7、モモ、保護者様(仮)にお願いをする~五歳児でも出世払いはききますか?~後編
「いや、これも保護の一部に含まれるから金は必要ない。話を戻すぞ。十六歳ということで、子供のように騒がないことには納得した。しかし、お前はあまりに落ち着き過ぎている。酷な質問をするが、帰りたいとは思わないのか?」
「うーん。どっちでもいいかな」
正直に答えると、驚いた顔をされた。
「なぜです? モモには親御さんやお友達が向こうにいないんですか?」
「なにそのすごい寂しい人! ちゃんといるよ? ほんとだからね? 友達と会えないのは寂しい。それもほんと。だけど両親はねぇ、そんなに心配してないと思うんだよ」
「は? いやいやいや、子供が居なくなったんだぜ? 親なら心配するだろ? まさか、モモは親になにか……」
カイが真顔になった。イケメンの真顔怖し! 悪い方に勘違いさせちゃったかな? そんな深刻な話じゃないよぅ。
「違うよー。私の両親って仕事が大好きな人間でね、私にはあんまり興味がなかったんだよねぇ」
「……そうなんですか?」
「うん。誕生日には、毎年プレゼントが届いてたから、嫌われてたわけじゃないと思うけど。基本家に居ない人達だったから、私を育ててくれたのって亡くなった祖母とお手伝いさんなんだよ。今は自分で料理も掃除も出来るようになったから、一人暮らしみたいな感じ。だから、お母さん達は私が居なくなっても積極的に探さないよ、きっと。その時間があるなら、仕事に打ち込みたいタイプの人間だもん」
たぶん、これが正しい。昔は寂しくて泣いていたが、祖母が亡くなった時に諦めた。
寂しいのをずっと抱えて生きるには、桃子は幼かったし、ウジウジしてるのは性に合わなかったのだ。一番の友達、千奈っちゃんと会えないのは寂しいけれど、帰れないのなら仕方がないと割り切れる。
「だからね、着る物・食べるもの・住む場所があればどっちでもいいよ。そもそも帰れるの?」
「……わからない。モモは召喚されてこの世界に来たから、普通の迷人とは条件が違う。だが、オレが知る限り、メイトが帰れたと聞いたことはない。」
「あ、そうなんだ? じゃあ、この世界で頑張らないと! まずは職業探しかなぁ? 力仕事は無理でも、計算ならいけるかも。算盤ならってたから暗算は早いの。ちびっちゃくなった私でも出来る仕事ってある?」
小さな手をにぎにぎして三人を見まわすと、カイとキルマがうっすらと涙を浮かべていた。なんで?
二人は椅子から勢いよく立ち上がった。
「オレが引き取る! でもって寂しくないように、一杯可愛がる! モモの為ならなんでも欲しい物を買ってやるぜ!」
「いえいえ、ここは私です! 私の方が財力ありますし、あなたみたいな女性好きより、正しい淑女に導けます!」
「……身分ならこの中ではオレが一番だと思うが」
ぽつりと落とされた声に二人の言い合いが止まる。もしもし、ねぇ、忘れてる? 本物じゃないの。今の私はなんちゃって幼児だよ! この世界でも後1歳で成人なのに、職にあぶれるのは嫌だ。ひもじい思いはしたくない。
桃子は椅子から飛び降りて、三人の前に仁王立ちした。腰に両手を当てて精一杯主張する。
「私は16歳です!」
「忘れてはいない。しかし、その姿のお前をすんなりと働きに出すわけにはいかないのだ。モモの身体に異常がないか検査して、健康状態を正しく把握しなければな。それからのことはゆっくり考えればいい。別にモモの一人や二人、オレ達なら養ってやれるぞ」
「えぇ、そうですとも。モモは子供時代のやり直しとでも思って、私達に甘えておけばいいんです」
「仕事の前に元に戻る方法を探さなきゃな。その方が働き先も見つかるんじゃないのか?」
なるほど。確かにそうかもしれない。自分で16歳と言っておきながら、この身体が馴染み過ぎて、そっちを忘れていた。ここは三人の言葉に甘えておいて、大きくなる方法を探してから仕事先を紹介してもらおうか。
うんうん悩んでいる小さなの頭の上で、三人の男は目配せし合う。こうして、本人が知らない内に桃子はころころと丸め込まれていくのであった。