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81、モモ、頑張る~リズムがあるとお仕事は進みやすいもの~

 お花をー置いてー巻きまーす巻きまーす。

 フンフンと小さく歌いながら、桃子は嵩張る花束を腕一杯に抱えて紙で巻いていた。作業台の下に置かれた箱には出来上がった花束が刺さっており、いっぱいになるとレリーナさんが運んでくれる。そろそろお腹の空き具合から見てお昼が近いね。今日のお昼はなにかなぁ? バル様のお屋敷のご飯はとっても美味しいので毎日の楽しみだった。ご飯、大事。そう思ったところで、桃子は重大なことを思い出す。


「はうっ! そう言えば、お仕事に来てるからお屋敷まで帰ると時間がかかっちゃうんだった」


 桃子の短い足を考慮すると、行って帰ってくるだけでも随分と時間がかかる。労力を考えるなら外で買った方が早いだろう。幸いにもバル様からもらった巾着の中にはまだ十分なお金が入っている。でも、お屋敷を思い浮かべると、キラキラしいメイドさん達が微笑んだ。せっかく用意してくれたのを食べないのも心苦しいし、頑張って帰ってみようかなぁ。明日は外で食べるか、もし手間じゃないのなら、お弁当をお願いするべきだろうか。


「もう用意しちゃってるかな?」


「大丈夫ですよ。今日仕事になる可能性を考えて、モモ様がお帰りになってからお作りするように伝えてありますから」


「本当? さすがレリーナさんだね! がっかりさせずにすんでよかったぁ。せっかく作ってくれたのを食べてもらえないのって切ないもんねぇ」


 心配が一つ減ったので、桃子は安心して作業を続ける。朝からやっているので要領は掴めた。サクサク仕事が進んで行くのは気持ちがいい。また一つ完成したものを箱に入れていると、遠くで鐘が鳴った。お昼? お昼かな? 今日はお外で買ってみよう。レリーナさんと初めての買い物だね! わくわくしていると、出入り口からエマさんが入って来た。


「そろそろお昼にしましょうか。四人共、奥で手を洗っていらっしゃい。簡単なものだけどこちらで用意してるからね」


「はーい!」


 元気よくお返事を返す。時々ぷっくりしたお腹が気になるけど、やっぱりご飯食べないと元気でないもんね。野菜だけのあの修行生活を思えば、味が濃すぎたりしなければなんでも美味しく食べられるよ。 


「モモも行くわよ」


 リジーが手を引いてくれる。洗面所まで連れて行ってくれるようだ。面倒見がいいお仕事仲間だね。後ろでレリーナさんがエマさんに尋ねる声がした。


「私もよろしいのですか?」


「四人も五人も一緒だから遠慮しないで。息子達が買い付けに出てしまってるから、しばらくは私一人なの。賑やかな食事は久しぶりだから嬉しいわ」


「そうですか。では、ありがたく頂きますね」


 このお店をエマさん一人で回すのは大変そうだもんね。3日間なのはどうしてかなぁとは思っていたけど、息子さん達が街の外に出てるなら話はわかる。害獣が繁殖期になる前に向かったのかもしれない。人も襲われるってバル様も言ってたしね。


 リジーに抱っこしてもらって、お手々をばしゃばしゃっと洗う。さっぱりしました! 相変わらず視線が厳しいギルも無言で手を洗っている。短期間のお付き合いなんだろうけど、せっかくのお仕事仲間だから仲良くしたい。


 だけど、相手はハリネズミだから困ったもんだ。オレに話しかけてくんなって空気を感じる。しつこくしても余計に嫌われるだろうし、チャンスを待ってみようかな。本気で嫌がってるなら、関わらないことを選ぶのも一つの手だ。


 初対面で理不尽に罵られてむかぁっとしたけど、話してみれば、ちょっぴりかもしれないけど、ギルの気持ちを理解出来るかもしれない。リジーとは仲良くやれそうだし、今はあんまり考えないでおこう。考えすぎると頭がバーンってなっちゃうからね!


「手はしっかり洗った? 大丈夫ね? じゃあ、移動しましょう。作業部屋の裏が自宅のリビングなのよ」



 エマが作業部屋の裏に招いてくれた。そこには大きな四角い木製のテーブルが置かれており、その上に湯気が立っている料理が並んでいた。何かの葉っぱのスープに、蒸かしたお芋と、野菜サラダ。木の実が練り込まれたパンだ。これが一般的な家庭料理なのだろう。鼻を使えば、香りだけでお腹が鳴りそうだ。


「モモちゃんはそこね。他の子達は好きな席に座って。さぁ、皆で頂きましょう」


 エマが指さした席にはクッションが三枚敷かれていた。バル様のお屋敷のテーブルよりも低いので、これで桃子でも料理に手が届く。


 リジーがパンに手を伸ばすのを見て、桃子は小さいスプーンを使ってスープを口に含む。さっぱりした味にほんのりピリッと刺激がある。唐辛子みたいな香辛料を使っているのだろう。美味しくて、身体がぽかぽかしてくる。


「とっても美味しいです!」


「ほんとね!」


「そう? 嬉しいわ。たくさん食べて午後も頑張ってね」


 桃子とリジーの言葉に、エマさんが楽しそうに笑う。素朴な味は祖母の味を思い出させた。桃子の祖母も濃い味を好まずシンプルな味付けを好んでいた。時々物足りなく感じることもあったが、それでも桃子は祖母の料理が好きだった。エマさんの味はそんな祖母の料理に似ていた。


 木の実パンは少し固めだった。ギルがスープに付けて食べているので桃子も真似してみる。そうするとふやけて食べやすくなった。むぐむぐ頂く。美味しいよぅ。


 蒸かし芋はジャガイモ味だ。色も似てるし、これも似た名前なのかもしれないね。どれも美味しくて、桃子はニコニコしながら食事を続けたのだった。



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