表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/372

85、モモ、ウサギになる~ぎゅってされると悲しい気持ちも飛んでいくよね~中編

 桃子は門番さん達に手を振って、レリーナさんと一緒に門を潜る。レンガ造りの短いトンネルみたいだ。門はあるけど、騎士団本部との距離はお城よりも近いから、そんなに歩かなくてもすぐに建物の前にたどり着く。


 開かれた建物の中に入ると、緑の団服を来た団員さん達からまたもや視線を頂く。お邪魔します。輝かしいスマイルを今こそ炸裂させる時! ニコーッっとフラッーシュ!! 必殺技っぽく頭の中で叫んでみたけど、ほんとはただの笑顔です。


 普通の顔だと泣いたのが丸わかりだから恥ずかしいんだもん。でも、愛想のいい子だと思われたのか、厳つい団員のお兄さんが二人、近づいてくる。


「おちびちゃん達は団長に用事かな?」


「うんっ! バル様に会いに来たの」


「バルクライ様はいらっしゃいますか?」


「今の時間帯なら訓練場にいると思うぜ」


 なんと! 訓練をしてるのなら、バル様の格好いい姿が見れるかも……眼福の予感に胸が高鳴る。わくわくしてきたおかげで、悪夢の余韻も忘れられそうだ。


「そうなのですか。それでは、受付はどちらに?」


「受付は入ってすぐのそこ。今日の担当はあの人がそうだよ」


 お兄さんが指さしたのはボードのような物を片手に立っている女性だった。なにか書き込みをしながら誰かと足元の荷物の確認をしているようだった。


「レリーナさん、行ってみよう。お兄さん達、ありがとう」


 桃子はお礼を言うと、レリーナさんと一緒にお姉さんに近づいた。お姉さんはすぐに気づいて来てくれる。そして視線で桃子達を確認した後に一つ頷く。


「お話しは聞いています。一応確認しますが、ご用件は団長にですか?」


「はい!」


「えぇ、そうです」


「そうですか。では、このボードに名前を書いてください」


 お姉さんに手渡されたボードを、レリーナさんが桃子に回してくれる。一緒に渡されたペンを握って、丁寧さを心がけて名前を書き込んでいく。手が小さすぎるのもあるけれど、やっぱりまだ下手だから、ミミズが苦しんでるみたいだ。


 読めるけどね。読めるけど……ミラに手紙を書くのはもうちょっと、いや、だいぶかかりそう。せめてミミズが怯える程度のレベルになりたいよぅ。ボードをレリーナさんに渡すと、ペンがスムーズに動いている。いいなぁ。


「……モモちゃんとレリーナさんですね。訓練場までご案内します。付いて来て下さい」


 お姉さんは微笑むと、荷物の箱を開いている男の団員さんにボードを渡して、先導してくれる。親切な人だね! 二人はその後を付いて行く。


 廊下を真っすぐ進んで反対側まで行くと、お姉さんは開け放たれた扉から外に出た。桃子達も差し込む光の中に出て行く。


「うわぁ……!!」


 桃子は興奮して歓声を上げた。左側には木造建ての宿舎があり、左側には赤い屋根の大きな建物が立っている。その二つに挟まれるように真ん中に訓練場が大きく広がっていた。奥には乗馬の訓練をしている団員さんやドラゴンに騎乗して歩行している姿も見えた。

 

 ドラゴンの姿に感動していると、すぐ傍で囃し立てるような声が上がる。

 

「カイさん、そこっ、そこっすよ!」


「バルクライ団長!」


「やれーっ!」


「おおおっ、躱したぞ!?」


 前の方で白いシャツ姿の団員さん達の人だかりが出来ていたのだ。名前を呼んでいることからも、カイとバル様が何かしているようだ。案内役のお姉さんが嬉しそうに言う。


「運が良かったようですね。団長と補佐官が試合をしているなんて。もしお時間があるのでしたら見て行きませんか?」


「見たい!」


「私もぜひご一緒したいです」

 

 桃子が即答すると、レリーナさんも興味深そうに同意してくれた。だってこんなの滅多に見られないよね! さっそく眼福のチャンス到来!!

 

 お姉さんは大きく頷いて、颯爽と人垣に突っ込んでいく。囲んでいる団員の肩を叩いて何事か話すと、手招きされる。桃子達はわくわくしながら団員さん達の間を通らせてもらう。親切にも一番前の特等席を譲ってくれたようだ。キィン、キィンと剣が討ちあう音がしてくる。


そして、人垣の間を抜けた先の光景に感嘆した。


 「わぁぁぁっ、すごい……」


 バル様とカイが剣を打ち合っている。カイがどこに打ち込んでもバル様は受け流し、打ち払い、最後の一手を決めかねているようだった。どちらも真剣な顔をしている。カイの髪は大きく乱れ、バル様も白いシャツの背中がしっとりと汗に濡れている。


 黒い目がすっと細まり、剣が素早くカイの胴を薙ぎ払おうする。カイは剣先を読んでいたように後ろに飛び離れて距離を取り、じりじりとバル様の出方を伺う様子を見せた。


「さすが団長。やっぱり強いな。単純に腕力だけならいい勝負なんでしょうが、技量という意味ではやはり、貴方の方が一枚上手だ。でも、オレも酔狂で補佐をしてるわけじゃないんでね」


「…………来い」


「行きますよ!!」


 バル様が剣先でカイを指す。その誘いに乗り、カイが駆け出す。そして、今度はカイが大きく上から切りかかった。体重を乗せた攻めに、バル様は紙一重で避けると、剣を振り下ろした状態で地面に片膝をついていたカイの首元に、剣の握りから刃にかけての部分をぴたりと当てた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ