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77、モモ、お仕事をする~小さくても目標を持つことはいいことです~前編

 お花屋さんは遠くからでもわかりやすかった。大きなピンクのお花が一階と二階の間の外壁にくっ付いていたのだ。微妙に花びらの大きさが違うから、手作り感があってほっこりするね。


 お店の中に入ると、桶に入れられたお花がちょっとだけ顔を見せていた。10個以上の桶はほとんどが空だ。まだお店の始まる時間じゃないのかな? でももう時間的にはお昼が近づいている。桃子はお店に入ると声をかけた。


「誰かいますかー?」


「はーい。あら、可愛いお客さんだこと。ごめんなさいね、まだ売り物のお花は用意が出来ていないの」


 中から出て来たのは小柄なおばあさんだった。この人が依頼主のエマさんかな? なにか作業中だったのか、お花のエプロンを着けていた。


「私、お客さんじゃないです。仲介屋さんの依頼を受けて来ました」


「確かに私が依頼を出したわねぇ」


 エマさんは困ったように頬に手を当てる。五歳児が相手だもんね。任せられるか不安になるのは仕方がない。ここは美人な護衛さんにお任せしよう。後ろをちらっと見れば、心得たものでレリーナさんが前に出た。


「ギャルタスさんのご紹介を受けて来たのです。私が保護者としてフォローしますので、安心してください。もちろん、私の分の料金は頂きません。その代わりに手助けは基本的にこの子に限りますが」


「あら、そうだったの。保護者の方と一緒なら働けそうねぇ。でも、こんなに小さな子がどうして? 何か事情があるの?」


「この子が恩人に自分のお金でお礼をしたいと言いまして」


「小さいのに立派な考えねぇ。いいわ! この店でいいのなら、働いてもらいましょう。仕事は裏でやっているの。こっちよ」


 エマさんは感心したように頷いて、桃子を手招く。その後ろを付いていくと、隣の一室を作業場にしているようで、今の桃子より四、五歳年上の男の子と、元の年齢より三歳くらい年上に見える女の子が、色とりどりのお花を白い紙に包んで花束を作っていた。


「二人とも、もう一人可愛いお手伝いさんが来てくれたわよ」


「えっ? 後ろの人じゃなくて、そこの子、ですか?」


 茶髪に灰色の目の女の子は驚いたように桃子を見た。レリーナさんと五歳児を見たら、働きに来たのは大人だと思うよね。五歳児ですみません。でも、頑張るから仲良くしてくれると嬉しいなぁ。


「モモです! よろしくお願いしまっしゅ!」


「だ、大丈夫ですか!?」


 おろおろするレリーナさんにこっくり頷く。肝心な所で噛んじゃったよ。緊張してたせいもあったんだろうけど、絶妙なタイミングだ。舌が短いから? 口の中も心も傷を負って桃子は涙目になる。はぅ……痛い。


「ふ……っ、あははっ、それ痛いよね」


「ひゃい」


 女の子が笑い声を上げる。シーンとされるよりよっぽどいいよ。痛めた舌を労わりながらゆっくりと返事を返す。男の子はそっぽを向いて反応してもくれない。笑われるならまだしも、無反応は切ない。なんか嫌われちゃってる?


「わたしはリジーよ。あなたが働きに来たなら、その女の人はどうして一緒なの?」


「私がちっちゃいから保護者として来てくれた護衛さんだよ」


「けっ、お前貴族かよ!」


 不機嫌そうな声は男の子のものだ。紺色の髪の間から、空色の目が忌々しそうに桃子を睨んでくる。貴族アレルギーなの? 私は貴族じゃないんだけどなぁ。


「ううん。私は違うよ。ただ、保護してくれてる人が偉い人で心配して付けてくれたの」


「貴族に保護されてるなら、お前は別に食うものに困ってるわけじゃないんだろ? どうして来たんだよ」


「それは……」


 どう言えばいいかな? お礼がしたくてなんて正直に言うと、さらに反感を買っちゃいそう。服に解れた部分を何度も縫ったあとがあるから、裕福な家ではないのだろう。だから不満があるのかもしれない。しかし、そういう貧富の差はどこにでも存在する。目の前の少年がそうであるように。



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