78、モモ、お仕事をする~小さくても目標を持つことはいいことです~後編
「どうせ、興味本位なんだろ」
「そんなことないもん!」
聞き捨てならなくて、思わず反論する。だって、この仕事を得るためにレリーナさんにも手間をかけてもらったんだから。そういう事情も知らないで決めつけられるのは嫌だ。桃子の中で五歳児も両頬を膨らませて抗議している。絶対に完遂してやるって気持ちは誰よりも強いよ!
「ギル、言いすぎだよ。あなたが貴族を嫌うのは勝手だけど、こんな小さな子を理不尽に責めるのは止めなさい。生まれや家族は誰にも選べないんだから」
「モモ様も落ち着きましょう。お気持ちは私が十分わかっていますよ」
「……ふん」
「ごめんなさい」
睨み合いに発展しそうだった所をリジーとレリーナさんが止めてくれたので助かった。桃子もムキになったことを恥じて謝る。五歳児に引きずられていたのもあるけど、十六歳の桃子も怒っていたのだ。
「仲直りしたのなら、私はモモちゃん用に木箱を持ってくるわね?」
エマさんはにこにこしながら、部屋を出ていく。作業台は桃子の背丈より高いので、台代わりになるものがあるのはありがたい。始めるまでに時間はありそうなので、リジーの隣に行くことにする。ギルとリジーの間に作業台があるので、これ以上は喧嘩にならずにすむだろう。
「あの、リジーも仲介屋さんから依頼を受けたんだよね?」
「そうよ。わたしは十七だから、本来ならもっと上の依頼も受けられるはずなの。だけど、請負人になって日が浅いから駄目って断られちゃってね。いずれは害獣討伐にも出るつもりよ。でもその前に、仲介屋から依頼がもらえるように経験を積まないと」
「害獣をやっつけるのって危なくないの? ルーガ騎士団の人達もするって聞いたよ?」
「危ないかもしれないけど、わたしは自分の力を示したいの。ルーガ騎士団になんか負けないわ!」
リジーの目の色が変わった。ルーガ騎士団をライバル視するなんて、意識が高いんだなぁ。体つきは十六歳の桃子よりも背が高いだけで、一見すると鍛えているようには見えない。でも、もしかしたら物凄く運動神経がいいのかもね。
スレンダーな体形、つまりお胸があんまりないのでそこに親近感が湧く。そうだよね。誰もがお胸に恵まれているわけじゃないよ! 世界基準がどのくらいなのかわからないけど、お胸のなさで異世界1位を取る可能性が減っただけいい。……同率1位の可能性があることは忘れよう。
「さぁさぁ、これでモモちゃんの可愛い顔がよく見えるわね」
リジーと話していると、エマさんが木箱を持って来てくれた。桃子の足元に置けば、作業台の高さがちょうど良くなる。
「リジー、モモちゃんに作業の仕方を教えてあげてね。私は桶に水を入れてくるわ」
「はい、わかりました。それじゃあ、モモ。一緒にやりましょうか」
作業台の上には色分けした花々と白い紙が分けて置かれていた。まずは、白い紙を前に持ってきて、その上に右から順番に花を一つずつ乗せていき、茎を紐で縛る。最後に紙と一緒にクルクルっと巻いて、下を折り曲げて捩る。完成した花束は、床に置かれた桶に立てかけて出来上がりだ。
「簡単でしょ?」
「うん!」
「今度は自分でやってみて。わたしも仕事に戻るから」
ギルとリジーの前に置かれている花もそれぞれ色と種類が違うようで、そちらも目に楽しい出来栄えになるようだった。こういう綺麗な花束を贈ったら、バル様も喜んでくれるかな?
「モモ様」
レリーナさんの声に我に返る。いけない、いけない。お仕事中はお仕事に集中しないとね。桃子は傍で控えるレリーナさんに頷き返して、さっそく白い紙を手に取った。




