71、モモ、働きたがる~集団を纏められる人は不思議な魅力があるんだよ~前編
バル様を笑顔で見送った後、桃子はレリーナさんにさっそく相談を持ちかけた。内緒話をするように小さな手をよせて、こっそり耳打ちすると微笑みが返って来た。
「……秘密にしてくれる?」
「えぇ。それでは、請負屋に行ってみましょうか」
というわけで、お散歩する速さでテクテク歩いてやってきました請負屋さん! バル様のお屋敷からルーガ騎士団に続く通りを逆方向に進んで行くと、そのお店は見えて来た。近づけば他の店の二倍の大きさがあることに気づく。木造の二階建てで横幅が大きく取られているのだ。屋根には丸太を掘り出したような大きな看板が乗っかっており、文字が彫られていた。
頭の中で読めないはずの文字が日本語訳されるのが面白い。請負屋としっかりと文字が読める。不思議な現象だけど、あまり気にしないことにしておこう。ちゃんと読めてるからいいよね!
開かれた入口からは様々な人が出入りしているようだった。如何にも猛者と言わんばかりの体格のお兄さんから、十歳くらいの女の子まで実に気軽そうに出入りしている。怖い場所ではなさそう? 入ったらいきなり、子供がなんのようじゃい! とか言われないといいなぁ。想像したら緊張してきちゃった。桃子はどきどきしながら請負屋の看板を見上げた。
「……よし! 行こう」
「まずは受付ですね」
両手と両足を一緒に出ていることに気付かないまま、桃子は請負屋に踏み込んだ。中は広くて受付と近くにテーブルが三つ置かれていた。そこでなにやら話し合う人のグループがいたり、手元の紙を熱心に眺めている人もいる。受付には忙しそうに動き回るお姉さんやお兄さんの姿が遠くに見えた。
桃子は足の間を縫うように進んでいく。小さな桃子に怪訝な顔をしたり、好奇の目が向けられる。その後ろに続くレリーナさんを見つけて、鼻の下を伸ばしたおじさんもいた。美人さんだもんね。
そうしてそびえ立つ受付けを前に困り顔になる。顔が見えないや。どうしようかなぁ。とりあえず声を上げてみよう。
「すみませーん! お仕事を受けるにはどうすればいいですかー?」
声を張って上に叫んでみると、物音が聞こえた。たぶん見えないから探してくれてるんだね。視線をもうちょっと下に! 下に落としてもらえれば見えるはず!
桃子は手を振り振り、存在をアピールした。大人が立ったまま対応する受付けだから、身長が足りないのだ。お姉さんの視界には指先が見えるか見えないかだと思う。そうしていたら、後ろから両脇に手が差し込まれて持ち上げられる。
「うふふ、お手伝いしたしますね」
レリーナさんに抱っこしてもらう。柔らかな腕の中でようやく受付けのお姉さんの目に入った。第一印象は大事だよね! はっきり聞こえるように意識して声を出す。
「こんにちは!」
「あら、こんにちは。ちゃんと挨拶出来てえらいわね。ここはお仕事を紹介するところだけど、どうしたのかしら?」
「私もお仕事したいです!」
「えぇ!? でも、あなた三歳? いえ、しっかりしているようだし、五歳くらいかしら? どちらにしても、依頼を受けるには幼過ぎると思うわ」
「請負屋では仕事を受ける上で年齢は問われないはずですよ?」
やんわりと断りに入る受付けのお姉さんに、レリーナさんがそう言った。確信のある口調に違和感を覚えたのか、お姉さんが細い眉を僅かに寄せた。
「あなたは?」
「以前、ここで仕事を受けていた者です。今回はお仕事体験をさせたくて、この子を連れて来ました。もし、年齢で躊躇いがあるのでしたら、私が保護者として監督しますから心配は無用ですよ」
「しかし、当請負屋では基本的に八歳くらいから仕事を受けて頂くようにしているのです。複雑な事情がある場合は考慮しますが、あまりにも幼いと仕事を受けても達成出来ない可能性が高いので」
普通の子供だったらそうなるよね。至極真っ当な理由に桃子はしょんぼりした。お姉さんが困り顔になる。ごめんよ、お姉さんを困らせたいんじゃないけど、身体と中身が違うなんて説明出来ないし、うーん、どうしよう。




