた。


 カイは極めて真面目な顔を作りながら、モモを抱き上げた。相変わらず軽い身体だ。驚いてはいるが素直に抱き上げられたままの幼女に、誘拐の心配が過ぎる。こんなに素直なのはオレだからだよな? 


「知らない相手に急に抱き上げられたら抵抗するんだぞ?」


「え? う、うん?」


「いい子だ。それじゃあ、ちょっと付き合ってもらうぜ。どうして請負屋に出入りしているのかを話してもらうよ?」

 

 戸惑いながら頷くモモを連れて、カイはどこか座って話せそうな店を探す。居酒屋ではガラが悪い者も多いし、子供には合わないだろうな。どこかいい場所……考えながら視線を通りに巡らしていると、レリーナが控えめに口を開いた。


「反対側の通りにあるお菓子屋さんはどうですか? 店内で椅子に座って飲食することも出来ます」


 カイは指さされた場所に目を向けた。煉瓦作りで煙突がある店だった。そこはカイも女性と訪れたことがある人気店で、扉が開くと嬉しそうな女性客が箱を抱えて出てきている。


「あぁ、あそこか。いいよ。お兄さんが奢ってあげよう」


 モモを抱っこしたまま道を挟んだ反対側に渡っていく。大人しく首に小さな手を添えてくる幼女は、へなんと眉を下げている。可愛い困り顔に何も聞かずとも許してしまいたくなる。が、そこは理性を呼んで耐えた。


 キルマがこの場にいたら蕩けた顔で頬ずりしながら黒も白にしてしまったかもしれない。あいつ、モモには甘いからな。オレもこの子が相手だと怒りにくくて困っちゃうぜ。カイは口元に上る笑みを隠しながら、真面目な顔を作るように意識した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ