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92、モモ、ご機嫌になる~お仕事も遊びも全力の方が楽しいよね~後編

 ペンや紙を動かす細やかな音だけがする部屋に、どことなくのんびりした空気が流れる。桃子は上機嫌で、バル様の手を時々にぎにぎして遊んでもらう。五歳児、大満足! 


 しばらくそうしていると、扉がコンコンとノックされた。


「入れ」


 バル様が入室を許可すると、案内役をしてくれた女の人が入って来た。


「失礼します。副団長当てのお手紙を届けに参りました」


「あぁ……またですか。荷物も届いているのですか?」


「はい。中身を確認させて頂きましたが、いつものお野菜でした。そちらは一階でお預かりしていますが、いかがなさいますか?」


「いつものように食堂にそのまま渡してください。これから先も野菜が贈られて来た場合はそのまま食堂に回して構いません」


「では、次回からそうさせて頂きます。お手紙と確認のご署名をお願い致しますね」


 キルマはため息をついて手紙を受け取ると、差し出されたボードに自分の名前を書き込んだ。そして、受け取った手紙を机に置くと、退室する彼女に向けて苦笑する。


「いつもすみませんね」


「いえ、これも仕事ですから。それでは、失礼しました」


 案内係の女の人は一礼して出て行った。キルマは美麗なお顔に憂いを乗せて、椅子に座り直すと、机の引き出しから銀のペーパーナイフを出して手紙の封を切る。


 野菜と手紙という不思議な組み合わせに興味を引かれて、桃子はじぃーっとキルマを見つめる。野菜を作るのが趣味な女の人が、私の野菜を食べてってラブレターと一緒に贈って来たとか? 女性と見まごうばかりの美貌の持ち主でも、キルマは歴とした男性だから、その可能性はあり得る。


 手紙を流し読んだのか、キルマはそれを再び畳んで封筒に入れ直すと、引き出しにしまう。どんな相手なのか気になるね。キルマはそんな桃子の視線に気付いていたようで、少し笑って手紙の相手を教えてくれた。


「母からの手紙ですよ。いらないと言っているのに、いつも自家製の野菜を一緒に贈ってくるので困りものでしてね」


「キルマのお母さん」


「えぇ。未だに子供扱いされていますよ。もう何年も帰っていないので、たまには帰って来なさいと催促されるのもいつものことです」


 ため息を吐くキルマに、桃子は疑問に思う。あんまり嬉しそうに見えない。なにか事情があるのかな? でも、あんまり聞き過ぎるのも迷惑かもしれない。どうしようかと迷っていると、手をきゅっとされた。顔を上げると、バル様が桃子の目の中になにかを探すように見つめて、納得するように頷いた。黒いお目めになにか見えたの? 


 バル様の視線がキルマに移る。


「気が重いのは妹君が理由か?」


「それもあります。昔は兄妹としての仲も良かった方だったんですよ。しかし今は一方的に嫌われていまして。理由ははっきりしていても、解決するものではありませんし、私も途中で煩わしくなって今はあえて関わる気も湧きません」


「そうか」


「私は嫌いというわけではないのですが……」


 上手く説明出来ない複雑な感情がキルマの胸にはあるのだろう。桃子にはなんとなくその気持ちがわかる気がした。一方通行の気持ちは、時々心を辛くする。


「オレはお前がルーガ騎士団に居ることで助かっている」


 バル様がさらりと言った。飾り気のない言葉は直球なだけキルマの胸を打ったようだった。


「……まったく、あなたは時々呆れるほどの人たらしになるから油断できませんね」


「なんのことだ?」


 キルマが頬を染めて目を逸らす。眉を顰めているが、それが本心でないことは桃子でなくてもわかることだろう。端的だけれど、それがバル様の本音なんだろう。不思議そうな様子に嘘の気配はなかった。そんな風に言える相手がいることは素敵なことだね! バル様達の関係には上司と部下という関係以上の信頼と絆が見える。その仲間に桃子も入れてもらえていることがとても嬉しかった。





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